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記事一覧 > 【from Europe vol.1】
ヨーロッパ4都市のスタートアップエコシステムを徹底比較!

去る2020年3月初旬、RouteX Inc.では、近年スタートアップの躍進によって再び世界中の脚光を浴びているヨーロッパ4都市を調査し、最新のスタートアップエコシステムの情報をキャッチアップしました。

今回訪問したのは、ヨーロッパの中で都市単位では特に顕著な発展を見せている以下の4都市です。

現在では、イノベーションをより早く社会実装し世界中に変革をもたらすポテンシャルを持つスタートアップを生み出すべく、世界中の様々な都市で独自のスタートアップエコシステムが発展を見せています。

その中でもヨーロッパのエコシステムは、世界で最も早く発展しもともと生活水準の高い地域であるという特性と、27の国が加盟するEUの経済圏を生かした独自性を持っているといえます。

本記事では、ヨーロッパ全体のスタートアップエコシステムの概観と、現地調査に基づいた各都市の特色について報告します。

目次

1. ヨーロッパのスタートアップエコシステム概観

2. 各都市の特色①:ロンドン

3. 各都市の特色②:ベルリン

4. 各都市の特色③:パリ

5. 各都市の特色④:アムステルダム

6. まとめ


1. ヨーロッパのスタートアップエコシステム概観

みなさんは地域としてのヨーロッパにどのような印象をお持ちでしょうか?

歴史的な建造物や著名なアート作品を目的として観光された方や、留学やビジネスを目的として渡航された方も多いかと思います!

ヨーロッパは第一次産業革命やアフリカの植民地支配を経て、世界で最も早く経済発展した地域として知られています。第二次世界大戦後、植民地が次々と独立し、IT分野におけるアメリカの急速な経済発展と、中国をはじめとするアジア地域の安価な労働力に押されているものの、27の国が加盟する経済圏・EUをもって世界においていまだ存在感を示しています。

ではスタートアップエコシステムという切り口において、ヨーロッパはどの様な特色を持っているのでしょうか。以下3つの観点から着目していきたいと思います。

①エコシステムとしてはいまだ発展途上

Credit: Atomico

まず年間のVCによる投資額を比較します。

イギリスに拠点を置くVC・Atomicoの調査によると、アジアとアメリカは2018年をピークに2019年は投資額が減少に転じているのに対し、ヨーロッパは引き続き投資額を伸ばしています。これはヨーロッパのエコシステムが着実に成長していることの証左であると考えられます。

一方、投資額はアメリカの約1/3、アジアの約1/2であり、経済圏の規模を鑑みても発展途上であるといえるのではないでしょうか。また、比較的高い教育水準を持つヨーロッパでは、人材のスタートアップエコシステムへの流入によってさらに成長が加速する可能性があります。

②Deep Tech分野に注力

Credit: Atomico

分野別ではFintechやe-Commerceといった、既存のビジネスとの親和性の高い分野に加えて、Deep Techと呼ばれる、最先端の技術を用いたスタートアップへの投資額が増えていることがヨーロッパの特色と言えます。

これはイギリスやフランス、ドイツをはじめとした先進国の大企業や研究機関では、高い研究水準を生かした最先端技術が蓄積されており、これらを社会実装するために大学発スタートアップやスピンオフの形で表出してきているからだと考えられます。

実際にフランス・パリでは、世界最大のDeep Techコミュニティ・Hello Tomorrowが2011年が設立され、Deep Techの研究者や事業会社・投資家等をグローバルに接続する取り組みが行われています。詳しくはこちらをご覧ください。

③各都市によって異なる特色

Credit: Startup Genome

ではここからは、都市ごとの競争力にフォーカスします。Startup Genomeでは競争力のある世界中のスタートアップエコシステムを都市ごとに順位付けしていますが、Top10にヨーロッパからはロンドン、パリ、ベルリンがランクインしています。また15位のアムステルダムは昨年度から4つ順位をあげており、急速に成長していることがわかります。

ではここからは上記の4都市の特色について、現地での調査をもとに詳しく説明します。


2. 各都市の特色①:ロンドン

特色
①既存の産業を生かしたFintech分野が大きく発展
②Brexitの影響を見込んだ積極的な起業家・投資家支援政策
③高い教育水準を生かした新規分野への進出

ロンドンはヨーロッパの中でスタートアップエコシステムが最も早く発展しましたが、その発展を牽引したのが、ヨーロッパを代表する金融産業とのシナジーの高いFintech分野です。またロンドン内にはGeneral Assemblyのようなスタートアップスクールも数多く存在します。詳しくはこちら

もともとはロンドン中心部に位置するOld Street地区にコワーキングスペースやインキュベーターが集中しており、そこから数々のFintechスタートアップが勃興しました。

過去にはOld StreetにあるGoogle for Startupsを取材させていただいております!詳しくはこちらをご覧ください。

近年では、ロンドン市がロンドン郊外の倉庫群を改装し、Canary Wharfと呼ばれるビジネス地区を形成しています。こちらではLevel39という、インキュベーション施設が非常に有名です。入居するスタートアップがBarclaysやHSBC、Citi Groupといったメガバンクとの協業の際、歩いて打ち合わせに行くことができるという地理的な優位性に加えて、39階から大企業を見下ろすメンタル的な点でも人気を集めているようです!

【from London vol.1】
ロンドン郊外の再開発地区Canary Wharfに発展するエコシステムとは?

今後、上記のLevel39に加え、イギリスのメガバンクBarclaysがOld Streetに立ち上げたFintechスタートアップ向けコワーキング施設・Riseについて、現地の様子をレポートします!

一方、イギリス国内ではBrexitによる経済への影響が大きく懸念されており、国として様々な政策が実行されています。具体的には、国外からの起業家に対するスタートアップビザの優遇発行や、投資家に対する税制優遇措置等があります。現地ではBrexitによるマイナスの影響を上回るメリットをこれらの政策から享受できているようです。

今回ロンドン現地にて、実際にエンジェル投資家として活躍されている方にインタビューを敢行しました!ロンドンのエコシステムにおいて、税制優遇措置がどのように使われているのかについて詳細に紹介します。

加えてイギリスはOxfordやCambridge等、世界的に高い水準を持つ大学や研究機関を有しています。RouteXでは、以前Cambridge出身の起業家が集まるエコシステム・シリコンフェンを紹介させていただきました!詳しくはこちらをご覧ください。

Credit: Catapult UK

イギリスでは近年、その高い技術力を生かしたDeep Tech分野でのスタートアップを輩出する、Catapult UKと呼ばれるインキュベーション施設が国家主導で各都市で設置されています。こちらについても後の記事にて紹介します。


3. 各都市の特色②:ベルリン

特色
①産業の空白地帯に形成された独自のエコシステム
②高度な技術を持った国外からの労働力の流入
③第二言語としての英語話者が多い

ベルリンは冷戦時代の最前線の一つとして、約30年前まで東西2つに分裂していたことはあまりにも有名かと思いますが、これはベルリンの経済面にも大きな影響を及ぼしています。

ベルリンは長い間分断していたベルリンの壁の影響で主となる産業がなかったため、ドイツ国内でも物価が安く、経済的な規制が少ないことが特徴です。そのため世界各国からアーティストやミュージシャンが集まるようになりましたが、そのような人々がもつ既存の方法にとらわれない文化や、外様を受容できる文化が現在のベルリンのスタートアップエコシステムに根付いています。このような文化はドイツの他の地域にはみられないため、非常に特異な経済圏を形成しているといえます。

そのような歴史的・文化的な背景のもと発展したベルリンでは、早くから様々なスタートアップが勃興しています。現在ではそのエコシステムに各国の企業や投資家が注目しており、現在ではFactoryやbetahaus等、老舗とも呼ぶべきコワーキングスペースに加えて、世界各国の企業が新しいイノベーションを求めて進出してきています。

RouteXでは以前Factoryを紹介させていただきましたが(詳細はこちら)、今回改めてFactoryとbetahausを訪問し、現地の最新情報を調査してきましたので後ほどレポートします!

ベルリンのスタートアップエコシステムの発展は、豊富な機会と物価の安さを求めて高度な経営・技術人材がヨーロッパ中から集まってきていることにも起因しています。特にベルリンは西ヨーロッパの中で最も東側に位置するため、東欧諸国からの流入が顕著にみられます。

国外からの人材の流入で最もネックになるのは言語面でのコミュニケーションですが、ベルリンでは現地の方も含めてほとんどの人が英語を話すことができるようです。これはドイツの他都市ではみられない傾向であるとともに、皆が第二言語として英語を話すための心理的な障壁が少ないというメリットも起業家にとってはあるようです。

今回のベルリン訪問では、現地で実際に活動されている起業家およびエンジニアの方を取材しました。いずれの方もドイツ国外から機会を求めてベルリンに居住しており、貴重なお話をお伺いすることができました。


4. 各都市の特色③:パリ

特色
①La French Techをはじめとする国家主導のエコシステム構築
②高度な人材のスタートアップへの流入
③StationFにおける大企業との積極的な協業

パリのスタートアップエコシステムは、2013年にフランス政府が立ち上げたプロジェクト・La French Techに端を発し、急速に発展を遂げました。具体的には世界各都市にLa French Techがハブオフィスを設立し世界に対してブランディングするとともに、フランス国内においては、Bpi Franceという公営の投資銀行が積極的な資金援助を行っています。

実際パリ現地では、Bpi France主催のイベントに大勢の起業家・投資家の方々が参加されていました!

また、パリを中心とするイルドフランス地区への国外からの企業誘致を進める非営利団体、Choose Paris Regionのオフィスに訪問し、実際の活動について取材してきましたので、追って報告します。

【from Paris】
スタートアップへの支援を推し進めるChoose Paris Regionを訪問!

先述のBpi Franceを財源にフランス政府は若手起業家の醸成にも力を入れています。フランスでは、スタートアップの起業を目指す場合、前職を自己都合退職した場合でも2年間は国から生活費の援助が受けられるようです。これによって自分のやりたいことを実現するための手段としてスタートアップが、選択肢として上がってくるようになりました。

実際現地では2人の起業家に話を聞き、パリにおける自身の活動や今後の展望、さらに現地人ならではの目線によるエコシステムに対する所感をインタビューしました。

【from Paris】
Y Combinator出身の起業家からみたパリのスタートアップエコシステムとは

【from Paris】
フランス・パリのコーディングスクールLe Reacteurを訪問!

パリではスタートアップ発の革新的な技術やサービスをいち早く獲得するために、大企業とスタートアップ・VCがシームレスに協業することができる超巨大インキュベーション施設・Station Fが2017年にオープンしました。こちらは1920年代に建てられた駅舎をリノベーションしているところからこの名前が付けられています。

Credit: Station F

現在では51000m2の広大な敷地に1000を超えるスタートアップが入居し、30を超えるプログラムが実施されているようです。

大企業も多様な業種から集まっています。例えばFacebookはStartup Garageというデータ分析系のスタートアップに特化した6ヶ月のプログラムを実施しています。また、施設内にはAdidasやLoreal、Microsoftも入居しており、独自のスタートアップ支援プログラムを行っています。こちらに関しては別記事にて詳しく最新の情報をレポートします。

このように大企業・投資家とスタートアップをオフラインでつなげる巨大ハブの存在が、パリのスタートアップエコシステムにおいて非常に大きな役割を果たしています。


5. 各都市の特色④:アムステルダム

特色
①高い教育水準を生かした人材の輩出
②大学・大企業・投資家の密な連携
③地域・都市ごとに異なる分野

オランダは人口1000万人程度と他の西欧諸国に比べて国内市場が小さいため、オランダ企業は必然的に世界のマーケットを視野に入れてきました。これまでRoyal Dutch ShellやUniliver、Heinekenといった世界的な大企業を生み出しています。

それらを支えているのはオランダの高い教育水準です。オランダの大学進学率はなんと10%!!国内に15ある大学にはおのずと優秀な学生が集まり、国外からも積極的に学生を誘致しています。

現在その優秀な学生が大学から起業するケースが増えてきており、大学や在オランダの大企業・投資家が支援する形でスタートアップエコシステムが発展しています。さらに、オランダはヨーロッパ内で最も法人税が安いため、大企業がヨーロッパ法人をオランダに置くケースも多く、こちらもスタートアップエコシステム発展の要因になっているようです。

実際にスタートアップと協業する場として、アムステルダム近郊にはStartup Villageという施設が、アムステルダム大学とVCの共同で設立されています。こちらではコンテナの中にオフィスが作られ、スタートアップとVC、大企業のオフィスが隣接しています。そのため非常に密な連携をとることが可能となっています。

また、同じくアムステルダム近郊にB.Amsterdamというコワーキング施設も活発なコミュニティを形成しています。今回訪問した施設は元々IBMのオフィスだったものを改装しており、実際B.AmsterdamはIBMとパートナーシップを組んでいるようです。

国単位の切り口では、オランダは地域によってはっきりと分野の強みが分かれていることも特徴と言えます。例えば、デルフト工科大学周辺の機械・航空宇宙分野、ワーゲニンゲンの農業分野、リンブルフ州では化学分野などが挙げられます。またアムステルダムは観光客の急増に伴う環境汚染が問題となっていることから、スマートシティ分野にも注目が集まっているようです。

Credit: HighTech XL

上記はオランダ南部のアイントホーフェン周辺にある、地域ごとDeep Techスタートアップのハブを設置しているHighTech XLという例になります。このように地域ごとに分野別の特区を作り、より密な協業を推し進めるのがオランダのスタートアップエコシステムの特色といえます。


6. まとめ

いかがでしたでしょうか。

EUの経済圏を構築しているヨーロッパでも、各都市によって国家の介入の度合いや、注力している分野、スタートアップエコシステムの成り立ちが大きく異なることがおわかりいただけたかと思います。

RouteXでは今後ヨーロッパのエコシステム調査に注力し、現地での最新情報を随時発信させていただく予定です。

また、ヨーロッパの現地アテンドやカンファレンスに合わせた研修・ビジネスツアー、進出支援等も行っておりますのでお気軽にお問い合わせください。