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記事一覧 > Hello Tomorrow Global Summit 2021 現地参加レポートvol.3 注目高まる気候変動を解決するDeep Techとは

2021年12月2・3日の2日間に渡り、フランス・パリにて世界最大のDeep Techカンファレンス Hello Tomorrow Global Summitが開催されました。

先進的な技術を組み合わせることで世界市場に対して破壊的なソリューションを生み出すDeep Techは、SDGsや気候変動と言った地球規模の課題を解決すること、また金銭的に大きなリターンを生み出すことが期待され、コーポレートや投資家、政府機関などあらゆるスタートアップ・エコシステムのプレイヤーから注目を集めています。

今回、RouteXは日本から唯一のMedia Partnerとして現地で参加しました。

イベントコンテンツや参加者との交流を通じて汲み取れる、世界的なDeep Techのトレンドを、全4回の連載を通じてお伝えします。

第1回目:

第2回目:

第3回目となる今回は、筆者目線で本年のGlobal Summitで最も注目を集めていたClimate Techに関するセッションの内容を中心に、Deep Techによる気候変動の解決に向けられた期待や課題をご紹介します。

弊社は、Hello Tomorrowの日本におけるエコシステムパートナーとして、これまでもHello Tomorrowの日本ハブであるHello Tomorrow Japanと連携し、国内のDeep Techエコシステム構築に寄与すると共に、昨年パリのHello Tomorrow本部へ訪問・取材をおこなっております。

Hello Tomorrowに関する過去の記事はこちらをご確認ください。

Climate Techに対する注目の経緯①
:気候変動に対する国際的な枠組みの設定

Global Summitにおけるセッションへと入る前に、そもそも気候変動や解決策としてのClimate Techに注目が集まる経緯を2つに分けて説明します。

まず1つ目に、2010年代半ばから昨年にかけて国際的枠組みの構築が大きく進展したことにあります。
中でも2015年にパリにて採択されたパリ協定がその起点となる出来事といえます。
1997年に合意された京都議定書以降、18年ぶりに採択された気候変動対策に関する枠組みでは、世界の平均気温上昇を産業革命前 (1700年代)と比べて1.5度未満になることを目指し2020年以降活動することが主要な内容となりました。
ただし、当時アメリカのトランプ大統領が2017年に離脱を表明したことで、世界中で一貫した取り組みとはならないままとなっていました。

この状況が大きく動いたのが、2021年といえるでしょう。
1月20日、トランプに代わったバイデン大統領が、大統領として初めての執務としてパリ協定への復帰を行いました。
そして11月1日〜12日にCOP26 (第26回気候変動枠組条約締約国会議)が、イギリスのグラスゴーで実施されました。
このCOPでは、パリ協定での気温上昇目標が初めて文書に明記されたことが大きな進展となり、地球温暖化防止に向けて世界全体で対策することにある種の強制力をもたせる結果となりました。

このような国際的な関心の高まりが、Climate Techへの注目へとつながる一つのきっかけであることは間違いないでしょう。

なお、もともと電源に対する再生エネルギーの割合が大きく、COP26の議長国だったイギリスがその約半年前の6月に実施されたG7サミットにて気候変動を最重要テーマとして掲げるなど、ヨーロッパは特に直近気候変動に対する注目が高まっているといえます。
Climate Techを通じて世界を牽引したいという力学も、本地域にはいくらかかかっているといえるのではないでしょうか。

Climate Techに対する注目の経緯②
:Bill Gatesが主導するBreakthrough Energy

The Catalyst ProgramのローンチにあたってBill Gatesより公開された動画

政府に対して民間組織もまた大きく反応していることが、連続的なClimate Techに関するムーブメントに寄与しています。
中でも、マイクロソフトの創業者であるBill Gatesが2015年に設立したBreakthrough Energyが、エコシステムにおいて大きな価値を持っていることは間違いありません。

上記のパリ協定が結ばれた2015年のCOP21にて自ら発表したBreakthrough Energyには、Jeff Bezosや孫 正義ら錚々たる世界中の個人投資家やテック企業創業者が集い、総額約10億ドルのファンドをBreakthrough Energy Venturesとして2016年より運用されています。
また2021年には新たに約10億ドル規模のアクセラプログラムThe Catalyst Programを発表し、Climate Techのさらなる社会実装を主導しています。

なお、2021年に出した著書 “How to Avoid a Climate Disaster”はニューヨークタイムズで1位のベストセラーになるなど、イノベーションの世界を超えて影響を与えています。

Global Summitでのセッション ”Investment in Climate Tech”の様子

では先述のような世界的な潮流を踏まえて、今回のGlobal SummitにおけるClimate Techに関するセッションではどのような内容が語られたのでしょうか。

”Investment in Climate Tech”と題して実施された本セッションは、以下5名のパネルディスカッションとして実施されました。

Allegra Kowalewski-Ferreira (Investment Manager – Breakthrough Energy Ventures)
Bastien Gambini (Managing Partner – Alantra Energy Transition)
Clea Kolster (Partner and Head of Science – Lowercarbon Capital)
Daria Saharova (General Partner – World Fund)
(モデレーター) Benjamin Joffe (Partner – SOSV Deep Tech Ventures)


登壇者では、先述のBreakthrough Energy Venturesからのゲストが登壇し、トレンドを牽引する立場として注目する分野や活動について話しました。
また、2018年設立と比較的新しいClimate Tech VCであるLowercarbon Capital、ヨーロッパ拠点の代表としてWorld Fund、そしておもにレイターステージを対象としているAlantra Energy Transitionと、多種多様な切り口での会話がなされました。

以下Climate Techに関するトピック別で、その会話内容を紹介します。

トピック①:モビリティ電動化のトレンドに伴って着目すべき技術

カーボンニュートラルの実現にあたって、現在全体の二酸化炭素排出の大きな割合を占める物流・モビリティにおいては、既存の完成車メーカーも含めて様々なプレイヤーがその解決策を探っていますが、ことスタートアップを切り口とした場合にはTeslaやRivian (アメリカ発の電動ピックアップトラック、2021年にIPO)など、動力の電動化が主流となっています。
また電動化は自動車から自転車、スクーター、飛行機、タンカーに至るまで、様々なモビリティに共通したトレンドとなっています。

電動モビリティにはバッテリーが不可欠ですが、中でも
・バッテリーの機能改善 (急速充電、エネルギー密度、容量)
・持続可能な生産
に関する技術に注目しているという会話がなされました。

前者については、特に発電した電気を数ヶ月間という長期に渡って貯蔵する技術が大きく求められているという会話もありました。現在材料として最も使われているリチウムでは長期間蓄電に適していないため、新たな材料や機構の利用による新規技術が求められているとのことです。

また後者に関して、2021年ヨーロッパで最も大規模な調達を実施したNorthvoltは、まさにこの観点で投資家の期待を集めたスタートアップといえるでしょう。詳しくはこちらの記事をご覧ください。

トピック②:核融合による発電技術

Commonwealth Fusionの動画より、核融合技術の体系について

発電に際する化石燃料利用からの脱却は大きなテーマですが、スタートアップ投資の現場においては核融合による発電技術が、カーボンニュートラルに大きく寄与する技術として注目されているようです。
Breakthrough Energy Venturesが出資し本セッションでも言及されていたCommonwealth Fusionは、マサチューセッツ工科大学からのスピンアウトとして2017年に創業された後、これまでGoogleやTiger Global等から総額約20億ドルの資金調達を受けユニコーン企業となっています。
また、登壇したゲスト所属のVCでもそれぞれ本分野の企業に出資していることが紹介され、一つのトレンドとして語られました。

ここで話題となったのが、核融合発電のビジネスとしての成立にかかる期間とVCファンドの運用期間に関するものでした。
VCのほとんどがファンド運用期間を10年と設定している中で、期間中での収益性の担保が、一般的なDeep Techでの課題の一つだといわれています。
本セッションにおいては、核融合発電に使用される技術の「横展開」が一つのヒントであると話されました。
つまり、核融合発電に使用される技術を切り出し、他の事業分野へ適用することで別切り口でのレベニューを期待しているようです。
原子力発電への考え方が世界各国で分かれており、規制による制限が未だ強い分野ではありますが、核融合発電のもつ破壊的なインパクトに対する投資家からの期待は強いものとなっていました。

トピック③:脱炭素化に向けた今後の注目技術

二酸化炭素の直接捕捉に関するCNBCの動画

本セッションの後半では、脱炭素化に向けた今後の注目技術について会話がなされました。
Breakthrough Energyが2021年に実施を発表した先述のThe Catalyst Programでは以下4つの技術が募集されることとなっており、今後のトレンドを示しているものといえるでしょう。

  • Direct air capture (DAC):空気中二酸化炭素の直接捕捉技術
  • Green hydrogen:CO2を排出しない水素生産技術
  • Long-duration energy storage (LDS):長期間のエネルギー貯蔵技術
  • Sustainable aviation fuel (SAF):持続可能な航空燃料に関する技術

Green hydrogenに関しては複数のゲストから注目分野として挙げられていることもあり、世界中にてその期待が高まっています。

またDirect air capture (DAC)については、よりスケーラブルかつ効率的に二酸化炭素を捕捉するために、燃料電池の機構を応用したシステムを開発するイスラエル発のRepAir Carbon Captureが、Hello Tomorrow Global Summitにおけるコンペティションにて受賞しています。
詳しくはこちらの記事をご確認ください。

いかがでしたでしょうか。
次回は、Deep Techでも重要な人材の確保について、ヨーロッパでの取組みをご紹介します。

投稿者:塚尾 昌浩
サンフランシスコにて実施されたTechCrunch Disrupt SFでの現地取材でスタートアップ・エコシステムの可能性に衝撃を受け、以来エコシステムの並行分析とDeepTech領域に注力。
中でもフランスはエコシステム発展の典型事例として特に注目している。
食に、ワインに、サッカー観るのも好きなので相性はばっちり?
直近の目標は、フランスで現地の友人とサーフィンとワイン巡りをすること。

RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、フランスを始めとする世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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