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記事一覧 > 宇宙関連スタートアップへの投資が集まる背景―仏スタートアップ「Infinite Orbits」の事例を踏まえて―

仏スタートアップの「Infinite Orbits」は、宇宙に漂う衛星の寿命を延長することを目的として事業を展開するスタートアップで、5月に€12M(約2,000億円)を調達しました。

2017年に米国のコロンビア大学で誕生し、その後欧州の航空産業の中心地であるトゥールーズに移転して以来注目を集めているこのスタートアップについて、maddyness様の記事を参考にしつつ、その事業内容や注目の背景を考察します。


増える衛星に対する「寿命を延ばす」というソリューション

昨今、宇宙空間に送り込まれる衛星の数が年々増加しており、2020年までには約2,500個以上の衛星が地球周回軌道上に投入されています。

さらにその数は爆発的に増加しています。例えば近年の宇宙衛星に関する話題として、イーロンマスク氏率いる「SpaceX」が展開しているスターリンク衛星が挙げられますが、こうした動きの中で、現在では年間に2,000~3,000個の打ち上げペースになっています。

引用:unsplash

しかし増加する衛星に対して一機ごとにメンテナンスの必要性が生じるにもかかわらず、多くの衛星管理者は放置し、分解されるか他の宇宙船との衝突まで回転させておくことが一般化してしまっています。

地球周回軌道上に飛び散った廃棄物はスペースデブリと呼ばれ、それらは宇宙センターによって監視されていますが、今後宇宙開発を進めていく中で障害となる可能性は非常に高いです。

こうした地球規模の課題に対して取り組んでいるスタートアップは複数存在しますが、そのうちの一つが「Infinite Orbits」です。「Infinite Orbits」は、衛星の故障の兆候を発見した時点でそれらを廃棄してしまうのではなく、寿命を延ばすというシンプルなアプローチで、発生するスペースデブリの量を削減することに貢献しようとしています。

具体的な寿命延長の手法は、衛星同士のドッキング技術と自律型のナビゲーション技術です。この技術の実現に向けて過去に超小型衛星を静止軌道上に乗せることに成功しており、これはスタートアップとしては世界初の業績でもありました。

すでに「Intelsat」などの著名な衛星管理会社4社を顧客として抱えており、2026年には本命の衛星延命衛星「Endurance」を宇宙に送り込む予定です。2027年には売上高€60M(約1兆円)を見込んでいます。

引用:YouTube

その魅力から過熱する宇宙スタートアップへの投資

なぜ近年、DeepTechの中でも宇宙関係のスタートアップへの投資が加速しているのでしょうか。そして現在は宇宙に関係する中でもどの分野が投資対象として注目されているのでしょうか。

結論として、投資が加速する理由は投資対象としてリターンが魅力的であり、成長し続けることが見込まれている産業であることと、素早い意思決定で新技術を現実のものにしていくというスタートアップ本来の「身軽さ」が求められ、生かされる分野であり、スタートアップの数が増加していることの2点が考えられます。そして注目分野は再利用可能なロケットや宇宙旅行、加えて今回紹介した「Infinite Orbits」も取り組んでいる衛星関係のものです。

まず現状を確認してみましょう。VCや金融機関等による宇宙関係のスタートアップへの投資額は、過去20年で爆発的に増加しており、現在でも一貫して増加傾向にあります。

引用:statista

注目分野に関連して、日本のスタートアップも関係分野で投資を集めています。特に有名なのがアストロスケール社で、この企業はスペースデブリの回収を目的として、世界各国に子会社を有しており、現在シリーズGまで到達しています。

再利用可能なロケットの開発が急がれたり、衛星の修理事業に注目が集まったりするのも、サステナビリティの文脈に加えて、スペースデブリに対する危機感が強いためです。ただしその背景には大量の衛星を打ち上げる衛星群関係のスタートアップや宇宙旅行関係のスタートアップなどが増加し、スペースデブリを増加させかねない動きがあることにも注意が必要です。

一方で宇宙関係のスタートアップに対する投資は、一定のリスクが伴います。具体的には、アイデアが実現されて投資回収に至るまでの期間が一般的に長いことや、不確実な顧客基盤などが挙げられます。

米国の著名なVC(アンドリーセン・ホロヴィッツファウンダーズファンド等)は、そうしたリスクがある中でも投資額を積極的に増やしています。特に投資はシード〜シリーズAの初期段階のスタートアップに集中しており、長い投資期間にも耐えうるファンドを形成したり、数年前よりは見通しに具体性が生まれた経営計画を参考にしたりしながら、利益の回収を図っています。

こうしたリスクは、投資家側だけの問題ではありません。スタートアップが経営していく中でも資金繰りの問題や開発の遅延などの壁に直面しますが、それでも大企業には実現が困難なリスクテイキングと意思決定の早さで、人類全体に影響するような課題の解決や生活の便利さ向上のための事業を画策しています。

参考記事:La startup toulousaine Infinite Orbits lève 12 millions d’euros pour allonger la durée de vie des satellites


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投稿者:近藤 碧

京都大学経済学部経済経営学科在学(-2025.3)。ゼミではスタートアップの経営戦略に関するリサーチ・研究に取り組んでいる。2023年9月より、京都大学大学間学生交流協定に基づく交換留学生としてKoç Universityに派遣され、半年間トルコのイスタンブールに滞在した。2022年よりRouteXでインターンシップを開始し、業界リサーチから海外スタートアップの日本進出支援まで幅広い案件を担当。趣味は愛車のバイク(S1000RR ‘21)に乗ることであり、他大学のバイク部にも加入している。


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