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記事一覧 > 人間と同じレベルの「AI」であるAGIの実現へ―革新的AIスタートアップを生み出すフランスのスタートアップ・エコシステムの特異性―

引用:Accel

VivaTech開催直前のフランスで、パリに拠点を置くAIスタートアップの「H」は$220M(約345億円)の調達を行いました。このスタートアップはAGIと呼ばれる究極的なAIの完成を目標にしています。

この資金調達ラウンドに対して、フランス国営銀行のBpifranceAmazonSamsung、Google元CEOであるEric Sc​​hmidt、LVMH大株主のBernard Arnaultなど世界的企業やその経営者が支援を行っており、複数の仏ニュースメディアがこのラウンドを取り上げています。

今回はこの「H」の事業内容と注目されている背景、そしてフランスのスタートアップ・エコシステムの特異性について、siliconcanals様とmaddyness様の記事を参考にして解説します。


「H」はAGIを生み出すことを目指している

この「H」は2023年末に、Googleの子会社として人工知能の研究を行う「Google DeepMind」の主要メンバーであったフランス人2人によって設立されました。

「H」の目標は非常にシンプルで、世界全体の何十億人もの従業員の生産性を向上させることです。具体的には、AGI(Artificial General Intelligence)と呼ばれる汎用人工知能の開発により、あらゆる仕事に対して自律的に意思決定を行う「エージェントAI」(=「H」が好む呼び方)を完成させることで、これを実現しようとしています。

引用:Unsplash

AGIについてもう少し詳しく説明すると、人間の指示に従って特定のタスクを実行するAIとは異なり、前提知識のない異なる種類のタスクについても、人間と同等かそれ以上の吸収能力で、それぞれのタスクを達成していく形のAIです。AGIは「強いAI」とも記述されることがあります。なおChatGPT-4oはAGIの第一歩とも言えますが、ChatGPT-4o自身に聞くと現状では否定されます。


確度の高い「世界を変える可能性」に対する期待感が注目を集める

「H」という企業名は「Holistic(全体論の)」の頭文字で、これは当初のコード名から取られています。この「H」がこれほどまでに著名な企業から注目を集める理由はどこにあるのでしょうか。

その答えの一つは、業種に寄らず、あらゆるビジネスにおいてゲームチェンジャーになりうるからだと言えます。

今回の資金調達ラウンドで支援した企業の一つであるUiPath(2005年創業の自動化ソフトウェアを販売する米国/ルーマニアの企業)の取締役会長は、投資の理由を聞かれた際のインタビューで、

・世界でも有数のAI研究者によって設立された「H」は「evolutionary AI solutions(=AGI)」を生み出すために必要な能力を独自に理解していると判断できること
・将来的には業界や機能を問わず、ソフトウェアに新しい機能を与えうること
・(従来のAIでは困難な)複雑なワークフローを自動化できるアクションモデルであること

を根拠にしていると説明しています。

仮にここで言われているようなことが達成できるAGIが開発されれば、AGI自体が仕事を生み出してこなすようになることで、雇用のあり方が完全に変化するであろうことは言うまでもないでしょう。

AGIの圧倒的な将来性と、それを実現可能だと思わせる経営陣が、今回の資金調達ラウンドの規模と早さに貢献したといえそうです。


“Choose France” マクロン大統領の思惑とは

先日公開したFlexAIの記事でも、なぜAIスタートアップがフランスに集まっているのかを解説しました。

そこでは一つの理由としてフランスのAI(スタートアップ)エコシステムが優れていることを挙げましたが、その中でも大企業側の動きと政府側に注目して、直近の動向と課題を確認していきたいと思います。

2024年の5月13日、フランスのマクロン大統領は、毎年ベルサイユ宮殿で開催される「Choose France Summit」にて、過去最高額である€15B(約2.56兆円)の外国投資誓約(foreign investment pledges)を獲得しました。

引用:Euronews

この資金が対象となる分野は様々ですが、そこにはAIも含まれています。特に今回の投資は、フランス国内のAIスタートアップをサポートするためのインフラ構築に役立つと考えられます。

例えばMicrosoft社は、ランスのクラウドおよびAIインフラに€4B(約6,800億円)を投資し、パリとマルセイユのデータセンターを拡張し、東部の都市ミュルーズに新しいデータセンターを追加すると発表しました。

またAmazon社も物流とアマゾンウェブサービス (AWS) のクラウドインフラを強化するために€1.2B(約2,000億円)を投資することを発表しました。

参考:Reuters “‘Choose France’ investment push bags record $16 billion in pledges

一方でマクロン大統領を中心としたフランス政府がこうした投資を迎え入れ、それを大々的に発表するのには、フランス国内での財政赤字が予想よりも大きくなることに対する批判を少しでも回避するためだという指摘もなされています。実際、サミットにこうした大企業を招くだけではなく、工場や製造拠点の誘致のために、外国企業との対談も積極的に行っています。

こうした思惑が背景にあったとしても、フランスのAI(スタートアップ)エコシステムの発展には政府が大きく貢献しており、欧州でのAI開発のハブとしての地位を確立しているといっても過言ではありません。政府が作り出した良い循環の中で、「Mistral AI」や今回紹介した「H」のようなスタートアップが誕生しています。

参考記事1:French AI company “H” launches with €204M Seed funding from Accel, Amazon, others; aims to reach full AGI

参考記事2:IA : des anciens de Google DeepMind lèvent 220 millions de dollars pour lancer une startup à Paris


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投稿者:近藤 碧

京都大学経済学部経済経営学科在学(-2025.3)。ゼミではスタートアップの経営戦略に関するリサーチ・研究に取り組んでいる。2023年9月より、京都大学大学間学生交流協定に基づく交換留学生としてKoç Universityに派遣され、半年間トルコのイスタンブールに滞在した。2022年よりRouteXでインターンシップを開始し、業界リサーチから海外スタートアップの日本進出支援まで幅広い案件を担当。趣味は愛車のバイク(S1000RR ‘21)に乗ることであり、他大学のバイク部にも加入している。


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