欧米⇄日本における環境意識の差分
あらゆる地域で記録的な猛暑に見舞われた2023年の夏は、全世界・産官学民の気候変動に対する意識醸成には十分な影響を与えたといえる。ことテック業界やスタートアップ・エコシステムの観点では、2022年時点ですでに全カテゴリで2番目にスタートアップ投資を集めたClimate Techに、今後もリソースが集中するであろう。
一方、一般消費者の観点では、サステイナビリティへの意識に国によって大きな差が見られるのが現状だ。
2022年のBCGレポートによると、日本の消費者は、自身の行動が気候変動に与える影響に対する意識が他9カ国に比べて明らかに低いことを明らかにしている。
要因が複合的であることは明らかだが、各国政府の規制とそれに呼応する企業の取り組み、および消費者意識との連動を考えると、日本は当分野における後進国だといえる。
対して先進地域の一つである欧州では、「消費者向け」の気候変動対策サービスが注目を集めている。 Climate Techはこれまで中央政府の規制へ対応すべくB2Bソリューションが主であったが、元々エシカルな意識が高く”Tech for Good” (社会課題解決>経済利益に主眼を置くテック企業)が一般化している欧州において、消費者を巻き込むトレンドはすぐそこまで来ているのが実態だ。
特異的なTNW Conferenceのコンテンツ
今回、現地参加したTNW Conferenceは、オランダのデジタルメディア/イベントプラットフォーム TNW (The Next Web)が2008年から開催する年次イベントで、2019年にはFinancial Timesに買収されている。
同時期に開催されるViva Technology (フランス)、秋に開催されるWeb Summit (ポルトガル)がすでに顕在化した技術やビジネス、もしくは国際的なトレンドに主眼が置かれる一方で、TNW Confenrenceはよりローカル、かつアーリーコンセプトが主体であるため、世界的な注目度では劣るものの各地域との差分を見出す上では有意義な媒体となっている。
気候変動は言わずもがな国際的なトピックだが、より潜在的なニーズに焦点を当てるべく、今回は欧州ローカルな視点で消費者向けClimate Techを紹介する。
気候変動投資を民主化するプラットフォーム
1. Dayryze
本社:オランダ アムステルダム
投資ラウンド:シリーズA
Dayrizeは、”Dayrize Score”という自社独自の指標で消費者向け商品の環境効果をスコアリングするプラットフォームを展開している。
これまで事業活動目線で環境効果を算定するサービスが多く、商品軸での評価ニーズに応えるサービスは少なかった。このようなAIを用いた安価なソリューションによって、各商品ごとの評価が民主化し、消費者のニーズに合致した商品開発がより加速する一助となろう。
DayrizeはシリーズAでイギリスの大手運用企業Gresham Houseより資金を調達している他、環境認証であるB Corpのスタートアップ向け認証Pending B Corpにも採択されている。
2. Crowmie
本社:スペイン バレンシア
投資ラウンド:プレシード
Crowmieは、再生可能エネルギー施設に対する個人投資プラットフォームである。会員登録したユーザーは、欧州のメガソーラーや風力発電の建設プロジェクトに対して出資しその代わりにトークンが発行される。施設の稼働後は所有トークンに合わせて分配された販売利益をドルやユーロで受け取ることができる。
幅広い個人の再エネに対する直接投資は、グリーンディール等世界の環境政策をリードする欧州の次なる手段として興味深く、リスクヘッジのための保険制度等サービスの作り込みに関しても今後注目すべきサービスではないだろうか。
3. μPledge
本社:オランダ アムステルダム
投資ラウンド:プレシード
μPledgeは、環境対策に取り組むスタートアップ (グリーンテック)への個人投資 (クラウドファンディング)と関連活動の学習に役立つゲーム要素を有するプラットフォームを開発している。環境への貢献がマイルストーンとして設定され、投資家に対して達成したインパクトが可視化されることが特徴だ。
コミュニティドリブンでの気候変動対策の観点で、教育コンテンツと組み合わせることによるクラウドファンディングは効果的であろうと考えられる。より広い対象へ影響を与えるためのインセンティブ設計について今後も注視していきたいスタートアップである。
日本企業のオープンイノベーションに対する示唆
今回紹介した3社に代表されるように、欧州では気候変動・環境対策の営利活動への昇華が消費者レベルにまで落とし込まれ民主化するトレンドが来ようとしている。
ものづくりからコトづくりへの理解が進みつつある日本のエコシステムにおける次の5年の指針として、
- 地球規模の課題解決が消費者の商品選択に接続されるビジョンの共有と事業開発
- 外部認証等も活用した消費者からの認知獲得
を目指すべきではないだろうか。そのため手段として、より消費者の趣向に対する感度の高い外部との連携は有効と考えられる。
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投稿者:塚尾 昌浩
2019年にRouteXに参画、COOとして創業期の事業開発を主導。ヨーロッパを中心とした世界各国のスタートアップ・エコシステムや先端技術を切り口としたイノベーション創出に関する知見に長け、事業開発やビジネスモデル構築をはじめとしたコンサルティングに強みをもつ。海外カンファレンスでの取材活動や外部講演、メンタリングの経験も豊富に有する。2022年12月に社内初の海外オフィスであるフランス支社の代表に就任。
前職では日産自動車株式会社にて電動車のバッテリ開発・プロジェクト推進業務に従事。
京都大学大学院工学研究科修了(化学)