skip to Main Content

記事一覧 > SusHi Techの全貌を明らかに(後編)―大企業のオープンイノベーションの取り組み―

2024年の4月から5月にかけて開催されたSusHi Tech、中でも5月15日と16日の2日間に渡って開催された「グローバルスタートアッププログラム」は、アジア最大級の規模で開催され、世界中から多くのスタートアップ関係者や投資家が集まりました。

本記事は、前編である下記の記事の後編として、この「グローバルスタートアッププログラム」の2日目と大企業側の取り組み、さらにはこの期間に行われていたアフターパーティの様子にまでフォーカスを当てて、その概要を会場の写真とともにお伝えします。

サステナに留まらない豊富な展示とセッション

SusHi Techが「Sustainable High City Tech Tokyo」の略であることもあり、随所でサステナビリティ関連のセッションや展示が存在していましたが、それ以外にもグローバルな視点でのスタートアップの事業拡大やスタートアップへの投資に関するもの、さらにはwebサービス系のスタートアップの展示なども多く存在していました。

弊社撮影 会場内のスタートアップ展示エリア

会場の内訳は以下のフロアマップのようになっており、特に「CP0X」と書かれている緑色のエリアには、フランス、台湾、イスラエル、スイス、香港の5ヵ国のスタートアップが、それぞれまとまって事業の紹介を行っていました。総展示数は491件で、うち海外企業によるものは204件(約42%)であり、参加者側としても多くの外国人の方が参加していました。

引用:SusHi Tech ”Floor Map
弊社撮影 フランスとスイスのパビリオン

今回の「グローバルスタートアッププログラム」に参加した大企業やスタートアップについては、全て公式サイトから確認することができます。

ここからは2日目で特に注目を集めていたセッションの詳細と、大企業の中でもデベロッパーの展示に着目します。

エコシステム形成に向けた官民の取り組み

「世界トップレベルのスタートアップ・エコシステム形成に向けた官民の取組」と題されたセッションには、DENA CO., LTD.の代表取締役会長を務める南場智子氏と、経済産業省の副大臣である岩田和親氏が登壇し、日本国内のスタートアップ・エコシステムを高次のものにしていくには、官民それぞれでどのようなアプローチをしていくべきかについてのディスカッションがなされました。

なお岩田和親氏はフランス最大のスタートアップカンファレンスであるVivaTech(Viva Technology 2024)にも、パートナーカントリーの代表の一人として登壇しています。

弊社撮影 セッションの様子

セッションではモデレーターが質問を提示し、それについて両者が意見を述べていく形で行われました。セッション内で提示された質問は以下の3つです。

質問1
スタートアップ・エコシステムの発展に向け、政府と産業界それぞれが果たすべき役割とは何か、役割の完遂に向け必要なアクションとは何か

質問2
大企業等とスタートアップによるオープンイノベーションを促進するために必要なことは何か

質問3
世界的に優れている日本の大学の研究を事業化し、スタートアップとして飛躍させるために必要なことは何か

それぞれについての両者の見解は以下のようになっていました。

◎質問1(官民それぞれが果たすべき役割と必要なアクション)について

岩田氏

  • ストックオプション制度の整備と海外法人による投資制限のさらなる緩和を実施
  • M&Aが少ないことの改善とスタートアップが調達しやすい環境作りをすべき

南場氏

  • 政府側の制度改革が効果を発揮しているのかを実際に検証すべきであり、効果がないのであればボトルネックを特定してそれを解消すべき
  • 世界トップレベルのエコシステムを形成するためには世界との関係を構築すべき
    • そのために政府は、国外の優秀な人材を日本に呼ぶための施策が必要
    • 日本人留学生の数は全く足りておらず、グローバルな視座を持てる人を増やすために海外に人材を送り出すための施策も必要
  • 事業会社の資金に頼ったエコシステムの発展には限界がある
    • 一部のCVCは単一LPである親会社の言いなりになる部分が大きく、資金面で純粋にエコシステムに貢献しているとは言い難い

◎質問2(オープンイノベーション促進のために必要なこと)について

岩田氏

  • M&Aを増やすべき
    • そのためにすでに税額控除を実施、その優遇期間の延長も実施

南場氏

  • 大企業による人材や技術の囲い込み主義を変えるべき
    • 現状、大企業の執行役員は社内の人間が多い
    • 中途採用は増えているが、彼らが経営幹部になることは少ない
  • スタートアップにとって大企業との連携(アライアンス)は疲れることが多いため、その点を改善すべき、また大企業はスタートアップの製品を積極的に買うべき
    • その分野に命をかけているスタートアップの製品の方がアップデートも早く、質が高い確率が高いため、自前主義を捨ててスタートアップの製品を買うという方針への転換を促すべき

◎質問3(大学の研究をスタートアップとして事業化、発展させるために必要なこと)について

岩田氏

  • 経営人材とのマッチングを実施すべき
  • 若手研究者の研究テーマとして、社会的にニーズがある部分や企業が求めているものを提案すべき

南場氏

  • リターンが大学に入らない制度設計を改善すべき
    • 2023年度の大学発スタートアップの数は過去最高であるにもかかわらず、大学側が受益している状況であるとは断言できない
    • 米国ではVC側が研究論文を読み、研究者に対して起業を促すような動きが一般的になってきており、こうした動きが日本にも広がることで大学の研究からの起業が一般的になる可能性も

世界有数のスタートアップ・エコシステムの調査機関であるStartup Genomeによると、東京のスタートアップ・エコシステムのランキングは2023年時点で15位にランクインしています。

しかし2022年のランキングでは12位、2021年のランキングでは9位であったことを踏まえると、世界トップレベルのスタートアップ・エコシステム形成のために必要なことが継続的になされ、効果を生み出してきたとは言い難い状況であることがわかります。今回のセッションの中で指摘されているようなことは、早急に取り組まれるべき内容であると言えそうです。

デベロッパーを中心に24社が展示を設営

前編の記事ではサステナビリティ関連のスタートアップについて触れましたが、本記事では大企業側の取り組みについて触れたいと思います。

上述のマップで黄色い四角形で表示されているのが大企業の展示ブースで、下記の24社が運営を行っていました。

引用:SusHi Tech ”Floor Map

24社中8社がデベロッパーであり、各社ともに展示に力を入れている印象でした。なお他カンファレンスに見られる展示内に別のスタートアップが配置されている、という展示スタイルではないことや、記載されている企業のメイン事業に関する展示に限らないことにも注意が必要です。例えばENEOS HDと記載がある23番の展示は、実際には「ENEOSイノベーションパートナーズ」というCVCの紹介が中心でした。

デベロッパー各社の展示は、会場内で繋がったスタートアップと連携して新たな事業を展開することが目的とされていることはほとんどなく、各社が有するインキュベーション施設や開催するイベントへの参加を促すものが中心的でした。本記事では一例として、展示内で紹介されていた森ビル株式会社(以下森ビル)のイノベーション創出アプローチを紹介します。

森ビルが目指すオープンイノベーションの未来

筆者撮影 森ビルの展示

森ビルは六本木ヒルズ、麻布台ヒルズ、虎ノ門ヒルズ等で有名なデベロッパーで、開発後の建物の運用についても力を入れている会社です。イノベーションという文脈においても、日本に限らずグローバルなオープンイノベーションの実現を図っています。

具体的には、「HUB」となるインキュベーター等の事業者を誘致し、その活動をサポートしていくことによって、実現を目指しています。

実際に事業エリア内で「HUB」として機能しているのは以下の通りです。

「TOKYO VENTURE CAPITAL HUB」は、2023年の11月末に開業した麻布台ヒルズ内にある日本発の大規模なベンチャーキャピタル(VC)の集積拠点となっています。日本ベンチャーキャピタル協会(JVCA)や独立系トップVCなど計100社が集結しており、勉強会やイベントの企画に森ビルが関わることで、日本のVC業界全体の成長と拡大を図っています。

引用:麻布台ヒルズ “TOKYO VENTURE CAPITAL HUB

「Japan Innovation Campus」も「TOKYO VENTURE CAPITAL HUB」同様、2023年に作られた拠点で、日本政府による「スタートアップ5か年計画」の一環として、経済産業省の支援の元、運営されています。この拠点には日本に関係を持つ約50社のスタートアップが入居しており、森ビルはコミュニティの運営から生活のサポートまでを行っています。

アフターパーティ

「グローバルスタートアッププログラム」開催前夜から2日目にかけて、東京の有楽町駅付近の「Tokyo Innovation Base」会場内で、アフターパーティが開催されていました。特に1日目は参加者も多く、会場内では参加者同士の交流も行われていました。クラブのような雰囲気のブースも設置されており、国籍問わず多くの人で賑わっていました。

弊社撮影 アフターパーティの様子

まとめ

今回のSusHi Techの開催規模として、40,000人の参加者と400以上のスタートアップの出展が見積もられており、この数字は他国の著名なカンファレンスと比較しても遜色ない数字です。

引用:SusHi Tech “Global Startup Program

今回のSusHi Techは、東京が世界の先頭に立ち、持続可能な開発に求められる最先端技術とイノベーションを通じて貢献するための知恵やアイデアを集めて未来を見据える場として開催されたものです。そして2025年の5月にも開催されることが予定されています。

来年の開催や今後の日本のスタートアップ・エコシステムの発展に向けて、南場氏の意見で述べられていたことと同様に、ただ今回のカンファレンスを実行するだけに留まらず、持続可能な開発に向けた動きに対して本カンファレンスがどのくらい貢献したのかという効果を、今後検証し、改善していくことが求められています。


いかがでしたでしょうか?
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。

投稿者:近藤 碧

京都大学経済学部経済経営学科在学(-2025.3)。ゼミではスタートアップの経営戦略に関するリサーチ・研究に取り組んでいる。2023年9月より、京都大学大学間学生交流協定に基づく交換留学生としてKoç Universityに派遣され、半年間トルコのイスタンブールに滞在した。2022年よりRouteXでインターンシップを開始し、業界リサーチから海外スタートアップの日本進出支援まで幅広い案件を担当。趣味は愛車のバイク(S1000RR ‘21)に乗ることであり、他大学のバイク部にも加入している。


今後もRouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。

RouteXは、
海外の先進事例 × 自社のWill による事業開発の高速化
によって、事業会社における効率的な事業開発を実現します。

本件も含めた質問や支援依頼に関する問い合わせは、以下のフォームよりご登録ください。