CES2022の全体像
2022年1月3〜7日の5日間に渡り、アメリカ・ラスベガスにて世界最大の電子機器見本市であるCESが開催されました。
今年は、弊社の大谷がメディアパスを取得し、現地にて参加してきました!
前半の1月3日・4日の2日間はMedia Dayとして、メディアのみが参加できる先行展示会やプレスリリースイベントが行われました。
Media Dayの様子は、こちらからご覧いただけます。
Media DayはMandalay Bayをメインに実施されていましたが、本展示は大きく3つの会場に分かれています。
- Tech East:CESのメイン会場であるLas Vegas Convention Center(LVCC)にて、大企業の出展、自動車の展示、野外展示を実施
- Tech West:Venetian Expoにて、スタートアップや中小企業が出展するEureka Parkを開催
- Tech South:ARIAにて、プレスリリース、パネル、セミナーなどを実施
3つの会場間は距離があるため、CES参加者専用のシャトルバスが運行しており、約10分程度で移動可能です。
例年、CESの本展示は4日間の開催ですが、今年はコロナウイルス感染拡大の影響で最終日の1月8日は直前にキャンセルとなりました。
しかし、例年に比べ出展者も参加者も少ないことから、3日間でも十分に全会場を見て回ることができました。
本記事では、CESのメイン会場であるLVCCと、各国のスタートアップが数多く出展しているEureka Parkの様子をメインでお伝えできればと思います。
メイン会場 LVCCの様子
LVCC自体も大きく2つの建物があり、非常に広大な会場です。
メインであるWorld Trade CenterのCental HallとSouth Hallにて大企業の展示が行われ、2021年に新たにオープンしたWestgateに自動車の展示が行われているWest Hallがあります。
World Trade CenterとWestgateは渡り廊下でつながっており、徒歩15分程度で移動できるのですが、Loopという新たな交通手段が2021年にオープンし、地下トンネルを通ってテスラで移動も可能です!
1~2分でスムーズに移動ができるだけでなく、カラフルなトンネルやまだ日本では販売されていないモデルYにも乗車できるなど、アトラクションとしても楽しめました。
今はまだ人間が運転していますが、将来的には自動運転かつラスベガス全域を移動可能になる計画とのことで、実現が今から待ち遠しいですね。
LVCCのメインホール、Central Hallでは多くの大企業の出展が行われていました。
その中でも特に目立っていたのが、最も広大な面積で展示を行っていたSumsungです。
「Together for Tomorrow」をテーマに掲げ、未来の暮らしをイメージできるようなスマートホーム家電や、ARを使った運転体験、本物の絵画に見えるような液晶など多くの商品が展示され、技術力の高さとともに、Sumsungの野心的なビジョンが表れていました。
Samsungと同じく韓国企業のHyundai、SKも会場の中心部にブースを出し、多くの人が入場していました。
Hyundaiはプレスリリースで掲げていた「メタモビリティ」、SKは「サステナビリティ」をテーマとし、それぞれのテーマを体感できる展示となっており印象的でした。
日本企業ではSony、Canonが大きなブースを出していましたが、いずれも会場の端のブースであることや、展示品の数が比較的少なかったことなどから、上記の韓国企業3社と比べると人の入りは少なかったように思いますが、Sonyの電気自動車やCanonの3Dの180°VR撮影カメラなどは注目を集めていました。
技術力の高さはもちろん重要ですが、多くの企業が集まるCESのような展示会場では、いかに明確にコンセプトを打ち出し、それらを体感できるようなブースデザインにするかも、企業レベルの高さを示すためには重要な要素だと感じました。
なお、番外編として、今回は出展を辞退したLGはメイン入り口の目の前の最も人の目につきやすい広大なブースに、これまでの企業の歩みや最新技術の紹介が書かれたパネルのみが置かれており、休憩所と化していました。
例年、大規模な展示で有名なLGがどのような展示を予定していたのかが気になるところですが、来年の復活展示を期待したいですね。
WestgateにあるWestHallでは、多くの企業が自動車の展示を行う中、特にベトナムのVinfastは会場の中心部で多くの最新モデルの電気自動車を展示していました。
同社は内燃エンジン(ICE)自動車の生産を停止して、2022年後半から完全電動自動車両生産に移行することを発表するなど、新興会社にも関わらず、大企業にも負けないスピード感で電気自動車の開発を進めています。
また、LVCCの外では野外展示が行われ、ここでは特にBMWのColor Changing Carが多くの注目を集めていました。
Kindleで使われている電子インクをボディ表面に活用し、色素を移動させることで色が変わるという仕組みで、ボタン一つで、色や模様を変えることができます。
現時点では白黒でしたが、カラー表示への対応も計画しているとのことで、近い将来このようなファッショナブルな車が身近になるのかもしれません。
他にもJohn Deereの世界初の農業用自動トラクターに乗れたり、Sierra Spaceの再利用可能な宇宙船であるDream Chaser Spaceplaneを見れるなど、野外展示ならではの大規模な展示がされていました。
各国のスタートアップ展示の様子
続いて、各国のスタートアップの展示が集まるEureka Parkについてご紹介します。
Eureka Parkは、Venetian Expoのメイン会場2階分を使って開催されている、スタートアップを中心とした展示会場です。
ある程度規模の大きい中小企業は各社個別でブースを出していますが、多くは設立後数年程度のスタートアップが数十社程度集まって、1つのブースとして展示しています。
広大な会場に韓国、フランス、イタリア、日本、イギリス、イスラエル、台湾、オランダ、ウクライナ、トルコなどの国々がブースを出していました。
日本のブースはJETROを中心とする政府機関のスタートアッププログラム「J-Startup」とCES出展支援のための「Japan Tech Project」が運営するブースがあり、約60のスタートアップが出展していました。
ロボット、IoTデバイス、半導体、ペットテックなど幅広い領域から出展されており、特にSkyDriveの「空飛ぶ車」の試乗ブースには多くの人が訪問していました。
大企業ブースと同じく、会場の至る所で目にしたのが韓国のスタートアップです。
韓国では政府がスタートアップの起業を後押ししており、各スタートアップだけではなく大学の研究機関もブースを出すなど、国全体でエコシステムを発展させている気概を感じました。
数百社あるスタートアップの中で、特に注目を集めていた企業をいくつかご紹介します。
Engineered Arts(イギリス)
Engineered Artsは、人間に近い表情で会話を行うヒューマノイド「Ameca」を開発しています。
Amecaのボディはすべて金属とプラスチックで、顔はグレーでジェンダーレス、頭の中には17個のモーターがあり、動きや表情をコントロールしていて、現時点では歩行はできませんが、開発計画中とのことです。
今回のCESで、ラテックスで肉付けされたAmecaが初めて一般公開され、来場者の質問に答えたり、会話をしたりしている様子が見られました。
iRomaScents(イスラエル)
iRomaScentsは映画鑑賞時やCMの特定のタイミングに香りをつけることで、顧客体験の向上を目指し、映画やビデオのエンターテインメント性を高めています。また、香水などのオンラインショッピングの体験を向上させることも可能です。
充電式バッテリーを内蔵した小型ユニットと、さまざまな香りを封入したリサイクル可能な「グリーン」エレメント(香りのカプセル)を搭載したトレイで構成されたプロダクトで、実際にCMを見ながら主人公が香水をつける場面で香りをかぐことができました。
映画館施設などへの搭載も行われているとのことです。
DeepBrain AI(韓国)
DeepBrain AIは「AIヒューマン」による世界初のリアルタイム映像合成ソリューション「AI Studios」を開発している韓国の企業です。
撮影を行うことなく、簡単に動画を制作することができるため、スタジオ費用や照明、カメラ、スタッフが不要で、台本を打ち込むだけで、人間の司会者と同じようにAIキャスターが自然に話し、身振り手振りを使ったAI映像を作成することが可能です。
CES 2022 Innovation Awardsの「ストリーミング」部門に選出されるなど、大きな注目を集めており、韓国では無人のコンビニエンスストアでの接客などにも活用されているとのことです。
その他、多くの国のブースで、出展を取りまとめている機関が1~2時間程度のスタートアップピッチイベントやネットワーキングイベントを開催し、数多くの注目スタートアップを紹介していました。
ハードテックのスタートアップ・エコシステム
最後に、Eureka Parkで行われたハードウェア・スタートアップ・エコシステムに関するパネルディスカッション「The Hard-Tech Startup Economy」の内容を簡単にご紹介します。
パネリストおよび登壇者は以下の5名です。
- David Roberts:Indiana Economic Development Corporation、EVP Innovation
- Shana Downs:May Mobility、Director, Sales & Channel Management
- JF Gauthier:Startup Genome、CEO
- Bryan Ritchie:SIMBA Chain、CEO
- Don Wettrick:STARTedUP Foundation, Inc.、CEO
パネル全体を通して、ハードウェアとソフトウェアのスタートアップ・エコシステムの違いに関して話が展開されました。
ハードウェア・スタートアップへの投資には、ソフトウェア・スタートアップよりも倍近く長い期間の支援が必要であり、投資家は投資先の企業を信じて辛抱強く待つ必要があります。
ソフトウェアでも、適切な投資家やサポーターを見つけるためにどのエコシステムで起業をするのかは非常に重要ですが、ハードウェアはソフトウェアに比べてより長期間の支援が必要となるため、同じような志を持った起業が多く集まる場所を探して起業することの重要性がさらに高まると述べていました。
例えば、ソフトウェアではシリコンバレーがエコシステムとしては最も発展しているものの、ハードウェアの割合はわずか数%のみで、シリコンバレーで起業をしても十分に成長するのは難しい一方で、ミュンヘンやインディアナ州などは、ハードウェアに強い研究機関や大学の拠点となっているため、ハードウェア・スタートアップの起業には向いています。
また、ソフトウェアと異なり、ハードウェアの開発には高額な設備や機器への投資が必要であり、そのような設備を使用可能なインキュベーション施設などが集まっていることも起業場所の選定において重要な要素となります。
また、エコシステム内のコミュニティの大きさに関しては、ハードウェア・スタートアップのコミュニティは小さくても専門領域に特化したものの方が効果的だと述べ、ファームテックでは、インディアナ州のウェストラフィエット、マイクロエレクトロニクスでは、ノースカロライナ州のリサーチ・トライアングル・パークを例に挙げていました。
ソフトウェア・スタートアップのコミュニティが、対象を広げてコラボレーションを促進することが多いのに対して、ハードウェア・スタートアップのコミュニティはあえて一定の大きさにとどめているとのことです。
ソフトウェア単体、ハードウェア単体でイノベーションを起こすことは難しく、いかに両社を連携させたイノベーションを起こせるかが成功の鍵となります。
また、ハードウェアにおけるサプライチェーンは大きな課題であり、サプライチェーン・マネジメントを適切に行うことも、重要な成功要素であると述べられていました。
今後のハードウェアトレンド
大企業からスタートアップまで、様々なハードテック企業の展示を見たうえで、今後のハードウェアトレンドとしては、
- 他社との協業の促進
- サステナビリティを意識した動きの加速化
- メタバースの発展への期待
が見られるのではないかと思います。
他社との協業の促進
パネルディスカッションで述べられていたように、連続的なイノベーション創出のためにはハードウェアとソフトウェアの両社の発展および複数技術を掛け合わせることが不可欠です。
今回のCESでも、SamsungとPatagoniaが、マイクロプラスチックの影響を最小限に抑えることを目的とした新しい洗濯機を協同開発を発表し、注目を集めていました。
他業種をはじめ、政府・大学・研究機関等との連携を進めることが、企業の成長への道となることは間違いなく、そのためには、企業ビジョンとの親和性を意識したうえで、幅広い観点でのイノベーショントレンドをウォッチし、技術の陳腐化を防ぐためにスピード感のある意思決定を行っていくことが必要だと考えられます。
サステナビリティを意識した動きの加速化
少し前までは、「サステナビリティ」と言えば、再生エネルギーを中心とした話と理解されることが多かったように思いますが、CESの中ではスマートシティ、資源、食材、人材、情報管理など、広範囲での「サステナビリティ」がアピールされていました。
コロナ禍において、経済・社会・消費者体験・生活の至るところで高いレベルを求める消費者が増え、企業の選択観点の変化したことにより、今後は、各社から顧客へのアピールポイントとして、どの観点での「サステナビリティ」を打ち出すのかが重要になるのではないかと考えられます。
メタバースの発展への期待
今回のCESでは至る所で「メタバース」がバズワードとして溢れていましたが、まだ各社によって定義は曖昧なままです。
今後はさらにメタバースの領域が細分化されると考えられるため、各社がメタバースを使って、何を実現したいのかを明確に示すことが求められています。
その点において、Hyundaiは具体的に「メタモビリティ」というテーマを掲げ、実現したい未来を描けていて納得感のあるものだと感じました。
また、メタバースをより身近なプロダクトとするためには、ハードウェア機材の小型化が必須です。
CESの一部の展示では、ゴーグルなしで3Dに見える液晶などが見られましたが、多くのプロダクトはメタバース空間を体験するためにゴーグルやボディスーツの着用が必須なのが現状です。
ゲームなどのエンターテイメントとしての活用は可能であっても、日常的な活用にはどうしても煩わしさを感じてしまうため、ハードウェアの発展があって初めてメタバースを使った生活が身近になるのではないかと思います。
いかがでしたでしょうか?
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。
投稿者:大谷 奈々
オーストラリア滞在中に仲良くなったコロンビア人からレゲトンミュージックやサルサダンスを教わったことからスペイン語圏の文化に興味を持ち、スペイン語の学習を始める。
現在は、大手コンサルティングファームで人事コンサルタントとして働きながら、RouteXでは主にスペイン語圏のスタートアップエコシステムのリサーチを担当している。