MediaとしてCES2022に現地参加
2022年1月3〜7日の5日間に渡り、アメリカ・ラスベガスにて世界最大の電子機器見本市であるCESが開催されました。
今回は、弊社の大谷がメディアパスを取得し、現地にて参加してきましたので、その様子をお伝えします。
CESは1967年から50年以上開催されており、CTA(Consumer Technology Association)が主催しています。
今年はオンラインとオフラインのハイブリッド開催でしたが、2021年はコロナウイルス感染防止のため完全オンライン実施でしたので、現地での展示があるのは2020年以来2年ぶりとなります。
今年も一部の企業は出展をとりやめ、2020年に比べ、出展者は約半減の2,300社、参加者は約7割減の40,000人ほどと例年に比べると規模の小さい開催ではあったものの、やはり実際に展示品を見て体験できるのがCESの大きな魅力の1つですので、現地で参加することで得られたものは非常に多かったと感じています。
CESの全日程のうち、1月3日・4日の2日間はMedia Dayとなっており、メディアのみが参加できる先行展示会やプレスリリースイベントが行われます。
メディア参加者のみが経験できる様々なイベント・特権がありますので、今回の記事ではそのMedia Dayの様子をお伝えします!
コロナウイルスの感染が広がる中でしたが、CESの開催の様子をいち早く届けるために、数多くのメディアが世界から集まっており、CTAの公式発表によると今年は約1,800のメディアが参加していたとのことです。
正確な数字ではありませんが、お会いした限りだと30ほどの日本のメディアが現地で参加されていました。ただし、やはり渡航制限もあったためか、アメリカ在住の日本メディアの方が多かった印象です。
来年以降、CESへの現地参加を検討されている方、Media Dayの様子が気になる方は是非ご覧ください!
Media Day1 -CES 2022 Tech Trends to Watch-
Media Day1日目の1月3日は午後4時から8時半までの短時間ですが、2つのコンテンツがありました。
1つめは、「CES 2022 Tech Trends to Watch」と題し、主催者CTAのマーケットリサーチ部門VPであるSteve Koenig(スティーブ コーエン)氏が今年のCESの注目ポイントについて話しましたので、ポイントをまとめて紹介します。
コンシューマーテクノロジーは成長傾向
まず、世界的にコンシューマーテクノロジーは成長傾向にあると述べ、すでに成熟しているアメリカ国内市場でもハードウエア、ソフトウエア合わせて2021年には9.6%もの成長を示し、2022年は2.8%程度の成長になると予測しています。
その理由としては、以下の3点を挙げていました。
- パンデミックによって消費者が技術の向上を望み、多くの資金が技術改善への投資に使われていること
- 消費者が普通の体験よりも、よりプレミアムな体験を求める「高級志向」になっていること(例:Beatsのヘッドフォンや、任天堂のSwitchなど)
- 業界においてサービスが重要な役割を担っていること(例:Netflix、Amazon Primeなどのストリーミングサービス)
技術の発展により、ハードウェアの機能やソフトウェアのサービスレベルが向上し、消費者が求める水準もどんどん高くなってきていることで、さらに技術の発展への投資が増える、というまさに成長のサイクルが回っており、その動きがパンデミックによりさらに加速化していることが、コンシューマーテクノロジーの成長傾向につながっていると言えるでしょう。
コンシューマーテクノロジー業界における課題
コンシューマーテクノロジー業界が直面する課題としては、サプライチェーンとチップ不足の2点を挙げていました。
具体的には、(直近では少し下がっているものの)全体として輸送コストが増しており、テクノロジー業界に限らずマルチセクターの課題として、サプライチェーンの効率化が重要ということです。
また、特に自動車メーカーはチップ不足の危機に陥っており、半導体の搬入までに平均で5.5カ月以上待つ必要があるとのことです。
短期的な解決策としては生産ラインの増加や24時間体制の強化でチップの製造を進め、2022年には2021年の倍の製造ができると予想されています。
また、長期的な解決策としてはIntelやSamsungなどの主要プレーヤーがチップの製造施設への投資を進めています。
現在は半導体の4分の3が東アジアに集中しており災害発生時などの地理的リスクが大きいため、アメリカやヨーロッパにも製造施設を増やそうという動きが特徴的です。
メタバースの今後
5G、AIと並んで注目のテクノロジーとして取り上げられたのが「メタバース」です。
「メタバースは存在するのか?」という問いには、「存在し始めている」という曖昧な回答でしたが、10~20年後には現実になるだろう、と言われていました。
なお、メタバースはハードウェアベース、ソフトウェアベース、暗号資産ベースという3つのアプローチに分類できると述べていました。
CES2022のトレンド
最後に、CES 2022で注目すべきトレンドとして、「トランスポーテーション」「スペーステック」「サステナブル・テクノロジー」「デジタルヘルス」の4つを挙げていました。
中でも「デジタルヘルス」がより詳細に取り上げられていました。
パンデミックにより、遠隔医療や日常生活を見守るための小型センサーやウェアラブルデバイス・診断システムの改善が行われているとともに、メンタルヘルスに関しても注目が集まっているとのことです。
アメリカ人の52%はテクノロジーの力を借りてウェルビーイングを目指すことに前向きだという結果を示し、今後より多くの人々が日常的にデジタルヘルステクノロジーを活用すると述べていました。
45分という限られた時間の中でしたが、コンシューマーテクノロジーに関する幅広い領域のトレンドを掴むことができる、非常に良い講演でした。
Media Day1 -CES Unveiled Las Vegas-
CES 2022 Tech Trends to Watchの後は、「CES Unveiled Las Vegas」と称したメディア向けの先行展示会がありました。
一般公開の会場ではスタートアップだけでも800以上の出展があるのに対して、この会場では約130の中小企業・スタートアップのみの出展のため、メディアとの接触時間が長くとれ、出展企業にとっては非常に良いPRチャンスとなります!
多くの会社が自社の製品を紹介しながら、メディアのインタビューや取材に応じていました。
実は後日行われる一般公開用の展示会では、圧倒的に韓国企業の出展が多かったのですが、メディア向けの展示会ではアメリカ・フランス・日本のスタートアップの出展が多かった印象です。
セクターとしては、トレンドでも述べられていたようにヘルスケア関連企業が特に多く見られました。一部のヘルスケア関連企業を簡単に紹介します。
Vivoo(アメリカ)
尿から栄養状態を把握できる検査キットを開発しているアメリカのスタートアップ。
検査結果をアプリ内のカメラでスキャンすることで、各自に合わせた食事や栄養素レコメンドを得ることができます。
私もトライアルキットをもらって試しに使ってみましたが、非常に簡単に使えて、かつデザインもかわいく持ち歩くのも抵抗がないため、日常的に健康状態のチェックを簡易的に行える非常に良いツールだと感じました。
Ybrush(フランス)
電動歯ブラシの発展版として、歯形型の電動歯ブラシを開発するフランスのスタートアップ。
手を動かすことなく、歯全体を磨くことができ、10~20秒ほどで歯磨きが終わるとのことです。
最新版ではアプリとの連動が可能で、アプリ内で歯の状態を確認しながら磨くことができます。
こちらは口の中で試すことはできませんでしたが、手で振動を確認すると、程よい強さでブラシが動き、効率的かつ効果的に歯磨きができそうでした。
Baracoda(フランス)
アプリ連動型の電動歯ブラシ、体組成計機能等を搭載したスマートバスマット、肌診断やヘアセットができるタッチパネル型ミラーなど、最新テクノロジーを使った健康・美容製品を開発するフランスの中小企業。
これまでにCES Innovation Awardを6つも受賞しているイノベーション企業です。
タッチパネル型ミラーを体験しましたが、メイクやヘアスタイルのチュートリアルをミラーパネルで見ながら実際にメイクができるため、簡単にイメージ通りのメイクができると感じました。
上記のようなヘルスケア企業の他、ロボット、スマートホームデバイス、ペットテックなど様々な領域の企業が出展していました。
本展示よりは各ブースが狭いため、乗り物関連など大型機器の体験は難しいものの、その他のデバイスは参加者がメディアのみのためすぐに体験することができ、先行展示に出ることで本展示で確認すべき領域もイメージがしやすく、非常に有意義な時間となりました。
Media Day2 -Press Release Event-
Media Dayの2日目は、1日目と同じMandalay Bay会場にて、大企業のプレスリリースイベントが行われました。
プレスリリースイベントを行った企業は以下の通りです。
(※はオンライン配信で実施)
- LG Electronics ※
- Bosch ※
- Hisense ※
- Intel ※
- Qualcomm
- BODYFRIEND
- John Deere
- Canon
- Advanced Symbolics
- Doosan Bobcat
- Ottonomy
- Hyundai
- Indy Autonomous Challenge
- Sony
CanonやSonyも多くのメディアが訪れ、会場が人数制限で入れない状態にまでパンパンになっていましたが、最も大きい会場を押さえ会場入りの行列が最も長かったHyundaiについて言及できればと思います。
プレスリリースには、Hyundai会長のChung Euisun(チョン・ウィソン)氏、昨年6月にHyundaiに買収されたロボット開発企業Boston Dynamicsの代表であるMark Raybert(マーク・レイバート)氏、さらにはMicrosoftでVPを務めるUlrich Homann(ウルリッチ・ホマン)氏など、パートナー企業も登壇し、他社との協業をアピールしているように感じました。
Boston Dynamicsの買収をはじめ、Hyundaiは近年ロボット開発に注力し、「Expanding Human Reach」をコンセプトに掲げて、ロボットの力を使って人間の可能性を広げることを目指しています。
「Expanding Human Reach」の具体例としては、
- 人間が足を踏み入れることが危険な災害地に病院を移動させて災害援助を行う
- 身体の不自由な障がい者がウェアラブルロボットを利用することで自由に動けるようになる
- ウェアラブルロボットで通常の人間の力では持ち上げることができない重たい荷物を運ぶ
などが具体的なイメージとともに紹介され、現在の工場ロボットのように単一の動きを行うロボットではなく、「人間のパートナーとしてロボットと共存する未来は、すでに現実のものになっている」と話していました。
また、空間、時間、距離に縛られず、ロボットをメタバースに接続することで、現実世界と仮想現実を行き来する「メタモビリティ」の構想についても紹介し、具体例としては、
- 現実世界で海外のカンファレンス(CESを例に挙げていました)に出ながら、仮想世界を通して自宅のペットの世話を行う
- 仮想世界の自分が火星に行き、火星の生活を体験する
などが挙げられ、仮想世界で何かをするだけではなく、仮想世界での動きが現実世界に影響するのが同社が描く「メタモビリティ」だと強調しました。
まだまだメタバースの概念が曖昧な中で、Hyundaiは明確なメタバースの活用イメージを表現しており、まさにSF世界が現実になるように感じられ、非常にワクワクするプレスリリースイベントだったと感じました。
MediaとしてCESに参加するメリット
いかがでしたでしょうか?
メディアパスを取得すれば、上記のような特別なセミナーやプレスリリースに無料で参加することが可能なため、より多くの一次情報に触れることができます。
また、無料のランチやドリンクをもらえたり、高速Wifiやプリンター、インタビュールームなどが整備されているメディア専用ルームにも自由にアクセスできます。
世界中の大手メディアから個人でYouTubeやブログで配信しているインフルエンサーまで幅広いメディアがメディアパスを取得していますので、それぞれのメディアによって特化している領域や見方が異なり、意見交換ができるのも面白いポイントです。
Media Dayで得られた情報より、
- ライフスタイルに取り込むテクノロジー領域の拡大
- メタバースの概念を活用したリアルとバーチャルの融合
- 業界の垣根を超えたイノベーション・コラボレーションの増加
といった動きが、今後より加速すると考えられます。
今回は主に大企業の動きをメインにトレンドをお伝えしましたが、RouteXが専門としているスタートアップにおいても、各国特有の課題・ライフスタイルを踏まえた新たなソリューションが生まれています。
大企業と異なる点として、スタートアップはよりニッチな課題にアプローチしており、それゆえ、これまで考えられていなかった「痒い所に手が届く」新たなイノベーションが創出されています。
大企業が大規模に技術開発を推進することで、人間がAIやロボットとの新たなテクノロジーと共存するライフスタイルを受け入れる体制が整いつつあり、スタートアップにとっても成長の追い風になることは間違いないでしょう。
次回はそんなスタートアップに特化したEureka Parkの会場を含め、大企業の展示やAutomotive展示など、盛りだくさんのCES本展示の様子についてお届けします!
投稿者:大谷 奈々
オーストラリア滞在中に仲良くなったコロンビア人からレゲトンミュージックやサルサダンスを教わったことからスペイン語圏の文化に興味を持ち、スペイン語の学習を始める。
現在は、大手コンサルティングファームで人事コンサルタントとして働きながら、RouteXでは主にスペイン語圏のスタートアップエコシステムのリサーチを担当している。
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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