2021年10月5日~7日の3日間にわたって、スペイン・マドリードにて、スペイン語圏最大級のStartup & Technology ConferenceであるSouth Summitが開催されました!
RouteXはMedia Passを取得し、イベントへの参加および運営主であるSpain StartupのCEO、Marta del Castillo(マルタ・デル・カスティージョ)氏に公式に取材をすることができました!
スペインだけではなく、ラテンアメリカからも多くの注目企業を招く本カンファレンスの様子と、カンファレンスを通して語られたスペインおよびラテンアメリカのスタートアップ・エコシステムの特徴について、前編・後編の2回に分けてお伝えしていきます。
後編の本記事では2日目・3日目に実施された注目のコンテンツ2つとマルタ・デル・カスティージョ氏へのインタビューの様子をお届けします!
<<South Summitの前編記事はこちらからご覧いただけます!>>
【注目コンテンツ③】スタートアップ・ピッチ
South Summitでも他のスタートアップ・カンファレンスと同様に、若いスタートアップのピッチイベントが毎年行われています。
多数の応募の中から100社のスタートアップが選ばれ、カンファレンス初日・2日目にそれぞれ5分間のピッチの機会が与えられます。
その100社の中からファイナルラウンドに残った10社を簡単にご紹介します。
Energy & Sustainability部門:Alerion(アレリオン)
ドローンやAI等の最新技術を活用し、風力発電機・製油所の検査、データ分析、デジタルツインの開発などを通してエネルギー開発支援を行っている。
Digital Business & Government部門:Ponicode(ポニコード)
AI技術をベースにコードのバグなどを検知し、適切なコーディングテストを提案することで、エンジニアのタスクを効率化すると同時にコーディングの品質を担保している。
Consumer Trends部門:TuneFork(チューンフォーク)
各人の耳の特徴(耳紋:指紋の耳版)をアプリで検査し、検査結果に合わせてオーディオの効果を変えて、パーソナライズされた音質や臨場感を与えるオーディオサービス提供している。
Connectivity & Data部門:Internxt(インターネクスト)
ファイルを複数のセグメントに分割して複数のストレージに分散することで、ストレージの故障やハッキング攻撃があってもデータにアクセスされない新しい分散型クラウドストレージを提供している。
Education部門:Symba(シンバ)
就職前のインターンシップに特化して、インターンのオンボーディングやパフォーマンス評価などを行うタレントマネジメントツールを提供している。
Industry4.0部門:ienai Space(イェナイ スペース)
ナノ/マイクロ衛星向けのオンボード推進システムを提供し、最適化された軌道提案やカスタマイズされたロケットの設計を行っている。
Mobility & Smartcities部門:Logístiko(ロジスティコ)
物流における配送計画、配送管理、分析をリアルタイムで実施し、ラストワンマイルのロジスティクスを実現するクラウドサービスを提供している。
Travel & Tourism部門:Wheel the World(ウィール ザ ワールド)
障がい者向けの旅行プラットフォームを提供し、障がいを持つ旅行者がアクセスしやすい宿泊施設や観光地を提案している。
Health & Wellbeing部門:IDOVEN(イドヴェン)
心筋梗塞などの心臓病を防ぐために、クラウドベースのAIプラットフォームで新たなデータドリブンでの心臓病検査を提供している。
Fintech & Insurtech部門:Weecover(ウィカバー)
特に保険未加入者向けに100%オンラインで行えるBtoBtoCのオンライン保険プラットフォームを提供し、保険商品のデジタル見積・購入プロセスをサポートしている。
上記の10社のうち、審査員および観客の投票により、Education部門のSymba(シンバ)が最優秀賞を受賞しました!
また、以下のスタートアップがそれぞれ賞を受賞しました!
- サステナブル賞:Alerion(アレリオン)
- ベストチーム賞:Wheel the World(ウィール ザ ワールド)
- ディスラプティブ賞:IDOVEN(イドヴェン)
- スケーラブル賞:Weecover(ウィカバー)
どのスタートアップも非常に面白いソリューションを提供し、新たな課題解決に臨んでいました。
世界の最新のスタートアップ・トレンドを理解できるのがスタートアップ・ピッチの良いところですね!
【注目コンテンツ④】ペドロ・サンチェス首相のスピーチ
最終日のクロージングでは、スペインのペドロ・サンチェス首相がスピーチを行いました。
以下、スピーチからキーメッセージを抜粋してお伝えします。
サンチェス首相は、スペインが新型コロナウイルスのパンデミックから、早く回復する必要があることを強調し、財政的にも環境的にも持続可能で、社会的結束力と男女平等性の向上を実現するために、デジタル化がより重要な役割を果たすと主張しました。
具体的には、起業家や投資家を中心に、経済の生産モデルを変えるための「マスターキー」であるデジタルトランスフォーメーションに205億ユーロを割り当てることを強調していました。
スペイン政府は、スペインを「スタートアップ国家」にすることを目標に掲げ、5Gの展開、中小企業や公共部門のデジタル化、研究開発、教育と人材の誘致、データ経済に重点を置いています。また、2027年までにGDPに占める研究開発費の割合を2倍にすることを目標としています。
サンチェス首相は、デジタル化への移行を促進するために、スペイン起業家国家戦略を承認し、官民で最大40億ユーロの投資を行うNext Tech Fundを立ち上げたことを振り返り、こうした一連の取り組みが、140カ国のデジタル競争力を測る「Digital Riser Report 2021」の指標で、スペインが7ポイント上昇して欧米各国の中で3位になったことにも反映されていると述べました。
スペインでは、通称「スタートアップ法」と呼ばれる「スタートアップエコシステム促進法(Ley de Fomento del Ecosistema de las Empresas Emergentes)」の制定が予定されており、2021年中に下院議会に提出される予定です。
この法律が承認されれば、スタートアップの設立に税制上の優遇措置が適用され、スペインにおけるスタートアップ・エコシステムが加速することが期待されています。
スピーチからは、「起業家国家スペイン」の実現に向けて、政府が非常に力を注いでいることが改めて感じられました。
<<「スペイン起業家国家戦略」や「スタートアップ法」についての記事はこちらからご覧いただけます。>>
一国のトップである首相がスタートアップ・カンファレンスに出席することは日本では非常に稀ですが、2021年6月にフランス・パリで開催されたViva Technologyでもエマニュエル・マクロン大統領がスピーチを行うなど、海外では国家主導でスタートアップ・エコシステムの構築を推進していることが見受けられ、これもスタートアップ・カンファレンスの大きな魅力の1つだと感じます!
<<Viva Technologyのマクロン大統領のスピーチについての記事はこちらからご覧いただけます。>>
Startup Spain CEO マルタ・デル・カスティージョ氏への独占インタビュー
最後に、RouteXがMedia Passを取得して独自に行った、Marta del Castillo(マルタ・デル・カスティージョ)氏へのインタビューをお届けします!
カスティージョ氏はSouth Summitの運営主であるStartup SpainのCEOを務められています。
そんな彼女から、今年のSouth Summitにかける思いや、ラテンアメリカとのつながり、スペインのスタートアップの状況などについてたっぷりお伺いしてきました!
South Summit 2021のテーマ
South Summitのテーマを考える際には、世界中の課題解決に少しでもプラスの影響を与えられることを意識しているとのことです。
昨年から今年にかけては、新型コロナウイルスのパンデミックを受け、世界中の起業家や投資家は大きなダメージを受けました。
このような世界的な危機を「新たなチャレンジの機会」だと捉えて、共に乗り越えられる解決策の1つとなる何かを提供したいという、強い思いを抱いていたとのことでした。
そこで、South Summit 2021では「サステナビリティ」をテーマの1つとして掲げ、参加者全員が小さなアクションに取り組めるように、カーボンフットプリントの取り組みや再利用可能なマスクの配布などを実施したとおっしゃっていました。
Startup Spain自身も2030年までに50%以上のCO2の削減を掲げており、政府・大企業・スタートアップ・学術機関など、多くのセクターを巻き込んで行われるSouth Summitを通して、サステナビリティに関する意識向上を目指しているとのことでした。
ラテンアメリカとのつながり
来春には初のブラジルでのSouth Summitの開催が予定されています!
スペインとラテンアメリカはすでに文化的・言語的なつながりがあり、South Summitを通してスペインを始めとするヨーロッパ各国のスタートアップがラテンアメリカに行くことで、スペインとラテンアメリカの絆がさらに深まることを促進していきたいとのことでした。
また、将来的にはラテンアメリカのみならず、他のスタートアップ・エコシステムとのつながりも強化していきたいとのことです。
ラテンアメリカでは貧困層が多く、従来は「チャリティー」の一環としてのサービス提供が基本とされてきましたが、今では社会課題の解決がビジネスにつながると捉えて、貧困層の国民をチャリティーの対象ではなく、サービスの顧客として捉えることが重要であり、その結果としてビジネスの拡大にも社会課題の解決にもつながると述べていたのが、印象深いです。
また、South Summitの一部のパートはスペイン語で実施されているのですが、その理由についても、ヒスパニックとしての絆を強める意図があると伺いました。
開催当初はすべて英語で実施していたそうですが、近年はスペインやラテンアメリカ出身でアメリカで起業する人など、スペイン語圏出身者の起業家が増えていることから、英語をメインとしながらも一部のセッションはスペイン語で実施して、インクルージョンを高めることを目指しているそうです。
このようなグローバルを意識しつつも、ナショナリズム的な動きがあるのは非常に面白いですね!
スペインのスタートアップ・エコシステムの特徴
スペインのスタートアップは、まずは国内展開を進め、その後はEU圏内でのサービス展開を優先しますが、近年ではラテンアメリカの他、北アフリカや東欧・中東への進出も多くなっているとのことです。
理由としては、地理的な近さに加えて、ヨーロッパと比べると経済が未発達なため、参入障壁が低いことや、競合が少ないことにより、ビジネスの急拡大が見込めるからとのことで、創業時点から海外展開を見込んでいるスタートアップが大半とのでした。
一方で、スペインのスタートアップが抱えるチャレンジとして、税規制や会社登記にかかるプロセスの複雑さが挙げられると言い、イギリスやドイツなど他のヨーロッパ諸国と比べて、スペインのスタートアップ・エコシステムの成長が遅い原因だと捉えているとのことです。
また、国内のVCや投資家の少なさも課題の1つだと言います。現在は、海外の投資家からの資金が中心となっていますが、国内での資金調達が活発化すれば、よりスタートアップの成長が促進されるはずだと述べていました。
ただし、スペインの土地柄や気候に惹かれるノマドワーカーの多さや、学術機関の多さ、人材の豊富さは強みであり、現在、政府を中心に上記のような課題に取り組んでいるため、今後の成長には大いに期待できるとおっしゃっていました。
また、スペインのスタートアップは日本を始めとするアジア各国への進出を非常に望んでいるとのことです。
一方で、文化的な違いや規制の強さに加えて、情報の欠如が大きな壁となり、市場拡大の検討の俎上まで上げることがなかなか難しいのが実態だそうです。
RouteXとしても、今後は英語での情報発信も増やし、海外のスタートアップ・エコシステムに向けた情報提供を担っていかなければならない、と強く感じました。
ぜひスペインのスタートアップとのコラボレーション機会も作っていきたいですね!
まとめ
いかがでしたでしょうか?
今回のレポートでは、South Summitのイベントレポート後編として、スタートアップ・ピッチ、ペドロ・サンチェス首相のスピーチ、そしてカスティージョ氏へのインタビューをお届けしました!
カスティージョ氏へのインタビューは、オンラインでの実施でしたが、1つ1つの質問に丁寧に回答していただき、South Summitに込められた思いやスペインの今の状況がよくわかり、非常に貴重な機会となりました。
来年実施されるスペインおよびブラジルでのSouth Summitにもご招待いただきましたので、ぜひ次回は対面でのインタビュー結果をお届けできればと思います!
国家主導でスタートアップ・エコシステムの構築に燃えるスペインの動きに今後も要注目です!
投稿者:大谷 奈々
オーストラリア滞在中に仲良くなったコロンビア人からレゲトンミュージックやサルサダンスを教わったことからスペイン語圏の文化に興味を持ち、スペイン語の学習を始める。
現在は、大手コンサルティングファームで人事コンサルタントとして働きながら、RouteXでは主にスペイン語圏のスタートアップエコシステムのリサーチを担当している。
RouteX Inc.では、スペインを始め、引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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