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記事一覧 > ヨーロッパはシリコンバレーに比べてユニコーンの誕生が少ない

本記事はフランスのイノベーション支援機関BM Conseil Innovationでアカデミック・アントレプレナーシップ部長を務める、Bruno Martinaud氏の記事「L’Europe produit moins de licornes que la Silicon Valley」を翻訳したものです。本文の最後に弊社の考察を含みます。


大きく考え、速やかに行動し、何も恐れない…
ヨーロッパではユニコーンが誕生する割合が低いのです。
2022年にアルマン・ブロック氏と共著した『Objectif: Mars!』の序文では、ヨーロッパにはスタートアップ支援プログラムが約2倍も存在し、十分な数のプロジェクトが生み出されているにもかかわらず、それらがユニコーンへと転換される割合は非常に低いと述べています。一方、アメリカと中国は逆の傾向にあり、アメリカではユニコーンの数がほぼ維持され、中国では増加傾向にあります。具体的には、2019年のマッキンゼーの調査では、ヨーロッパが全スタートアップの30%を生み出しているにもかかわらず、ユニコーンはわずか14%にとどまっていると示唆されています。

さらに、2024年12月にCB-I(CB Insight Global Unicorn Club)が発表した統計も、ヨーロッパはシリコンバレーに比べてユニコーンの誕生が2.5倍少ないという事実を裏付けています。確かに、数十年にわたって起業家精神に適した環境が整っていることが、この現象の一因として挙げられるのは否めません。

資本、ネットワーク、スキル、そして研究―これらは成功するためのレシピの必須要素とされています。しかしながら、経済共同体であるヨーロッパが世界第3位の経済大国である一方、シリコンバレーはパリ近郊の規模に過ぎないという現実もあります。

どうやら、スタートアップの初期段階で支援を受けた我々の起業家は、他の地域と同様、最初に約束された成果を十分に実現できていないようです。

「ユニコーン、本当に?」

 もちろん、ユニコーンという概念自体は非常に主観的で投機的だと論じる余地があります。成長を支援するための資金調達ラウンドで評価額が10億ドルに達したとしても、それ自体は必ずしも大きな意味を持つわけではありません。実際、2022年以前のバブル期にユニコーンとして認定された多くのプロジェクトは、現在ではその状態にない可能性もあります。

しかし、ユニコーンの概念の背後にあるのは、単に評価額の高さだけではなく、そのスタートアップが自らの分野で将来的に有力なプレイヤー、つまりリーダーとなり得ると認められている点にあります。

この観点からすれば、ヨーロッパのパフォーマンスは確かに低いと言わざるを得ません。

なぜそうなるのか?

この現象の背景としてよく挙げられるのは、ヨーロッパ市場の断片化(言語、文化、各国の規制の違い)と、相対的な資本の不足です。確かに、ヨーロッパ市場は断片化しているという現実があります。しかし、起業家は自身のプロジェクトが最も発展できる環境を選ぶ必要があり、ヨーロッパにルーツを残しつつも、アメリカやアジアといった市場で事業を展開するケースも多いのです。例えば、医療分野のスタートアップであるCardiologsは、フランス企業でありながら、最初の市場としてアメリカを選んでいます。市場の断片化はプロジェクト開発における制約ではありますが、必ずしも致命的な障害ではありません。

また、資本の供給状況に関しては、その差は縮小しており、大規模な資金調達ラウンドを支援する投資家も現れています。さらに、資本は才能に応じて流れるという現実もあります。つまり、成長のための資本不足は、部分的には有望なプロジェクト自体の数が少ないことにも起因しているのかもしれません。

メンタルモデルの問題

市場の断片化や資本の供給不足だけでは、この現象を完全に説明できないとすれば、他に何が影響しているのでしょうか?

アルマン・ブロック氏と私が本書で探求した補完的な仮説は、いわゆる「メンタルモデル」、すなわち起業家がどのように考え、意思決定を行い、プロジェクトの成長に向けて行動するかという点です。

そのため、私たちはフランス、ヨーロッパ、アメリカ、中国、韓国、日本の起業家にインタビューを実施しました。これらの調査は厳密な研究とは言えないものの、非常に興味深い観察結果の出発点となりました。予想外のクラスターが浮かび上がり、アメリカと中国の起業家は、同じ起業家精神の文化、同じスピード感、同じ大きな目標、同じ実践的な行動、さらにはチャレンジへの立ち向かい方や、不確実性と成長の混沌を乗り越える能力を共有していることが明らかになりました。一方、ヨーロッパ(特にフランス)の起業家は、重要な意思決定においてリスク管理や分析に基づくアプローチを取る傾向があり、これはむしろ韓国や日本の起業家と類似しているように感じられます。

しかし、このような分析的思考は、管理可能で予測可能な環境では有効であっても、探索の不確実性や成長の混沌とした状況では必ずしも効果を発揮しません。

興味深いことに、シリコンバレー(およびそれに連なるアメリカ)の文化的背景は、中国と共有される要素も含め、以下の3つの基本価値に根ざしています。

  • 速やかに前進する
  • 大きく考える
  • 何も恐れない

これらの価値観は、もしかすると我々の起業家に欠けているのではないでしょうか?
また、起業家を育成する際には、プロジェクトをこれら3つの価値を軸に構築する方法を教えるべきではないでしょうか? 単に「Lean Startup」や「Business Model Generation」を読み込むだけではなく、実際にそれらの価値を体現するための実践的な方法を学ぶ必要があるのではないでしょうか?


本稿では、ヨーロッパにおけるユニコーンの誕生がシリコンバレーに比べて少ない現状について、その背景として市場の断片化や資本・ネットワークの不足、そして起業家のメンタルモデルの違いが挙げられることを論じられていました。これらの要因は、単に数値上のギャップとしてだけでなく、各地域の起業家精神や実践的な事業推進力に大きく影響していると考えられます。

このギャップを埋め、真にイノベーティブな企業を生み出すためには、「速やかに前進する」「大きく考える」「何も恐れない」という三つの視点から、実践的な手法を導入する必要があります。

例えば、「速やかに前進する」という視点では、ケーススタディやシミュレーション、スタートアップでのインターンシップなどを通じ、実践的な意思決定能力と迅速な行動力を養うことが求められるでしょう。これにより、計画段階だけでなく実際の市場環境でのトライ&エラーを短期間で繰り返し、改善を図る力が培われます。

「大きく考える」ためには、経験豊富な起業家や業界の専門家によるメンタリング、そして仲間同士でのピアレビューを通して、多様な視点からのフィードバックを受ける仕組みが有効です。また、Small Firms Enterprise Development Initiative社の調査によると、メンターが付いたビジネスの70%が5年以上存続しており、メンターなしの場合(生存率約35%)の2倍の生存率だったと報告されています。広い視野で事業戦略を構築し、スケールアップを目指す環境を整えることが重要です。

そして、「何も恐れない」精神を育むためには、失敗を肯定的に捉え、そこから学ぶ姿勢が不可欠です。実際に、日本政策金融公庫によると、起業関心層が起業に踏み出せない理由として、「自己資金の不足」に次いで「失敗した時のリスクが大きい」という不安があるという結果が示されています。

失敗事例の共有やフェイルフェストのようなイベントを通じ、失敗を単なる挫折と見るのではなく、次へのステップとして活かす文化を醸成することが求められます。これにより、リスクを恐れずチャレンジし続ける起業家精神が育まれ、結果として市場における革新的な企業の誕生に寄与することが期待されます。


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