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記事一覧 > イノベーティブなプロジェクトを成功させるためには「三つの人生」が必要だ

本記事はフランスのイノベーション支援機関BM Conseil Innovationでアカデミック・アントレプレナーシップ部長を務める、Bruno Martinaud氏の記事「Il faut 3 vies pour réussir un projet innovant」を翻訳したものです。本文の最後に弊社の考察を含みます。


2008年に発表された記事の中で(現在でも十分に通用する内容だが)、ハーバード・ビジネス・スクールの教授であるノーム・ワッサーマンは、スタートアップの創業者の50%が3年目までにCEOの座を退いていることを指摘している。この割合は4年目には60%に上昇し、IPO(株式公開)前には4分の3の創業者が退任している。この現象は特に厳しいものであり、73%のケースでは「円満な合意」によるものではなく、創業者は本人の意思に反してCEOの座を解かれている。

起業家が「失敗」と向き合う形は、二重の落とし穴として現れる。それは前章で述べたようにプロジェクト自体の失敗という形だけでなく、プロジェクトが成功の道を歩んでいるにもかかわらず、リーダーとしての立場を失うという、より巧妙な形で現れることもある。

この厳しい現実は、なかなか受け入れがたい。心理的にまず苦しいのは、起業家とその会社の間には強い愛着があることだ。自分の「赤ちゃん」を取り上げられ、それを他人に託さなければならないというのは、深い傷となる。ジャック・ドーシーは、自ら創業したTwitterのCEO職を2008年に解任されたときの衝撃を「腹を殴られたようだった」と表現している。

こうした痛ましい結末が生じる理由は、スタートアップの成長のダイナミクスそのものに起因すると考えられる。私たちの視点では、スタートアップの成長を、異なるフェーズの連続と捉えるのではなく、まったく異なる「三つの人生」の連続として理解すべきだ。

私たちが行った研究では、スタートアップの成功のために必要な三つの大きなフェーズ(=三つの人生)を特定した。これは、プロジェクト、組織、そしてリーダーにとって、それぞれ異なる「人生」として捉えることができる。

第一の人生:探索(L’exploration)

プロダクト・マーケット・フィットを見つけ、確立するフェーズ。最優先されるのは、仮説の検証と試行錯誤である。基礎的な仮説をテストし、何度も試し、方向転換(ピボット)しながら、機能するモデルを探し出す。起業家には顧客はおらず、いるのはアルファテスターである。製品はまだなく、問題の解決策を探るためのプラットフォームや技術的なプロトタイプしかない。ビジネスモデルもまだ存在しない。つまり、この段階では、スタートアップはまだ企業とは言えない。

第二の人生:組織の出現(L’émergence organisationnelle)

プロダクト・マーケット・フィットを確立した後、実行の方法を学び、そのための組織を構築するフェーズである。スタートアップは企業へと変貌する。採用を行い、顧客を持つようになる。組織図が作られ、役職が明確になり始める。引き続き多くの試行錯誤が行われるが、それはもはや実行力を高めるためのものである。製品、サービス、価格設定、供給、販売、マーケティングなど、ビジネスモデルの各要素において最適な方法を学びながら実行していく。リーダーは、この段階で権限を委譲し始めなければならない。

第三の人生:スケール(Le scale)

プロジェクトはプロダクト・マーケット・フィットを確立し、組織と運営モデルも整備された。ここからは、主要市場におけるポジションを確立するためのフェーズとなる。大量の採用を行い、成長を資金面で支えるために多額の資金調達が行われる。しかし、このフェーズでは混乱が支配する。チームは存在しているが、マネジメントが整備されていないため、至るところで問題が発生する。競合他社が訴訟を起こして足止めを図ることもあれば、主要サプライヤーが供給を停止することもある。問題が次々と発生し、火の手があがる中で、どの問題を解決し、どれを見過ごすかの判断が求められる。リード・ホフマンはその著書『Blitzscaling』の中で、「どの火事を消し、どの火事を放置するかを決めなければならない」と述べている。外部成長の機会が現れることも多く、その中には数多くの罠や困難が潜んでいる。このフェーズの終わりには、企業は市場において重要なプレイヤーの一つとなる。


本記事は、革新的なプロジェクトやスタートアップの成長過程において、単なる事業のフェーズの移行ではなく、まったく異なる「三つの人生」が連続して展開されることが、創業者のジレンマを生み出す根本要因であると示唆しています。初期の探索期では、プロダクト・マーケット・フィットの発見に向けた試行錯誤が中心となり、企業はまだ実験段階に留まります。続く組織の形成期では、具体的な実行力の確立と、事業モデルを支える組織体制の構築が求められ、企業は徐々に成熟していきます。そして、スケール期においては、急激な成長と市場拡大の中で、混沌とした状況に対応しながら主要市場での地位確立を目指します。

この各フェーズにおいては、求められるスキルやマインドセットが根本的に異なるため、組織としての成功だけでなく、創業者自身がその変化に適応し、個人的にも成長していくことが重要です。創業初期の情熱と革新性が、組織が成熟するにつれて求められる高度な管理能力やリーダーシップと必ずしも一致しないことは、しばしば大きなギャップを生み出します。また、投資家や市場、規制といった外部環境からの圧力が、創業者にとってさらなる挑戦となることも事実です。

革新的なプロジェクトの成功には、事業の各段階での内的なダイナミクスと、創業者自身が変化に適応し続けることの両輪にかかっていると言えるでしょう。


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