はじめに
欧州はサステナビリティの推進において先導的な役割を果たしており、その一環としてEU規則が大きな特徴となっています。しかし、この規則は非常に幅広く、かつ頻繁に改定されるため、企業の中にはEU規則を十分に理解できておらず、自社ビジネスへの影響を把握しきれていないケースも少なくありません。
本レポートでは、2023年に制定され、2024年に施行される予定だった「EU Deforestation Regulation(EU森林破壊防止規則)」と、この規則が企業に与える影響について紹介いたします。
EU Deforestation Regulationとは
EU森林破壊防止規則(EUDR)は、2023年6月に制定された規制で、EU市場が世界的な森林破壊や森林劣化、生物多様性の損失に与える影響を軽減することを目的としています。この規制に準拠するためには、企業は対象となる商品や製品のバリューチェーンに対して広範なデューデリジェンスを実施する必要があります。デューデリジェンスには、商品の原産地の確認、サプライヤーが環境および社会規制に適合しているかの確認、そして農場から市場までの追跡システムの導入が含まれます。
当初、2023年に制定されたEUDRは、2024年12月30日から施行される予定でしたが、世界の産業界や各国政府からの要請を受け、欧州委員会は2024年10月2日に施行を1年延期することを提案しました。これにより、森林破壊に関連する商品の輸入を禁止する法律の施行が延期されることになります。
この規制は、気候変動問題に対応する画期的な規則として評価されていますが、ブラジルやマレーシアなどの国々は、この法律が保護主義的であり、貧困に苦しむ小規模農家をEU市場から締め出す可能性があると主張しています。また、EUDRによって森林伐採された土地で生産された製品の輸出が禁止されることで、自国の農業に悪影響が及び、結果としてEUのサプライチェーンに混乱をもたらし、価格の上昇を引き起こす可能性も指摘されています。これらの懸念から、EU加盟国27か国のうち約20か国が2024年3月、EU本部に対し、法律の範囲を縮小するか、可能であれば一時停止するよう求めました。
EUDRでは、企業が大豆、牛、コーヒー、パーム油、木材、ゴムなどの世界的な森林破壊に関連する品目を輸入する際、それが森林破壊に寄与していないことを証明する義務があります。さらに、この規制は派生製品にも適用され、たとえば、牛であれば牛肉や牛革、ゴムであればタイヤなどの製品も対象となります。
WWFのデータによると、EUは輸入を通じて世界で2番目に大きな森林破壊の要因となっており、EUDRによって影響を受ける国々も明確に示されています。
影響を受ける業界
企業に与える影響は、対象となる商品の依存度、サプライチェーンでの位置(例:輸入業者やトレーダー)、サプライチェーンの複雑さ、既存の持続可能性に対する取り組み、デューデリジェンスを実施する能力など、複数の要因によって異なります。
影響を受ける業界は広範囲に及びます。
- 農業:特に大豆、牛肉、カカオ、コーヒー、パーム油の生産が該当します。これらの作物は、森林破壊による土地利用が問題視されており、規制の影響を受けやすいと考えられます。
- 木材および製材業:木材や関連製品のサプライチェーン全体が対象となります。木材は直接的に森林資源に依存しているため、違法伐採や森林破壊の疑いがあるサプライチェーンが規制の対象となります。
- ゴム産業:自動車産業をはじめとするゴム製品を扱う企業が含まれます。ゴムの生産はしばしば森林破壊と結びつくため、規制の影響を受ける産業となります。。
- 食品および飲料産業:カカオ、コーヒー、大豆など、食品・飲料の主要な原材料が規制の影響を受けます。これにより、サプライチェーン全体に影響が及びます。
- 製造および加工業:木材を使用した家具製造や、パーム油を使用する食品加工業、その他これらの素材を使用する加工業や製造業が該当します。
- 小売業:影響を受ける素材や製品を取り扱う小売業者も対象となります。EU市場向けに商品を販売する際には、サプライチェーンの追跡と、森林破壊に関与していないことの証明が求められます。
企業および顧客への影響
企業への影響としては、コンプライアンスコストの増加やサプライチェーンの再構築が挙げられます。企業は、サプライチェーンをデジタルマッピングし、原材料が森林破壊に寄与していないことを証明する必要があるため、特に複雑なサプライチェーンを持つ企業にとっては、多大なリソースとコストが必要となります。
また、中小企業や小規模農家と取引する企業にとって、この追跡と証明のプロセスは困難で、必要な技術やリソースが不足している場合があります。そのため、EUDRに準拠するために、サプライチェーンの見直しが必要となる場合があります。もし、特定のサプライヤーが森林破壊と関連する素材を使用している場合、その証明が難しいため、規制に適合し、信頼性の高いサプライヤーを新たに選定する必要が生じます。このようなサプライヤーの切り替えやサプライチェーンの再構築は、時間とコストがかかり、結果として価格の上昇や供給の遅延を引き起こす可能性があります。
一方、顧客への影響としては、EUDRによって消費者が製品の環境への影響をより意識する機会が増え、持続可能な消費への移行を促進することが期待されています。しかし、製品価格の上昇や選択肢の制限も想定されます。企業のコンプライアンスコストが増加することで、製品価格に転嫁され、日常消費品の価格が上がる可能性があります。
また、規制に準拠していない製品が市場から排除されることで、消費者が選べる製品の種類が減少するリスクもあります。特に、安価な製品が市場から消えることで、低所得層の消費者にとっては選択肢が減り、経済的な負担が大きくなることが懸念されます。
規制を取り巻く欧州のスタートアップ紹介
Satelligenceは、2016年にオランダで設立された持続可能性モニタリング企業です。衛星データと地理情報システム(GIS)を活用し、企業や組織に対して、森林破壊のリスク評価、供給チェーンのトレーサビリティ確保、持続可能な生産の証明を支援しています。Satelligenceは、ヴァーヘニンゲン大学、WWF、欧州宇宙機関、Google、Proforestなどのパートナーと協力し、持続可能性の基準とイノベーションを推進しています。
同社は、高度な光学・レーダー衛星データやレーザースキャン技術を駆使することで、6億ヘクタールにおよぶ土地をマッピングおよびモニタリングしています。そして、これらのデータを高性能なクラウドコンピューティング環境内で処理し、専門的なAIや機械学習ソフトウェアを活用することで、効率的かつ精度の高い分析を行っています。
また、森林破壊の検出に特化した高度なアルゴリズムを構築することで、さまざまな土地情報を分析・予測し、レーダー画像からノイズや歪みを取り除くためにディープラーニングモデルや統計手法も使用しています。
さらに、SatelligenceはEUDRに特化した支援を行うだけでなく、英国環境法や米国のFOREST Actなど、EU外の類似規則にも対応するトレーサビリティやリスク評価、リスク軽減ソリューションを提供しています。
まず、Step1のトレーサビリティでは、商品の供給元の地理的座標や合法性に関するデータを収集し、製品が違法な森林破壊を伴わない場所から供給されていることを証明します。
Step2のリスク評価では、中リスクまたは高リスク国から調達される原材料について、森林破壊された土地からの調達ではないことを確認するリスク評価を実施します。
最後に、規制違反のリスクがある場合、Step3のリスク軽減措置を導入し、違反を解消するための手段を講じて、適合性を確保します。
さいごに
今後もサステナビリティトレンドを始めとした欧州を取り巻くトレンドの動向をタイムリーに捉え、皆さまに情報発信をしてまいります。
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。
※本記事には、AIが生成した文章、画像等が含まれています。
投稿者:Sangmoon Kim
RSM清和監査法人およびデロイトトーマツファイナンシャルアドバイザリー合同会社での経験を経て、RouteXに参画。財務面からのコンサルティングに一貫して取り組む一方、事業計画策定や財務モデリングにも強みを持つ。RouteXではトレンドリサーチや新規事業創出支援など、幅広い業務を担当。米国公認会計士(ワシントン州)。2024年よりベルリン在住。ESCP Business School MSc in Sustainability Entrepreneurship and Innovation在学
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