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記事一覧 > a16zCryptoの初海外進出から読み解く、ロンドンのFinTechエコシステムの魅力

ロンドンは、歴史的に世界の金融の中心地としての地位を築き、長年にわたりその役割を担ってきました。数多くの国際金融機関や企業が拠点を構え、金融市場の活性化やグローバルな資本の流通に大きく貢献しています。この都市は、金融のハブとしての役割を果たし続け、今もなお多様なビジネスチャンスを提供し、国際的な影響力を保っています。近年、フィンテック(FinTech)の成長とともに、ロンドンは世界的なFinTechハブとして改めて注目を集めています。このレポートでは、Andreessen Horowitzの暗号通貨部門であるa16z Cryptoのロンドン進出に焦点を当て、ロンドンのFinTechエコシステムの魅力を分析します。特に、ロンドンがグローバルFinTech市場において重要な役割を果たす理由や、a16z Cryptoが初の海外拠点としてロンドンを選んだ背景を探ります。

 a16z Cryptoの海外進出の背景と意図

Andreessen Horowitz(以下a16z)は、2009年に設立されたアメリカの著名なベンチャーキャピタル(VC)で、テクノロジー企業への積極的な投資で知られています。a16z Cryptoは2018年に設立され、暗号通貨とブロックチェーン技術に特化した投資を行っています。これまでにCoinbase、Uniswap、Dapper Labsなどの暗号通貨およびブロックチェーンスタートアップへの早期投資で成功を収め、業界での存在感を強めています。

2023年に発表されたa16z Cryptoのロンドン拠点設立は、同社にとって初の海外進出です。ロンドンを選んだ理由は主に次の3つにあります。まず、ロンドンは世界有数のFinTechエコシステムを持ち、スタートアップや技術革新が盛んな市場であることです。また、英国政府および規制当局は暗号通貨やブロックチェーンに対して比較的柔軟な対応を取っており、FinTech企業が事業展開しやすい環境を提供しています。さらに、ロンドンは国際金融のハブであり、多様な投資家ネットワークとグローバルな金融インフラを備えています。これらの要素が、a16z Cryptoにとって進出を決める要因となりました。


実際に2023年当時首相を務めたリシ・スナク首相も下記の様にa16zのロンドン進出についてコメントを残しています。

From UK Prime Minister, Rishi Sunak:
“As we cement the UK’s place as a science and tech superpower, we must embrace new innovations like Web3, powered by blockchain technology, which will enable start-ups to flourish here and grow the economy.

「英国が科学技術大国としての地位を確固たるものにするためには、ブロックチェーン技術を活用したWeb3のような新たなイノベーションを受け入れ、スタートアップが英国で繁栄し、経済が成長するよう促さなければなりません。

“That success is founded on having the right regulation and guardrails in place to protect consumers and foster innovation. While there’s still work to do, I’m determined to unlock opportunities for this technology and turn the UK into the world’s Web3 centre.

「その成功は、消費者保護とイノベーション促進のための適切な規制とガードレールが整備されていることに基づいています。まだやるべきことはありますが、私はこのテクノロジーの可能性を解き放ち、英国を世界的なWeb3の中心地に変える決意です。

“That’s why I am thrilled world-leading investor, Andreessen Horowitz, has decided to open their first international office in the UK – which is testament to our world-class universities and talent and our strong competitive business environment.”

「だからこそ、世界屈指の投資会社であるアンドリーセン・ホロウィッツが、初の海外オフィスを英国に開設すると決定したことに私は感激しています。これは、英国の大学と人材が世界トップクラスであり、ビジネス環境が競争力に優れていることの証です。」

また、a16z crypto founderのクリス・ディクソン氏も下記のコメントを残しています。

From a16z crypto founder and managing partner, Chris Dixon:
“The UK has deep pools of talent, world-leading academic institutions, and a strong entrepreneurial culture. Following a productive dialogue with the Prime Minister, and months of constructive conversations with HM Treasury, UK policymakers, and the Financial Conduct Authority, we’re thrilled to open our first international office in a jurisdiction that welcomes blockchain technology and is committed to creating a predictable business environment by pursuing regulations that both embrace web3 and protect consumers. We look forward to helping foster the growth of the UK web3 ecosystem while the proper regulations come online.”

「英国には優秀な人材が豊富に存在し、世界をリードする学術機関があり、起業家精神が根付いています。首相との実り多い対話、および財務省、英国の政策立案者、金融行為規制機構との数か月にわたる建設的な話し合いに続いて、ブロックチェーン技術を歓迎し、ウェブ3を包含し、かつ消費者を保護する規制を追求することで予測可能なビジネス環境の創出に尽力する管轄区域に、当社初の国際オフィスを開設できることを嬉しく思います。適切な規制が整備される中で、英国のウェブ3エコシステムの成長を促進するお手伝いができることを楽しみにしています。


また、2019年〜2022年のボリス・ジョンソン氏が首相を務めた期間では政府からステーブルコインに関する見解等も公表されており、英国政府が引き続きFinTech分野において、特に暗号通貨領域において積極的な姿勢が伺えます。

ロンドンのFinTechエコシステムの魅力

ロンドンは、金融業界とテクノロジー業界が高度に発展しているため、FinTechスタートアップにとって理想的な環境を提供しています。英国の金融規制当局である金融行動監視機構(FCA)は、革新的な事業を支援するサンドボックス制度を設けており、新しい技術やサービスの実験的な導入が可能です。また、ロンドンには伝統的な金融機関とFinTech企業が連携しやすいエコシステムが整っています。

2019年には英国政府が自国のFinTech環境を解説したレポートも公開しています。

規制環境の優位性
ロンドンの規制環境も、FinTech企業にとって大きな魅力の一つです。英国はEU離脱後、ブロックチェーンや暗号通貨に対して柔軟な規制を維持しており、これがFinTechスタートアップの急成長を支える要因となっています。a16z Cryptoがロンドンを選んだ背景には、この規制の柔軟さと革新性が大きく影響しています。

投資エコシステム
ロンドンのFinTechエコシステムは、強力な投資環境によっても支えられています。ロンドンには、著名なVCやエンジェル投資家が多く集まっており、FinTechスタートアップに対する資金調達の機会が豊富にあると言えます。例えば、英国政府が主導する「Enterprise Investment Scheme」「Seed Enterprise Investment Scheme」などの税制優遇制度は、投資家がリスクを抑えながらスタートアップに投資することを促進しています。また、ロンドンに拠点を置くインキュベーション施設やアクセラレーター等(例 Tech Nation、Level39など)は、スタートアップの成長を支援するためのネットワークとリソースを提供しています。

国際的なスタートアップ支援
ロンドンは、国際的なスタートアップ支援の面でも非常に優れた環境を提供しています。多文化な都市環境とグローバルなネットワークにより、起業家がビジネスを世界展開するのに適した拠点となっています。a16z Cryptoのロンドン進出も、こうした国際的な支援環境を活用する狙いがあります。

a16z Cryptoの進出が意味すること

ロンドンのFinTech業界への影響
a16z Cryptoのロンドン進出は、他のVCや投資家に対しても重要なシグナルとなります。これにより、他の投資家やスタートアップもロンドンを拠点に選び、さらに多くの投資が流入することが期待されます。また、ロンドンにおけるブロックチェーンや暗号通貨のイノベーションが加速し、FinTechエコシステム全体の強化が進むでしょう。

a16zのロンドンでの活動実績

2024年時点で、a16zはイギリスの複数のスタートアップに投資しています。特に暗号通貨やWeb3分野の企業への投資が目立ちます。代表的な企業をご紹介します。

Gensyn: 分散型コンピューティングプラットフォームで、AIシステムの開発に必要なコンピューティングリソースを提供しています。a16zはこの企業に4300万ドルの投資を行いました​。

Arweave: ブロックチェーンを活用した長期データ保存ソリューションを提供する企業で、データを永続的に保存できるプロトコルを開発しています。

Aztec: ロンドンに拠点を置くスタートアップで、Ethereum上で機密性の高い取引を可能にするプライバシー技術を提供しています​。

Improbable: メタバースや大規模な仮想世界の構築に取り組んでいる企業で、a16zが投資を行っています。

Pimlico: Ethereumのスマートアカウント技術を使って、ブロックチェーン技術のユーザー体験を簡素化することを目指す新興企業で、420万ドルのシード投資を受けています。
これらの投資は、a16zがロンドンを中心にWeb3エコシステムを強化し、ブロックチェーン技術の革新を促進するための戦略的な動きの一環として行われています。

また、米国外では初となるCrypto Startup SchoolをLondonで今年初開催しました。
CSXはa16z Cryptoによるアクセラレータープログラムの一部で、特にWeb3スタートアップ向けに設計されています。このプログラムでは、選ばれた企業がa16zからの資金提供とメンターシップを受け、技術的な支援を通じてプロダクトマーケットフィットを目指しています。

当日の様子はa16z cryptoのXからご確認いただけます。

また、10月にはフランス発AIスタートアップのユニコーンとして著名なMistral AIと共催でハッカソンを開催しました。

※公式ページの日本語訳

下記4つのテーマに合わせてハッカソンが開催されました。
「Mistral AI ハッカソン」
Mistral のチームに参加して、拡張された人間性やデジタルアイデンティティから、創造性とAIを組み合わせた多数のプロジェクトまで、次世代のAIアプリを構築。 ハッカーには、MistralモデルへのモデルおよびAPIアクセスが許可され、これには構築する全く新しい革新的な分野のセット全体を解放する、最新のマルチモーダルモデルPixtral 12Bも含まれます。

「インターネットの所有」
今日のブロックチェーンと暗号化インフラは、中間搾取者を排除したインターネットを実現し、ユーザーが自身のアイデンティティ、コンテンツ、データを確実に所有し、開発者が金融、ソーシャル、メディアのエコシステム全体で、組み立て可能な「レゴ」ブロックを使って許可なしに構築できる、というアプリケーションの新たなパラダイムを成長させています。これにより、まったく新しい消費者体験が実現します。

「英国の復興」
英国の公共インフラを強化するプロジェクトを開発する。デジタルヘルスサービス、教育、地元企業支援のアップグレードなど。

「ヘルスケアの未来」
ヘルスケアと生命科学は、エンジニアリングとテクノロジーによる真の近代化の最大の未開拓分野の2つです。私たちは、今後10年間で、これらの数兆ドル規模の産業に大きな変化が起こると確信しています。AIとブロックチェーンが、病気の診断、治療、管理、健康の提供方法を再発明するからです。

当日の様子や入賞チーム等については下記のXにて共有されています。

より詳細なa16z cryptoの活動やレポートについて知りたい方はこちらの公式サイトを参照してください。

結論
a16z Cryptoのロンドン進出は、ロンドンが世界的なFinTechの発展において、エコシステムとして重要な役割を果たしていることを証明しています。また、柔軟な規制環境や強力な投資環境、国際的なスタートアップ支援が、a16zの初の海外進出先としてロンドンを選んだ理由と言えるでしょう。今後もロンドンは、FinTech分野におけるリーダーシップを維持し、さらなる技術革新と投資の中心地として発展していくことが期待されます。

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投稿者:大森 貴之
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学生時代にデロイトトーマツベンチャーサポート、Coral Capitalにてスタートアップコミュニティの運営に従事。京都大学経営管理大学院在籍時に学内優秀賞を受賞したビジネスプランを元に2018年 RouteX Inc.を学生起業として創業。海外のスタートアップ・エコシステムのリサーチを専門とし、世界中のスタートアップのビジネスモデルやテクノロジーの分析を行なっている。RouteX Inc. ロシア法人(戦争の影響により撤退)、フランス法人の設立に従事し、海外での事業立ち上げや交渉経験が豊富。現在は英国法人設立に向けて、ロンドンの金融都市カナリーワーフ在住。

海外渡航歴111ヶ国
モスクワ大学政治学修士課程中退
京都大学経営管理大学院同窓会長歴任
京都大学MBA (経営学修士) 修了


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