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Media PartnerとしてStep Conference 2022 in Dubaiに現地参加
2022年2月23〜24日の2日間に渡り、アラブ首長国連邦のドバイにて中東最大のスタートアップカンファレンスであるStep Conference 2022が開催されました。
Stepは今回で10周年を迎え、中東のスタートアップ・エコシステムを牽引してきた存在として10周年を振り返る形でこれまで以上に大きなカンファレンスとして開催されました。弊社は日本で唯一のOfficilal Media Partnerを締結しており、今回は弊社代表の大森がMedia Partnerとして参加してきましたので、現地の様子をお伝えします。
Step Conferenceは、ドバイを中心に開催されるスタートアップやテクノロジーに関するカンファレンスです。2012年のスタート当初はシリーズ化した少人数のワークショップやミートアップとして始まり、徐々にスタートアップカンファレンスとして成長してきました。現在では、400以上のスタートアップとともに、150を超える大企業と8000人の参加者を全世界から集める中東地域で最大のスタートアップカンファレンスとなっています。
また開催地ドバイは、世界で最も革新的な都市トップ20にランクインするなど、常に最新技術のアップデートが行われています。10周年ともなる今回のStep Conference 2022では、業界トップの起業家たちが集まり、セミナー、ワークショップ、ミートアップ、ネットワーキング、スタートアップの出展ブースが同時に運営されています。
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Stepは以下5つのテーマに分かれてイベントが進行します。
1.Start Track
スタートアップの成功体験・成長ストーリー、投資・資金調達、現在勢いのあるスタートアップによる基調講演、パネルディスカッションなどがメインステージで行われます。
2.Fintech Track
銀行、決済システム会社、プロセッサー、Fintechスタートアップ、規制当局などが集まり、金融技術、ブロックチェーン、デジタル通貨、キャッシュレス決済、銀行、資産管理などの最新情報を議論します。
3.Future Track
交通、自律走行技術、スマートシティ、IoT、人工知能、規制とセキュリティの未来に関する最新情報について、通信事業者、都市計画事業者、自動車会社、スタートアップが集まり、2050年までにどのような生活が実現されるかを議論します。
4.Digital Track
ブランドマネージャー、CMO、インフルエンサー、デジタル推進者などが登壇し、デジタルマーケティング、ブランディング、広告技術、プログラマティック広告、パブリッシャー、インフルエンサー、コンテンツにおける最新のグローバルトレンドを議論します。
5.Wellness Track
心、体、魂のウェルネスに関するトピックや、テクノロジーやライフスタイルの最新トレンドについて取り上げます。インフルエンサー、ライフスタイル分野のスタートアップ、NLPスペシャリスト、栄養士、フィットネス・メンタル・ヘルスの各コーチが野外ステージに登場し、心身のウェルネスがいかに現代の目まぐるしいライフスタイルの一部となり得るかについて議論します。
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まだまだコロナウイルスの感染が広がる中でしたが、ドバイ拠点のスタートアップや他の中東諸国、ヨーロッパ等からも多くの参加者が集まっていました。ドバイは入国前のPCR検査やワクチンパスポートの提示等で入国後の隔離制限がないため、比較的海外からもこのStep Conferenceのために渡航する事が容易になっています。それではここから各ブースの様子をご紹介いたします!
Step Conference 10 years
中東スタートアップ・エコシステムのこれまでとこれから
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オープニングはStepのCo-Founder & CEOのRay Dargham氏から、これまでのStepの活動が紹介されました。Stepは小さなミートアップコミュニティからスタートし、中東のスタートアップ・エコシステムの拡大とともに成長し中東を代表するスタートアップカンファレンスとなりました。これからも中東のスタートアップ・エコシステムと一緒に発展していく事だけでなく、Step起点でも新たなエコシステムを構築していく事を目指していると述べ、10周年を祝う形でStep Conference 2022がスタートしました。
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2020年にUAE(アラブ首長国連邦)にて新設された起業家精神普及や中小企業支援を担当する大臣(Minister of State for Entrepreneurship and SMEs)であるH.E Ahmad Belhoul氏と官民でスタートアップ・エコシステム支援の経験がある起業家でありThe Emirates Angels investors associationのボードメンバーでもあるYousuf Almulla氏の対談でMENA(Middle East & North Africaの略で、中東・北アフリカ地域の国々を指す略称)やUAEにおけるスタートアップ・エコシステムのトレンドについて言及されていました。
MENAのスタートアップ・エコシステムを牽引してきた存在として、中東地域で広く使われているライドシェアサービスであり、ドバイ拠点 Careemの成功が取り上げられていました。
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Careemはライドシェアサービスとして広がり、現在のグローバルトレンドと同じく、ライドシェアを起点にフードデリバリーやFinTech事業にもビジネスを拡大し、スーパーアプリ化したドバイを代表するスタートアップの成功事例です。実際に中東地域ではCareemが広く使われており、私も中東地域滞在時は良くCareemを利用しています。また、2020年にはUberによって31億ドル(約3400億円)で買収されましたが、独自ブランドを保ったまま中東地域のビジネスを続け、当時の買収額として最大規模のM & Aである事からもCareemが中東地域のスタートアップ・エコシステムに与えたインパクトの大きさが理解出来ます。
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また、今回のStep Conferenceの会場ともなったDubai Internet Cityについても言及されていました。Dubai Internet Cityはドバイ政府が外国企業の誘致やICTエコシステムの構築を目的とした戦略的な経済特区(フリーゾーン)と位置付け、様々な優遇措置を講じている地区です。
Dubai Internet Cityの優遇措置の例
・100%外国資本による会社所有が可能
・法人税、所得税が50年間免除
・資本、利益の本国送金が自由
・外国人労働者の雇用制限なし
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実際にDubai Internet CityはGAFAMを始めとした米系のテックジャイアントからスタートアップまで幅広く入居しており、政府主導のスタートアップ・エコシステム形成の成功事例と言えます。この様にドバイではCareemの様な目標となる成功事例、外国からの企業と優秀な人材の誘致、スタートアップを支援する制度・資金が合わさり、現地ドバイだけでなく中東地域の野心あふれる起業家が活躍しやすい環境が整っています。
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また、アメリカを拠点にグローバルでの投資を加速している、500 GlobalやSequoia Capitalによる中東のスタートアップ・エコシステムの魅力等についても語られていました。現在、中東を含めたMENA地域は米国、ヨーロッパ、中国等と比較すると発展途上のエコシステムと捉えられがちですが、Careemの様な大きな成功事例や豊富なオイルマネーを政府がスタートアップ投資等へシフトしている背景がある事から、今後この地域がスタートアップ・エコシステムとして急速にグローバルで認知され成長していく可能性が非常に高いと述べられています。
中東のスタートアップ・エコシステムとの連携を目指すGAFAMの動き
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先ほどお伝えした通り、中東のスタートアップ・エコシステムがグローバルで認知され、その可能性に期待されている事を示すかの様にStep ConferenceにはGAFAMの担当者による登壇も多くありました。Meta(旧Facebook)による講演では、Metaが取り組むメタバースの概念についてとそのビジネスチャンスについて解説されていました。時折、マーク・ザッカーバーグの動画を挟みながらMetaの最新のXR技術を紹介し、中東のスタートアップにもMetaの技術プラットフォームを活用してもらう意図がある様です。
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Amazon payment servicesの講演もMetaと同じく自社の技術プラットフォームの解説に留まり、FinTech領域において中東のスタートアップに自社の技術を活用してもらう意図がある様です。
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Googleが登壇するセッションでは、AIを活用した成長と拡張可能性というテーマでのディスカッションが行われました。こちらでも同じくGoogleの担当者がGoogleが提供するオープンソースを活用しながら、そのオープンソース上でどの様にAIを活用していくのかの戦略について解説がされていました。
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Microsoft for Startupsは自社ブースをStep Conferenceに参加しているスタートアップ向けに設け、Microsoftが保有するリソースを活用してスタートアップの成長を支援するプログラムであるGrowthX Acceleratorの紹介を行なっています。Microsoftは2021年からAbu Dhabi Investment Officeと連携し、正式にUAEでの運営をスタートさせ、中東のスタートアップ・エコシステムに本格的に参入しています。
この様にグローバルのテックジャイアントであるGAFAMが急成長する中東のスタートアップ・エコシステムとの連携に向けて本格的に動いている事が分かります。
スタートアップ出展ブース
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ここまでは政府や大企業目線での中東のスタートアップ・エコシステムのトレンドや捉え方についてご紹介してきましたが、会場には屋内・屋外を合わせて数多くのスタートの出展ブースが用意されており、各所で事業連携や出資に向けたネットワーキングが進められています。UAE開催という事でUAE拠点のスタートアップの出展が多いですが、それ以外にもレバノンやサウジアラビア等の日本では接点を持つ事が難しい地域からのスタートアップの出展も数多くあります。それぞれのスタートアップのブースにはカテゴリーと資金調達ラウンド、支援元インキュベーション等が表記されているので参加者の興味に合わせてブースで担当者に話が聞きやすくなっています。
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弊社もMedia Partnerとしてこちらでインプットの整理を行なっておりました。
多くのスタートアップカンファレンスではこの様なメディア向けの特設ブース等が用意されています。
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MENA スタートアップ・エコシステムにおける登竜門
Step Pitch Competition
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Step Conferenceでは他のスタートアップカンファレンスと同じくスタートアップのピッチイベントとしてStep Pitch Competitionが開催されています。
予選は屋外会場で行われていますが、2月のドバイは既に日差しも強く、炎天下の中でスタートアップの登壇者も審査員も文字通り体力勝負です。
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Step Pitch Competitionの最終ピッチに進めるのは3社で500 Global等の審査員から審査され優勝スタートアップが決定されます。
最終ピッチに進んだのは以下3社で優勝はMontiplayでした。
どのスタートアップのFounderも取り組むビジネス領域に関して経験豊富なバックグラウンドを有しており、UAE/MENAのスタートアップ・エコシステムの層の厚さを感じます。
Plastus
自然界で2ヶ月で分解される環境に優しいプラスチックの開発
Palletpal
貨物輸送のマネジメント効率化サービスの開発
Montiplay
SDGsを意識しながら、化学的根拠に基づいた幼児向け知育おもちゃの開発
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Step Conferenceと同時期に開催されていたドバイ万博2020の様子
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今回のStep Conference期間中に、コロナの影響により開催が1年延期になっていたドバイ万博2020も開催されていました。実際Step Conference参加者の多くがドバイ万博にも参加しており、海外からの訪問者にUAEのスタートアップ・エコシステムやドバイ万博を通した国力をアピールする年になり、これまで以上にドバイに注目が集まっていくのではないでしょうか。ドバイ万博ではSDGsをテーマに各国のパビリオンにて最先端テクノロジーを活用した国力をアピールする展示がされていました。ドバイ万博の様子も合わせてお伝えさせていただきます。
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UAEのスタートアップ・エコシステムについて
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いかがでしたでしょうか?
Step Conferenceの様子を通してMENAやUAEのスタートアップ・エコシステムの盛り上がりを感じていただけたのではないかと思います。今回の現地でのヒアリング等を通じて感じたUAEのスタートアップ・エコシステムの特徴として
- 金融都市として成功した利益やオイルマネーをテクノロジーやスタートアップへの投資として経済の循環が着実に進んでいる。
- フリーゾーン等の経済特区を政府主導で進める事で海外の大企業と優秀な人材を惹きつけている。
- 米国やヨーロッパで経験を積んだ優秀な人材がスタートアップ・エコシステムを牽引している。
- MENA地域のビジネスハブとして周辺諸国のスタートアップや優秀な起業家が集まっている。
- ドローンタクシー等の最先端テクノロジーの実証実験に積極的でスタートアップがチャレンジしやすい環境が整っている。
等が挙げられるかと思います。海外企業を誘致し、ビジネスハブとして機能させる事で優秀な人材が集まり、自国のスタートアップ・エコシステムのベースラインも挙がっていく特徴としてシンガポールと非常に似たエコシステムが形成されている様に感じました。一方で国外の人材や海外経験豊富な自国の起業家を除くと、ドバイのスタートアップ・エコシステムのみで生まれた起業家やスタートアップは少なく、まだまだ起業家を輩出するエコシステムとしての成長余地を感じます。
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。
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投稿者:大森 貴之
RouteX Inc. Founder & CEO
海外渡航歴80ヶ国、学生時代にシリコンバレー、イスラエル、ロシア等でのインターンや調査を経験。海外のスタートアップ・エコシステムのリサーチを専門とし、世界中のスタートアップのビジネスモデルやテクノロジーの分析を行なっている。ロシアや旧ソ連地域が得意。シリコンバレーで毎年開催されるFacebookの最も重要なカンファレンス「F8」にて2019年度は日本人で唯一「F8 Hackathon」に参加。シリコンバレー発の世界最大のエンジニアとスタートアップのコミュニティFacebook Developer CirclesとAngelHackの日本運営代表を務めている。京都大学MBA (経営学修士) 修了
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