はじめに
こんにちは!皆さんは、フランスの産業といえば何を想像しますか?
食べ物やワイン、観光のイメージが強いかと思いますが、ラグジュアリー産業も強い存在感を示しています。
フランスには世界を牽引するラグジュアリーブランドが数多く存在しています。その結果、スタートアップの観点でもラグジュアリー業界をアップデートするソリューションを多く生み出しています。
実は、その発展にはLVMHが強く関わっています。
LVMH(エル・ヴイ・エム・アッシュ)は、ご存じの通りルイ・ヴィトンやクリスチャン・ディオールなどのラグジュアリーブランドを抱える、パリを拠点としたグローバル企業です。時価総額は$363.6Bで世界時価総額ランキングは17位です。(2022年12月末)
本記事では、企業のオープンイノベーション目線からみた、フランスのスタートアップ・エコシステムを掘り下げていきます。
1.LVMHの概要
巨大企業であるLVMHですが、近年はスタートアップの支援やオープンイノベーションの取り組みに注力していることでも知られています。
LVMHの歴史は実はそれほど長くありません。LVMHは1987年に、ルイ・ヴィトンとモエ・ヘネシー(シャンパンやコニャックで有名)を合併し、創設されました。合併後は、大量のM&Aを繰り返し、ルイ・ヴィトン、クリスチャン・ディオール、フェンディー、ケンゾー等、ヨーロッパを中心に60近くの高級ブランドを合併し、今も成長を続けています。
LVMHのCEOはベルナール・アルノーで、同時にルイ・ヴィトンの会長も務めています。彼は、過去にクリスチャン・ディオールを再生させた実績を持ち、1989年にLVMHのCEOに就任しました。フランス国家への貢献を認められ、レジオンドヌール勲章、芸術文化勲章のコマンドゥール(騎士団長の意味で、勲章等級の1つ)を叙勲されています。
ルイ・ヴィトンは、2021年度の日本での売り上げが6,000億円と需要が大きく、一昨年はドラえもんとのコラボ、今年は草間彌生とのコラボなど日本と積極的に関わっています。
このように、パリ市内のいくつかの店舗では草間彌生の大きなオブジェがあり街中の人々の関心を集めていました。
2.近年のLVMHの取り組み
2022年の売り上げは、過去最高で、€79.2B(日本円で11兆円)を記録しました。
売り上げの中身を項目別に見てみます。まず、大きな収益を上げているのがファッションや革製品です。次に、小売、時計・宝石と続きますが、すべての項目に共通しているのは圧倒的に売り上げが伸びているということです。
しかし、利益率はどうでしょうか。
利益率も伸びていますね。全事業が黒字化しており、香水・コスメを除けば、すべての項目で利益が伸びています。
このように、2022年のLVMHは絶好調で終わりました。
3.LVMHのスタートアップ支援
さて、メインの事業で大きな利益を上げているLVMHですが、近年はスタートアップ支援でも注目を浴びています。LVMHは、LVMH Luxury Venturesというベンチャーキャピタルを2017年に創設しました。
LVMH Luxury venturesは、基本的にラグジュアリーブランドをプロダクトとして持つ企業に投資を行なっており、投資先は具体的に4つのセクターに分別しています。
・Beauty & Wellness 美容・健康
・Selective Retailing セレクティブ・リテーリング
・Fashion & Accessories ファッション・アクセサリー
・Experiential Luxury 体験ラグジュアリー
また、投資基準として年商€500M〜100M億(7億〜140億円)を設けており、ミドル〜レイター期のスタートアップを中心に投資をしています。
2017年に創設された子会社なので、エグジット実績はまだ少ないですが、投資したスタートアップの中で既にエグジットしたものを2社紹介します。
L’Officine Universelle Buly
Officine Universelle Bulyはパリを拠点とする美容商業施設です。Bulyは、革新的な化粧品技術と天然成分を生かした製品を提供しています。主な商品は、香水、石鹸、オイル、スキンケア用品などです。
製品の品質で世界的に有名なVictoire de TaillacとRamdane Touhamiによって2014年に設立されてから売上を伸ばし続け、現在ではパリ、ロンドン、香港、東京、京都、ソウルとグローバルに店舗を構えています。
そして、2021年にLVMHに買収されました。買収額等の公表はありませんでした。
Stadium Goods
Stadium Goodsは、2015年にローンチされ、需要の高い未使用のスニーカーやストリートウェアアイテムの専門マーケットプレイスです。
このブランドは、キュレーターとマーケットメーカーの両方として機能していて、スニーカーやストリートウェア文化を醸成する会社の1つです。
製品は、ニューヨークのStadium Goodsストア、ウェブサイト、選ばれたパートナーのデジタルプラットフォームで販売されています。
スタジアムグッズは2018年12月にFarfetchに$250Mで買収されました。
Youtubeチャンネルも開設しており、個性的で魅力のあるスニーカーを紹介するチャンネルとなっています。チャンネル登録者数は18万人(2023年3月時点)
さらに投資先について興味のある方はこちらからご覧ください!
LVMH Innovation Award
また、LVMHはVCの他にLVMH Innovation Award という取り組みからもスタートアップ投資を行っており、 1年に1回開催されるVivaTech*と呼ばれる大規模な世界最大級のオープンイノベーションカンファレンスでのピッチの受賞者に対し、投資や全面的なサポートをするという取り組みも行っています。
*VivaTechについて詳しく知りたい方はこちら
このように様々な手法でスタートアップ投資をするLVMHグループですが、基本的にラグジュアリーブランドか、そのサプライチェーンにしか投資をしないと宣言しています。ラグジュアリーブランドに強みを持った会社なので、その知見を活かし、巻き込んでいけるようなスタートアップに投資をしているように感じます。
4.LVMHのオープンイノベーションの取り組み
また、LVMHはオープンイノベーションにも積極的に関わっていることで知られています。
オープンイノベーションとは、一般的に以下の概念を指します。
“ 企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させ、価値を創造すること ”、であり、①組織の外部で生み出された知識を社内の経営資源と戦略的に組み合わせることと、②社内で活用されていない経営資源を社外で活用することにより、イノベー ションを創出すること、の両方を指す。
出典:Henry Chesbrough 著、大前恵一郎訳『OPEN INNOVATION ハーバード流イノベーショ ン戦略のすべて』、「一橋ビジネスレビュー オープンイノベーションの衝撃」(東洋経済新報社)2012 年 9 月
つまり、「自社だけで全てを完結させるのではなく、他社や大学など、周りを巻き込んでイノベーションを創り出していくこと」です。
より具体的には、事業における足りない補完として、業務提携や買収をすること、社内では出ないアイデアの補完として、ビジネスコンテストやハッカソンを開くこともオープンイノベーションの具体的な推進事例です。
DARE
LVMHが携わっているオープンイノベーションについて具体的に紹介していきます。
DARE(「破壊 (Disrupt)、行動 (Act)、冒険 (Risk) して起業家 (Entrepreneur) になる」)は、2017年から展開している、LVMHのグローバル研修プログラムで、オープンイノベーションと人材開発の融合を目的としたイベントです。
DAREは2017年に設立され、15,000人以上の起業家コミュニティに成長しています。参加者は、LVMHグループのCEOやメンターとなった起業家からサポートを受けることができ、その環境下でピッチに向けて準備することができます。既にいくつかのプロジェクトローンチに携わっており、代表的なものとして、世界初の売れ残った布や皮専用のオンライン再販プラットフォームであるNona Source や、LVMH内の優秀な人材を発見し、裁量のあるポジションに登用できるオンラインプラットフォームのshero といったものが既に採用されています。
DAREはオフラインでのイベントも定期的に開いていて、2020年には東京で「DARE Tokyo」が行われました。60人のLVMH社員と文化ファッション大学院大学、青山学院大学、慶應義塾大学などから15人の学生が集まり、未来の顧客体験についてそれぞれがプロジェクトを掲げ、アイデアをビジネスプランに発展させる活動を3日間行いました。
STATION F
LVMHはヨーロッパ最大のスタートアップキャンパスであるSTATION F(パリ)*とも積極的に関与しています。
STATION FのLVMHプログラムでは、毎年50社の国際的なスタートアップを招き、1年間共に活動をします。このプログラムでは、起業家はパーソナライズされたコーチングやLVMHの専門家のサポートを受けることができます。
また、ピッチセッションが定期的に開催され、LVMHに対してプレゼンテーションをする機会が設けられています。
*STATION F について詳しく知りたい方はこちら
5.最後に
いかがだったでしょうか?
ご紹介したように、2022年に過去最高益を更新したLVMHグループはスタートアップ投資やオープンイノベーションに積極的に関わっています。
投資先の共通点として見られたことは、上場を目指す会社に投資をしてキャピタルゲインを得るのではなく、将来的にLMVHが買収できる会社になるかどうか、LVMHが更に規模を拡大していくのに貢献できる会社かどうか、という軸を持って投資をしているように見えました。
このような戦略がLVMHを世界的なグローバル企業に成長させた1つの理由なのだと感じます。
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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