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記事一覧 > 〜学術的研究やDeepTechによる社会課題解決を実現する〜大学発のイノベーションセンター KX Knowledge Xchange とは?

近年、大学との連携によるDeepTech関連の新規事業立ち上げの動きが世界的に高まっています。今回ご紹介するKX(Knowledge Xchange)は、KMUTT(キングモンクット工科大学トンブリ校)というタイ王国(以後タイと表記)の工科大学が学者、国内外のスタートアップや企業間の知識・技術交流の促進を目的として設立したイノベーションセンターです。この設立を機に、タイの技術とイノベーション力向上や学術的研究による社会課題解決をめざし、イノベーション&スタートアップ・エコシステム形成を推し進めております。

KMUTT紹介動画

はじめに、KXの元となるKMUTTについて少しご紹介していきます。

KMUTT(King Mongkut’s University of Technology Thonburi)はタイにある国立の工科大学で、バンコク都内に2か所と、ラーチャブリー県チョームブン郡に1か所の合計3か所にキャンパスを有しております。大学で6学部、大学院と博士課程で10学部から構成されており、協定校には東京大学、京都大学、筑波大学などがり、日本との連携も強い大学です。また、本校は全世代を対象としたコースも用意しており、一度就職した社会人が再び安価で学び直せる機会を積極的に提供していることが特徴的で、現在のテクノロジー変化に追随できる人材を増やし、将来的にタイのイノベーションに貢献できる環境づくりの一環とのことです。本校の詳細についてはぜひ動画をご覧ください。

今回訪問したKXはバンコクの少し郊外、ウォンウィエン・ヤイ 駅(BTS)の近くに位置し、大学発のイノベーションセンター「Knowledge Xchange for Innovation Center」として、ビル(KXビル)まるごと一棟にコワーキングスペース、協業企業・スタートアップのオフィス、イベント会場、プロトタイプ製作ファクトリーなどの施設を有しており、設備が非常に充実しております。

それでは早速、2022年8月に訪問したKXの取り組みについてご紹介していきます!コミュニティーマネージャーのMengqian Li氏とマーケティングアドバイザーのMatas Danielevicius氏にバンコク現地でお話をお伺いしました。本記事では施設の様子を含めてレポートします。

スタートアップ支援について

まずはじめに、これまで多くのスタートアップを育成してきたKXが、どのようなサービスを提供し、支援を実施されているかについてご紹介していきます。

  • Incubator & Accelerator
    テック ベンチャービルディングのインキュベーション/アクセラレーション プログラム「Techbite」を通して、スタートアップ立ち上げを支援する。具体的には、経験豊富なチームと創業者を招き、スタートアップの検証、発見、運営を行い、ビジネスコンサルティング、ソフトウェアハウス、法務、人事、資金調達などの支援を実施しています。
  • Prototyping
    KXには「FabLab」 というプロトタイプ製作ラボを有し、 遊び、創造、発明をする学習と革新の場となっております。設備、技術スキル、材料などを提供し、「誰でも」「作りたい何か」をその場で作れる環境を実現しています。
  • Corporate Venture Building
    企業の伝統的な新規事業立ち上げの課題に対して、今後成長していく、インパクトのあるスタートアップを紹介し、共同創業の機会をつくります。また、海外企業がタイ国内の市場に参入するための現地パートナーシップ、運用および実行チームの作成も支援します。
  • Young Innovator Program
    幼稚園や小学校の子どもが遊びを通して創造性やイノベーションにふれる機会を提供するプログラムを提供しています。
  • KX Service Partner
    製品設計、ブランディング、ハードウェアとソフトウェアの両方の開発を含む製品開発、法律、知的財産、財務などのサービスを提供します。
  • SME Strengthening
    本プログラムは、IMAF(Industrial Management and Facilitation Center)によって運営されており、科学、技術、イノベーションでビジネス競争力を強化し、革新的な起業家を育成することを目的としています。また、官民の資金提供者と企業を結びつけ、企業を支援します。
  • Reskill & Upskill
    新しいスキルを身につけ、能力を高めたいすべての人向けのプログラムとなっています。広域な専門領域の学習コースやワークショップ、さまざまな業界の講演者によるレクチャーやビジネス化に向けたセミナーなどを実施しています。

また、KXにおけるスタートアップ支援のチーム構成も非常に興味深いです。スタートアップ立ち上げを支援する外部組織「Whaton Startup Studio」のメンバーが複数人採用され、スタートアップ・エコシステム形成のために、KXの一員として勤務しております。今回現地をご案内いただいたMatas Danielevicius氏は共同創設者の一人、Mengqian Li氏はマネージャーとしてWhaton Startup Studioのメンバーでありながら、KXにおいてもそれぞれの役割を担いながらスタートアップ支援をされておりました。

それでは次に、現地訪問した写真を交えてKXの施設や関連する取り組みについてもレポートさせていただきます。


企業との連携

KXビルにあるJACOB JENSEN DESIGNスタジオの入り口

KMUTTは企業とも積極的に連携しており、学生が企業の技術者や専門家から直接学べるチャンスを提供しております。そのひとつの例に「JACOB JENSEN DESIGN」との連携です。JACOB JENSEN DESIGNはデンマークのヤコブ氏によって1958年に設立された歴史ある有名なデザインスタジオになっております。その姉妹スタジオがKXビルにもつくられ、KMUTTの学生と連携を実施しております。学生に対してアカデミック プログラムを提供しておりますが、企業としてもインターンシップの役割があり、優秀な学生を採用することもあるようです。

JACOB JENSEN DESIGNによってデザインされた製品

スタジオ全体はマットブラックで統一されたシックな雰囲気で、製品がよく映える環境づくりにもデザインのこだわりを感じました。腕時計、オーディオ、キッチン用品や空気清浄機など多岐にわたる製品をデザインしており、こちらからオンラインショップもご確認いただけます。

連携企業や大学のオフィス

日本の大学や企業とも連携しており、オフィスも用意されております。現在はあまり海外企業のメンバーは出入りしていないようですが、これからコロナによる入国制限の撤廃に伴い増えると予想されます。

KXの施設や提供される設備

KXビルのイベント広場

スタートアップのピッチイベントなど、各種イベント開催の会場も非常に充実しております。コロナ禍で会場を活用したイベントの開催がほとんどなかったようですが、今後はオンラインとオフラインのハイブリット開催を積極的に進めていきたいとのことです。

FabLabの入り口

KXビルにはプロトタイプ製作ラボもあり、レーザーカット機、3Dプリンター、電子部品生産装置など充実した設備がそろっており、かつ製作の専門家によるセミナーもオンライン、オフライン両方で開催されております。

FabLab内部は、3Dプリンターをはじめとするプロトタイプに必要な設備が整っております。
KMUTTが独自に有するリサーチ・デザインサービスセンター

建築デザインやプロダクトデザインなど、学生のみならずスタートアップや企業との連携を実施しているようです。

KXの訪問ではさまざまな施設や設備を見学させていただきましたが、その中でも力を入れているインキュベーションプログラム「TECH BITE」について、どのような取り組みが行われているのかご紹介していきます。


〜インキュベーションプログラム〜TECH BITEについて

(TECH BITE紹介資料より)

訪問の最後に少しディスカッションさせていただき、KXが開催しているインキュベーションプログラム「TECH BITE」についてもご紹介いただけました。これまでにすでに4回開催されており、今まさに次の5回目開催に向けて準備を進めているようです。Matas Danielevicius氏によると、今年はオンラインとオフラインのハイブリット型で、海外からの参加者も積極的に募集して実施したいとお話されておりました。

プログラム参加者が受けられる恩恵一覧(TECH BITE紹介資料より)

それでは、本プログラムの参加者が享受できる優遇やサービスについて説明していきます。特に参加スタートアップごとにワーキングスペースを確保いただけたり、ビザ取得を支援いただけることは非常に有り難いです。

  • Co-working space
    スタートアップごとに、いつでも利用できるワーキングスペースを2−3席分用意します。
  • Mentoring
    さまざまな分野の専門家とマンツーマンでメンタリングをうけることができます。
  • Technology Support
    KMUTTの研究や技術にアクセスすることができます。将来的には共同創業なども可能です。
  • Workshop & Training
    事業アイデア出し、マーケティングや法律など、スタートアップに必要な知識やスキルを身につけるワークショップやセミナーが開催されます。
  • Legal Consultation
    法律関連のコンサルティングをうけることができます。起業時のルールや制限や、その他企業との連携時の契約などを支援します。
  • Business Consultation
    ビジネスのコンサルティングをうけることができます。また事業プランについてもアドバイスを提供します。
  • Prototyping Service
    新規プロダクトの製作、特にハードウェアのプロトタイピングを支援します。
  • Smart visa Support
    海外から参加するスタートアップ向けに、中長期滞在できるビザの取得を支援します。

TECH BITE スケジュール(TECH BITE紹介資料より)

プログラムでは約半年弱、ステップごとにアイデアスクリーニングから、ワークショップ、メンタリングを通して最終的にハッカソン、ピッチイベントなどで事業アイデアを競い合うステップまで、手厚く支援していただけます。

メンターとのディスカッションの様子(TECH BITE紹介資料より)

メンターとしてプログラムを支援するメンバーはタイからのみならず、海外の専門家も多く、多様なビジネスモデルやマーケットについてインプットすることができます。KXのスタッフがビザのサポートまで実施いただけるので、日本マーケットに拘っていない方、スタートアップにとってはこの上ないプログラムです。

第5回開催となる次回は、日本からもメンバーを集める予定になってますので、ぜひこの機会に海外に目を向けてみたい方はご連絡ください。特に大学のDeepTechを取り入れたサービスや商品を立ち上げたいスタートアップ、中小企業のメンバーにはおすすめします。


タイにおけるスタートアップの課題

次にタイにおけるスタートアップの課題について伺いました。

タイは東南アジアの国々と比較して、GDPは現在インドネシアに次ぐ2位となっておりますが、スタートアップ・エコシステムはそれと比較するとStartup Genomeのランクでは低い順位になっております。Matas Danielevicius氏によると、その原因のひとつにCVCに依存しすぎる傾向があるようです。実際に多くのスタートアップが、タイの大手銀行である SCB 10x や KASIKORN X などのコーポレート ベンチャー キャピタル(CVC) ファンドから生まれています。そうなると資金調達はできるものの、事業の主導権を握られてしまうといった課題が生じているようです。スタートアップの長期的な活動に対する投資というよりは、そういった大手企業の一部として早急に利益を出すための活動がスタートアップに求められてしまいます。また、アーリーステージのスタートアップの資金調達における投資家との契約についても、スタートアップにとって不利な条件が多いなど課題が多く見受けられるそうです。そういった課題に対してもKXは積極的に支援を進めております。


Mengqian Li氏(左から1番目)、Matas Danielevicius氏(左から3番目)との記念写真

KX(Knowledge Xchange)の様子についていかがでしたでしょうか。

KXが主催するTECH BITEには、2020年7月から2021年12月の間で123チームが参加し、最終的に37チームがTED FUND、NIAやDEPAから合計35.3 Million Bahtの資金調達に成功しました。このように、インキュベーションプログラムとして実績もしっかり残しており、参加者にとってはKXのリソースを存分に活用できる良い機会となること間違いなしです。

KX(Knowledge Xchange)や TECH BITE にご興味がある方はお気軽に問い合わせよりご連絡ください。

いかがでしたでしょうか?
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。

投稿者:宮緒 ディフェイ

学生時代、ナノテクノロジーなどの基礎研究に従事していた際に、最先端技術が一部の研究者や専門家の間だけで議論され、世の中に出回ることが少ないことに課題を感じ、在学中にサイエンスコミュニケーターとして活動をはじめた経験をもつ。大学院時代に訪れたバンコクのラグジュアリーデパートーや、マンションに魅了されことをきっかけに、タイ王国における最先端技術にも興味をもちはじめる。
現在は、大手通信企業の研究開発部門で働きながら、RouteXでは主にASEAN諸国のスタートアップ・エコシステムのリサーチを担当している。