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コロナウイルスの影響で世界的に急成長したフードデリバリー

2020年、コロナウイルスの蔓延により世界で飲食業界が大きく変わりました。
居酒屋やバーなどの夜間営業がメインの店舗だけでなく、テレワークの推進によって、これまでお昼どきのサラリーマンたちの胃袋を満たしていた街中の飲食店も大打撃を受けています。

一方で、テイクアウトを始めとするフードデリバリーの需要は伸びています。

こちらは、株式会社クロス・マーケティングが2020年11月に日本の1100人を対象に取ったアンケート結果です。

Image Credit : Cross Marketing

コロナウイルス感染拡大で「利用頻度が増加+利用を始めた人」は、利用経験のある人のうち30%を占め、外出自粛の影響によってフードデリバリーの利用者が一定程度増加したことを示しています。

しかし、まだ半数以上が「使ったことがない」と回答しているように、日本ではフードデリバリーはそこまで盛んな産業ではないし、もっと言えばフードデリバリーはイートインに完全に代替されるものではなかったということです。

分離が進む飲食業界

もとより、飲食物の提供方法には「イートイン」と「テイクアウト」と「デリバリー」があったが、コロナを契機に「イートイン&テイクアウト」と「デリバリー」間で高い壁が築かれたと思います。

なぜそのようなことが起こったのでしょうか。理由は明白で、フードデリバリー業界という新しい業界が「形」を持ち始めたからです。

要因は大きく2つです。

1つ目は、社会的な変化です。具体的には、主にアジア地域における中産階級の増加と男性中心社会からの脱却です。

前者は、発展が目覚ましいアジア地域において、比較的金銭的に余裕が出てきた世帯が増えたことにより、高付加価値商品・サービスの需要が増してきたからです。

フードデリバリー関して言えば、今後5年間の市場規模の伸びの59%はアジア地域によってもたらされるといわれています。(下図参照)

Image Credit : Business Wire

後者は、女性の社会進出が進む中、家事に時間をかけたくないという世帯が増えてきたということです。「時間をお金で買う」こと自体は新しいことではないが、最近は顕著になってきていると感じます。話は少しそれますが、少し前にパナソニックが出した洗剤自動投入式の洗濯機がヒットします。これもそのトレンドの1つでしょう。

2つ目は、ハードウェアの発達です。

フードデリバリーは、適切な注文を、遅延なく、最適な経路で消費者へデリバリーする必要があります。そのためには配達員のスマホは正確な位置情報を常に伝えないといけないですし、高速でデータを送受できないと話になりません。

10年前の日本は、ガラケーが主流の時代でした。この時代に今のフードデリバリービジネスが成り立ちそうにないのは、感覚的にもおわかりになるでしょう。

以上のように、社会的な変化とハードウェアの発達が、実は何年にもわたりじわじわとフードデリバリー業界の素地を整えていました。そこに、コロナウイルスという”ロケットエンジン”が、フードデリバリービジネスの急激な拡大と、「イートイン&テイクアウト」との壁を一気に築き上げたと考えられます。

フードデリバリーは飲食業を救う救世主になりうるか。

ここからは本題である、”フードデリバリーは飲食業を救う救世主になるか”、という論点に移ります。私は「〇よりの×」であると考えます。しかし、敵対者という訳ではありません。

日本よりもフードデリバリーが進んでいる海外の事例を参考にしながら、なぜ救世主にはなりえないのかという理由を2つ述べてみます。

①風当たりの強いビジネスモデル

フードデリバリーのビジネスモデルは、1取引当たりの注文金額に対して一定の割合(10~30%)をレストランからサービス料として徴収するという形態です。

しかし、このビジネスモデルはアメリカを始め各国で非難の声が上がっています。

通常の飲食店は売上に対する利益率が10%以下の店舗が多い。そのため、その中からデリバリー企業に支払うサービス料を用意するのは酷であるということです。

2020年4月、サンフランシスコでは市中のレストランオーナーからの声により、フードデリバリー企業が課すサービス料を、レストランが通常営業に戻るまで15%以下にする法令が整備されました。DoorDashやUberEatsは反対の声を上げましたが、叶いませんでした。

フードデリバリーのビジネスモデルは、1取引あたりの単価が低いためジリ貧ビジネスに陥りやすいです。配達員の報酬やレストラン開拓に費用がかかる上に、多数ある競合に勝つために多額のマーケティング費用をつぎ込むためです。

また、Careemという配車サービスを展開していたドバイのスタートアップは、フードデリバリービジネスの参入に際し、サービス料を0%にする代わりに月額固定の新しいビジネスモデルを発表しました。同社CEOのMudassir Sheikha氏は、CNBCの取材に対し「(従来のビジネスモデルは)パンデミックを乗り切ることにはよかったのですが、レストランは損を被る事態が起こってしまいました。」と述べている。

いかに利益を出すか

この逆風に対して、フードデリバリー企業が何もしていないわけではありません。

例えば、DoorDashは新たなビジネスの展開によって、売上確保に動いています。

DoorDashは、これまでにDoorDash for WorkやDriveといったサービスを展開したり、Walmartなど異業種との提携を行い売上を拡大していましたが、全てフードデリバリーから派生したサービスでした。

しかし、昨年の8月にDashMartという新たなビジネスをローンチしたことが話題となりました。これは食料品や日用品、医薬品などおよそ2000種類の品目を自社倉庫に用意し、注文が入ればそこから配達員が配達をするというサービスです。配達型のコンビニと言ったらわかりやすいかもしれません。

このようなビジネスモデルはグロッサリーデリバリーと呼ばれ、盛り上がりを見せてきている業界となります。フードデリバリー企業は既存のアセットを活用しやすいので、今後はグロッサリーデリバリーに参入してくる企業も増えてくるかもしれません。

密かに進む自動配達ロボット

ロシアのフードデリバリー企業Yandex Edaの親会社であるYandexは、フードデリバリーでの活用も視野に入れながら、自動配達ロボットの開発を進めています。その名も「Yandex Rover」です。

”ロシア版シリコンバレー”と呼ばれるスコルコボでは、既に2台が市場に導入されています。

Image Credit : Yandex

Yandexは今後、Yandex Edaやその他Yandexの事業に普及をさせ、「ラストワンマイル」を埋める手段にすると意気込んでいます。

Image Credit : Medium

フードデリバリー業界における自動配達ロボット開発のメリットは2つあります。

1つ目は、完全非接触の対応ができるという点です。最近はあまり耳にしなくなってきましたが、配達員と顧客の間のトラブルは少なくありません。自動配達ロボットが普及することにより、この問題は回避できるでしょう。

2つ目は、フードデリバリーは距離が短い配達が多いため、実証実験やプロトタイプ導入を行いやすい点です。自動配達ロボットが活躍する「ラストワンマイル」は、環境問題の観点から様々な業界でキーワードとなっています。そのため、自社のサービスへの活用のみならず、技術アセットとして他ビジネスへの応用が期待できます。アメリカのフードデリバリー企業であるPostmatesは「Postmates Serve」という自動配達ロボットを開発しており、既にロサンゼルスやサンフランシスコでフードデリバリーを通した実証実験を盛んに行っています。

上記以外にも、「配達員の削減も考えられるのでは?」とお考えになった読者もおられるかと思います。

少なくともYandexとPostmatesはそのようなことを述べていない(当たり前だが)ため、現時点では邪推でしかないと考えています。

しかし、配達員にかかっている経費は大きいです。報酬や備品だけでもかなりの額があるはずですし、単純に考えてレストランからのサービス料だけでそれらを完全にまかなえるとは思えません。配達員はフードデリバリー企業にとって重要なステークホルダーであり、彼らなしではビジネスが成立しないでしょう。そう考えると、しばらくは配達ロボットが今の配達員を駆逐することはないでしょう。

②ゴーストキッチンの増加と既存飲食店との対立

ゴーストキッチンという言葉を耳にしたことのある人は多いのではないでしょうか。

ゴーストキッチンは、デリバリー専門の飲食店のことです。

特徴として、「初期費用がかからない」、「人件費がかからない」、「(入居先次第では)納入コストを合理化できる」などの価格メリットが多いのです。

現在、ゴーストキッチンが急速に増えています。

Restaurant DIVEによると、ゴーストキッチンの市場規模は2030年までに世界で1兆ドルに達するといいます。

既存の飲食店がゴーストキッチンに勝てない理由

理由は明白で、ゴーストキッチンはフードデリバリーにサービス料を支払うことを前提とした飲食店だからです。当たり前ですが、そのためにフードデリバリー上では金銭的にも構造的にも、既存の飲食店はゴーストキッチンに太刀打ちできません。

例えば、既存の飲食店舗のオーナーがレジ締めやテーブル清掃をしているとき、ゴーストキッチンのオーナーは新しいメニューやマーケティング施策を考えているかもしれません。

また、ゴーストキッチンがこれから爆発的に増えれば、ユーザーが使うアプリ画面の争奪戦が起こります。十分な作戦が練れず、争奪戦に負けた飲食店には閑古鳥が鳴くことになるでしょう。

以上のように、今後既存の飲食店はフードデリバリーのメリットを享受できる可能性が小さくなってきます。

すると飲食店、特にチェーン店などではない飲食店は、フードデリバリーと決別する方がよっぽど効率よく仕事ができるようになるでしょう。

フードデリバリーは独自の道を進み続ける

ここまでお話させて頂いた点をまとめると、フードデリバリーは飲食店の救世主にはなりえないということです。しかし、私が×よりの〇とさせて頂いたのは、100%既存の飲食店にメリットがなかったかと言われればそうではないためです。

実際に都道府県や地方公共団体によっては、フードデリバリーの推奨をしているところもあるので、一定程度役に立っているということでしょう。

しかし、長期的な目線で見たとき、フードデリバリーとの両立は難しいと思います。

元々、飲食業は10%程度の利益が出ない体質にもかかわらず、売上の30%をフードデリバリー企業に徴収されるのは飲食店経営者にとっては苦しいでしょう。

フードデリバリーは今後、飲食業の中に「デリバリー」というテリトリーを築き、独自の道を進み続けると考えられます。

私たちユーザーにとっては、わざわざ足を運ばなくても様々な飲食店の味を楽しめるのは良いことです。

イートイン、テイクアウト、デリバリーを使い分けながら、楽しい食生活を送っていきたいですね。

投稿者:加藤 哲熙
学生時代にロシアに1週間ホームステイをし、その体験からロシア・東欧に強い興味を持ち始める。
インスタグラム「ロシアに行きたくなる100の理由+」の中の1人。
好きなお菓子はスィローク。
マーケティング、中でも需要創造型マーケティングに興味がある。
最近はスタートアップのマーケティングをリサーチ、分析しており、
ユニコーンスタートアップがアーリー期に取っていた施策を見るたびにいつも唸っている。

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