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2021年12月2・3日の2日間に渡り、フランス・パリにて世界最大のDeep Techカンファレンス Hello Tomorrow Global Summitが開催されました。
先進的な技術を組み合わせることで世界市場に対して破壊的なソリューションを生み出すDeep Techは、SDGsや気候変動と言った地球規模の課題を解決すること、また金銭的に大きなリターンを生み出すことが期待され、コーポレートや投資家、政府機関などあらゆるスタートアップ・エコシステムのプレイヤーから注目を集めています。
今回、RouteXは日本から唯一のMedia Partnerとして現地で参加しました。
イベントコンテンツや参加者との交流を通じて汲み取れる、世界的なDeep Techのトレンドを、全4回の連載を通じてお伝えします。
第1回目:
第2回目となる今回は、毎年のGlobal Summitにおけるスタートアップ向けピッチコンペティション、Global Challengeにてトップ選出(Grand Prize)されたDeep Techを中心に、各カテゴリごとの注目スタートアップを紹介します。
弊社は、Hello Tomorrowの日本におけるエコシステムパートナーとして、これまでもHello Tomorrowの日本ハブであるHello Tomorrow Japanと連携し、国内のDeep Techエコシステム構築に寄与すると共に、昨年パリのHello Tomorrow本部へ訪問・取材をおこなっております。
Hello Tomorrowに関する過去の記事はこちらをご確認ください。
Hello Tomorrow Global Challengeについて
Global Challengeとは、Hello TomorrowがDeep Techを技術分野ごとに10個に分類し、それぞれで優秀なスタートアップを選出するコンペティションです。Hello Tomorrrowからの情報によると、今年は世界から4,000のDeep Techが応募し、全分野で合わせて77のスタートアップがGlobal ChallengeのFinalistとして選定されたようです。
次にそのファイナリストから各カテゴリごとに1社、および別に今回農業分野とカーボンニュートラル関連で特別な賞が設定され、合計で12社が剪定されました。
なお12社の表彰の中にはコーポレートがスポンサーとしてついているものもあり、賞を受賞したスタートアップとの円滑な連携を進める工夫が見られます。
そしてその後さらに10社から1社、コンペティションのナンバーワンであるGrand Prizeを決定する流れとなります。
過去Grand Prizeを獲得したDeep Techはこちらの記事にまとめています。
2016年に受賞した電動航空機の開発を行うLilium Aviation (現Lilium Gmbh)は、直近2021年9月にNASDAQに上場し、Deep Techに関連する業界では大きな話題となりました。
このようにイグジットへの道のりに様々な困難が伴うDeep Techにおいて一つの成功事例が出たことによって、Global Challengeがより今後のトレンドを占う上で重要なコンペティションとして注目を集めることが期待されます。
また、今回の応募スタートアップを構成する出身大学は、MITやOxfordの他、EPFL (スイス)、NUS (シンガポール)など、高い研究の質をもつ大学からの参加を実現しています。
また出身国はアメリカやフランスを始め、イスラエルやシンガポール、スペインなどもランクインしています。
ヨーロッパをはじめとして研究力の高い国を中心としたネットワークを持ちつつ、いわゆる第二波にあたる国々やアジア圏における活動が示唆されます。
ちなみにブース出展企業にはトルコからの参加も数社みられました。
ファイナリストとなったスタートアップ10社を紹介
ではこの章より、実際に現地で紹介されたファイナリスト12社をご紹介します。
TRL (Tech Readiness Levels):技術の成熟度を評価するための9段階 (1:基礎的な技術体系の判明 〜 9:最終製品として機能) の指標で、高ければ高いほど製品化の実現性が高いことを示しています。
詳しくは第1回目の記事をご確認ください。
- デジタルヘルス分野:“Digital Health & Medical Devices” (スポンサー:Future4Care)
DeepSpin (ドイツ)
TRL 3-4
ポータブルで低価格のMRIを開発し、ポイントオブケアでのMRIスキャンを実現 - 医薬分野:“Medical Biotech & Pharmaceuticals”
D-Nome (インド)
TRL 6-7
DNA/RNA増幅を簡素化し、複雑な装置を不要に - インダストリー4.0分野:“Industry 4.0”
Atlant 3D Nanosystem (デンマーク) (Grand Prize)
TRL 6-7
地球上、そして宇宙での原子レベルでのマイクロエレクトロニクス製造を容易にする - コミュニケーション分野:“Computer and Communications Hardware”
C12 Quantum Electronics (フランス)
TRL 3-4
大規模量子計算が可能なプロセッサの開発 - AI分野:“Data & AI”
AI Redifined (カナダ)
TRL 6-7
AIと人間の協働システムを開発し、偏りを減らし、機械の判断をより理解できるようにする - モビリティ分野:“Mobility & Urban Sustainability” (スポンサー:Leonard)
Enerdrape(スイス)
TRL 6-7
モジュール式の地熱パネルにより、地下インフラを再生可能な熱源に変える - 航空宇宙分野:“Aerospace” (スポンサー:Safran)
AEROFLUX BRAKING SYSTEM(カナダ)
TRL 5
民間航空機に摩擦がなく、実質的に摩耗のないブレーキを提供する航空機用磁気ブレーキの開発 - 食品・農業分野:“Food & Agriculture” (スポンサー:EIT Food)
Crover (イギリス)
TRL 6-7
大量に貯蔵された穀物などの中を自走し、重要な穀物の品質情報を提供することができるドローンの開発 - エネルギー・環境分野:“Energy & Environment” (スポンサー:IFP Energies Nouvelles)
Oxyle(スイス) (2nd Prize)
TRL 6-7
工場や自治体の廃水から難分解性の有機汚染物質を除去する - 産業向けバイオ / 素材分野:“Industrial Biotech & New Materials”
NUProtein (日本)
TRL 8
無細胞で低コストのタンパク質合成技術の開発 - 特別賞「サステイナブルな農業」分野:“Sustainable Innovation to shape the future of agriculture” (スポンサー:Bayer)
Lypid(米国) (3rd Prize)
TRL 5
動物性脂肪を模倣し、食感や融点を正確に調整できるビーガン用脂肪を開発 - 特別賞「カーボンニュートラル」分野:“Unlocking the CO2 circular economy” (スポンサー:Orano)
RepAir Carbon Capture(イスラエル)
TRL 3-4
電気化学的CO2分離技術により空気中のCO2を捕捉
ファイナリスト12社からさらに選定された、Grand Prizeを含む3社の紹介は以下となります。
Atlant 3D Nanosystem (デンマーク) (Grand Prize)
Atlant 3D Nanosystemは、2018年にデンマーク工科大学出身のメンバーによって創業され、デンマークの首都コペンハーゲンに拠点を置くDeep Techです。
サービスとして、これまで高度な技術を必要としていたマイクロエレクトロニクスを容易に製作することのできる3Dプリンターを、製品自体の売り切りもしくはSaaS型 (同社はMicrofabrication as a Serviceと表記)にて提供しています。
2021年半導体の価格高騰がニュースとなっていたように、あらゆるもののデジタル化が進む中でマイクロエレクトロニクスは基幹技術として必要になりますが、同社のサービスが浸透することによって、エネルギーや材料、ヘルスケアなど一見関わりのない分野にまで波及することが考えられ、今後大きなインパクトが期待されます。
さらにAtlant 3D Nanosystemが注目される理由の一つに、宇宙産業との連携がすでに進行していることにあります。
こちらの記事によると、NASAが同社の顧客としてすでに3Dプリンターを利用している他、無重力空間における製作を使用するために、既存のプリンターをより小さくしたバージョンの開発に共同で取り組んでいるようです。
エコシステムにおけるトップダウンの潮流に合わせて今後の事業拡大が期待されます。
Oxyle (スイス) (2nd Prize)
Oxyleは、2020年にスイス連邦工科大学チューリッヒ校 (ETH Zurich)からのスピンオフとして創立され、チューリヒに拠点を置くDeep Techです。
同社は廃水中に含まれる有害物質の95%を除去できる多孔質の触媒材料を開発しており、既存の技術では処理が難しい化合物の処理も可能となっています。
現時点でパッケージとしての提供はしていないようですが、TRLも比較的高く製品化も近いものと考えられます。
いわゆるClean Techと呼ばれる分野への注目自体がヨーロッパでは高まっていますが、スイスでは大学や民間組織によるインキュベーション支援が盛んにおこなわれており、同社も出身大学であるETH Zurichの他NGOである>>venture>>、また国やEUからの支援も多数受けており、先述のAtlant 3D Nanosystemに比べるとより社会的な意義を評価されているDeep Techだと見受けられます。
Lypid(米国)(3rd Prize)
Lypidは、2020年にコーネル大学の学生が創立し、サンフランシスコに拠点を置くDeep Techです。同社は植物肉をより動物肉に近い風味・味にするために食感や融点を正確に調整できるビーガン用脂肪を開発しています。関連産業の中で未だ植物肉が2.5%のシェアに満たないことにみられるような動物肉との乖離をなくすことを目指しているようです。
同社はDeep Tech分野に特化して積極的に投資活動を実施し、アクセラレーターとしても機能しているSOSVから出資を受けています。
また非常に興味深いのが、創業チームの2名がともに学部時代を国立台湾大学で過ごし、コーネル大学での博士課程を卒業している台湾系のメンバーであることです。シリコンバレー等発達したエコシステムにみられる移民系のコミュニティから発現した例として考えられます。
表彰されたスタートアップからみえるDeep Techトレンド
– 各分野のファイナリストにおけるTRLから見るそれぞれのDeep Techの成熟度 –
これまでのレポートで述べた通り、Deep Techは様々な技術の集合を意味しており、技術自体の成熟度は各カテゴリごとに異なります。
一方、潜在的なインパクトを持つビジネスやテクノロジーを外部に露出することがカンファレンス実施の主目的であると考えると、各カテゴリごとに1社ずつ選定された全12のDeep TechのTRLをみることで、そのDeep Techを包括するそれぞれの分野における技術全体の成熟度を測ることができ、注目すべき分野をより鮮明にみることができると考えました。
その場合、上記のグラフの通りTRLが最も高い8をつけたのが産業向けバイオ / 素材分野であり、TRLがもっとも低い3-4となった分野がデジタルヘルス分野、コミュニケーション分野、そしてカーボンニュートラル分野となりました。
最も高いTRL 8をつけた産業向けバイオ / 素材分野で選定されたNUProteinは、人工肉や再生医療に使用されるタンパク質を従来より大幅に安価な値段で提供する合成試薬キットを提供していますが、この分野はいずれもアメリカを中心とした全世界的な市場の広がりを現時点で見せています。
素材分野は既存産業における課題が見えやすい分、現段階で確立された技術からどんどんと広がりを見せていくことは想像しやすいのではないでしょうか。
なおNUProteinは、初めてGlobal Summitにおけるファイナリストに選出された日本発のスタートアップとなりました!
一方、TRLの低い3分野のうちデジタルヘルス分野、コミュニケーション分野の二つは、すでに市場が成熟しきっているため、新たな破壊的技術を求め始めていると言えるのではないでしょうか。特にコミュニケーション分野のファイナリストであるC12 Quantum Electronicsは、カーボンナノチューブ技術を用いた量子コンピューティングを実現していますが、量子コンピュータの分野自体が価格面や技術面の課題が多く残る分野です。
技術の発展が徐々に進み、特にフランスでは政府も注力する分野となっていますが、社会実装にはしばらく時間がかかるといえそうです。
また、カーボンニュートラル分野は解決策への期待が近年急速に高まっているため、ビジョン先行でRepAir Carbon CaptureのCO2捕捉技術が選定されていると感じます。ただしこのような資本が集まることによって技術開発自体が急速に進むことも考えられるため、今後の動きに引き続き注目が集まります。
いかがでしたでしょうか。
次回は現地で聴衆からも大きな注目を集めていた分野の一つ、Climate Techについてご紹介します。
投稿者:塚尾 昌浩
サンフランシスコにて実施されたTechCrunch Disrupt SFでの現地取材でスタートアップ・エコシステムの可能性に衝撃を受け、以来エコシステムの並行分析とDeepTech領域に注力。
中でもフランスはエコシステム発展の典型事例として特に注目している。
食に、ワインに、サッカー観るのも好きなので相性はばっちり?
直近の目標は、フランスで現地の友人とサーフィンとワイン巡りをすること。
RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、フランスを始めとする世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。