Image Credit: Google Map
今回は、シンガポールのスタートアップ環境について説明して行きたいと思います!
シンガポールは、東南アジアのマレーシアの南に位置する都市国家であり、1965年の建国後わずか30年ほどで、1人当たりのGDPが50,000ドルを超え世界10位となるほど、急速に経済を発展させました。そのため、国自体が「スタートアップ国家」と表現されることもあります。
2010年以降は国全体の経済成長率は落ち着いてきており、従来「経済中心」だった政府の統治方針も「福祉重視」で「国民寄り」のものになってきていますが、
この急成長の背景に、政府が優秀な人材や企業を海外から誘致して、起業家やスタートアップの支援に積極的な投資を行ったことや、NUS(National University of Singapore)などの国内主要大学が起業活動を促進・啓蒙したことは非常に特徴的です。
結果、現在シンガポールは、非常にビジネスのしやすい国として認識されており、GoogleやFacebookなど、多くのグローバル企業が支社を置いていおり、スタートアップに関連する国際的なイベントも多く開催されるようになってきています。
それでは、その詳細を説明していきたいと思います!
1 シンガポールのスタートアップエコシステム
(シンガポールのビジネス街の様子。シンガポール国内には、ゴルフ場やローカル街・インド街などもありますが、そこから移動してすぐに高層ビル群が現れることも印象的です。)
Startup Genomeによる「Global Startup Ecosystem Report」で発表されるスタートアップエコシステムランキング(2017年)では、シンガポールは世界12位に位置付けられていますが、シンガポールのスタートアップエコシステムには、以下の3つの特徴があります。
政府の積極的な支援
(シンガポールの国会議事堂の様子。現地にて撮影。シンガポールは人民行動党の一党独裁体制となっており、ときには「明るい北朝鮮」と表現されたりもします。)
1つ目は、シンガポール政府が、起業家への助成金や特許の商業化サポートなど、スタートアップ支援を積極的に行っていることです。
ここでは、起業への助成金や支援制度が策定されるだけでなく、スタートアップの成長を加速する投資ファンドやインキュベーション施設などの設立、グローバルIT企業の誘致などの広い範囲にまで、政府が深く関わっていることが特徴的です。
Image Credit: Google, ACE HP
(政府に公認された非営利の起業家支援組織であるAction Community for Entrepreneurshipは、シンガポールのスタートアップエコシステムを一枚でまとめたマップの2017年度版を発表しています。真ん中に「Ecosystem(ACE)」があり、その周りに「Accelerators」「Institutions」「Incubators」「Co-working」「Corporates」「 GOVT」「VC Investors」がまとめられています。 )
政府系の投資ファンドとしては、テマセク・ホールディングスやGIC(GIC Private Limited)、EDBi(EDBI Pte Ltd)、SPRING シーズ・キャピタル(SPRING SEEDS Capital )などが有名あり、積極的な投資が行われています。
Image Credit : Google StartupSG HP
(StartupSGのHPでは、サインインすると、スタートアップや投資家向けにネットワーキングサービスが提供されており、様々なTech系スタートアップやアクセラレータなどを検索して調べることができます。)
また、2017年以降には「StartupSG」という統一ブランドが貿易産業省(MTI)に導入され、
スタートアップ向けに
「StartupSG Founder(起業家支援)」
「StartupSG Tech(新規技術の商業化支援)」
「StartupSG Loan(スタートアップへの融資)」
「StartupSG Infrastructure(起業スペースの支援)」
など、広い範囲のサポートサービスが提供されています。
さらに、「StartupSG Investor(投資家向け支援)」や「 StartupSG Accelerator(アクセラレータ運営支援)」など、スタートアップを支援する主体にまで手厚いサポートが行われているのも特徴的です。
大学の積極的な支援
(NUSのエントランスの写真。NUSはアジアで最も優れた大学だといわれることも多く、世界中の大学を調査しランク付けしている「QS World University Rankings」の2019年度版では、アジア地域で1位の大学だと評価されてます。)
2つ目は、国内の主要大学が、起業の啓蒙活動やプログラム、インキュベーション施設を積極的に運営していることです。
特に、シンガポール国立大学(NUS:National University of Singapore)は、NUS エンタープライズ (NUS Enterprise)という起業支援部門を運営しており、インキュベーション施設や起業家支援プログラムを運営することで、大学発スタートアップの育成や大学の研究シーズの商業化を促進しています。
NUSが運営するインキュベーション施設としては、BLOCK71が有名です。
BLOCK71は、シンガポール国内でも最大のスタートアップ集積拠点の一つとなっており、NUS発のスタートアップがたくさん入居している他、異なる国からきた多様な人材が集まっています。
また、国内のみならず、ジャカルタ(インドネシア)、サンフランシスコ(アメリカ)、蘇州(中国)にも、コワーキングオフィスを拡大させています。
シンガポール国立大学(NUS)のみならず、南洋工科大学(NTU)やシンガポール経営大学(SMU)も、起業家の育成・支援や、大学内の研究機関が開発した IP の商業化などを積極的にサポートしています。
アジア市場のハブ的位置付け
3つ目は、シンガポールのスタートアップエコシステム自体が、シンガポールの国内市場ではなく、もっと巨大なアジア市場を意識して、サービスを開発するための「窓口」として捉えられていることです。
シンガポールの人口は約 560万人(2017 年時点)であり、さらにその内の約3割は消費少ない外国人で構成されています。
そのため、シンガポール国内の経済規模は、それほど大きくなく、日本国内の県庁所在地でいえば、千葉県以上神奈川県未満といわれます。
そのため、事業拡大期を迎えた国内外のスタートアップ は、次の事業展開先として東南アジアや中国・インドなどを意識し、その前段階の事業開発や実証実験のステージ、あるいは、良質なネットワーキングや情報収集の場として、シンガポールを利用している側面がとても強いといえます。
例えば、東南アジア最大のライドシェアサービスを提供するGrab(グラブ)は、マレーシアで創業され、その後周辺諸国でシェアを急速に拡大させましたが、その後、同業他社のUberを東南アジア圏で買収し、シンガポールへ本社(Global Headquarter)を移転しました。
この移転は、東南アジア全域でサービスを普及させるためだといわれており、シンガポール国内のライドシェアサービスも2018年9月末時点で、合併したUberは使用不可となっており、Grabのみが使用可能になっています。今後もGrabのサービスのシェアは東南アジア全域で拡大していくと予想されます。
2 アジアのビジネスハブに集まるグローバル企業
先述のように、シンガポールはアジア全域に関連する事業にとって「窓口」や「ハブ」的な認識を世界各地域から獲得しているといえます。
実際に、世界各国からFacebookやGoogleなどの大手IT企業やWeWorkといったグローバルアクセラレータが進出し、APAC HQを設置する事例も多いです。
(アジア統括本社の事をAPAC HQと表記する場合があります。)
一方で、以下のような、シンガポール発のローカル系コワーキングスペースも多数あります。
Image Credit: Google, Found HP
Image Credit: Google, the Hive HP
特に、JUSTCOやFound、Hiveなどが有名であり、スタートアップ・フリーランス・大手企業のチームなどが利用しています。
Image Credit : Google, Tech in Asia HP
(2018年のテックインアジアで優勝し5000USドルを獲得したEmpassの写真。)
さらに、海外人材の教育プログラムやTech in Asiaなどの有名イベント・ハッカソンが開催されることも多く、国内外のスタートアップが盛んに参加しています。
このように東アジアのビジネスハブのような役割をもつ事がシンガポールのスタートアップエコシステムの大きな強みとなっています。
3 注目の分野
Image Credit: Google, ACE HP
(ACEが発表している2016年度版のデータでは、シンガポール国内のハイテクスタートアップの割合が業種別に分類されて示されています。シンガポールのスタートアップの中でも55%が「消費者向けデジタル」に分類されています。しかし「消費者向けデジタル」のスタートアップが多いのは、技術力が低くても参入障壁できるからという側面もあり、今後のスタートアップの分野は変化するともいわれています。)
現在(2018年9月末時点)のシンガポールでは、
①フィンテック(Fintech)
②エンタープライズテック(Enterprise Tech:法人向けテック)
の分野のスタートアップが注目されています。
元々は金融街だったシンガポールでFintech分野のスタートアップに投資が集まっている背景には、
ASEAN地域で、
①既存の金融サービスが普及していないが
②スマートフォンは普及している
ので、見込まれる市場規模が非常に大きいという理由があります。
4 シンガポールのスタートアップ環境を知るための参考動画
こちらは、シンガポールのFinTechの祭典のプロモーションビデオです!
雰囲気がよくわかりますね!
RouteX Inc.では、引き続きシンガポールのスタートアップとの連携を含めた現地調査を行なっていきます!
シンガポールのスタートアップ環境について、さらに詳しくご興味のある方はお気軽にお問い合わせください!