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記事一覧 > アイルランド・ダブリンのスタートアップ環境を現地調査!
アイルランド版シリコンバレー Silicon Docksとは?

みなさんはアイルランドについて何か知っている事はありますでしょうか?
聞いた事はあっても、国の場所やイメージについては特にないかもしれないですね!
アイルランドで有名な物と言えばアイリッシュパブやギネスビールには親しみがある人も多いかもしれません。そんな少しお酒のイメージが強いアイルランドですが、実は他国とはまた違ったスタートアップ環境の成長をしていると最近話題になっています。
今回はSilicon Docksと呼ばれる、アイルランドの首都ダブリンに独自に成長するスタートアップ・エコシステムを現地調査してきたので、現地の様子をお伝えします!!

 Image Credit : Google 

アイルランドと聞いてすぐに国の場所が分かる人はけっこう少ないのではないでしょうか?
アイルランドはイギリスと混同されがちですが、実はイギリスの隣にある、首都をダブリンとする国になります。イギリスがイングランド、ウェールズ、スコットランド、北アイルランドの4ヶ国から構成されている事から、アイルランドがイギリスの一部と混同してしまっている人もいるかもしれません。アイルランドはイギリスの最初の植民地としての歴史があり、その名前からも分かる通り、北アイルランドは元々アイルランドの土地として主張されていましたが、イギリスとの交渉の結果、イギリス領となってしまいました。

そのため、現在でもアイルランドでは反英感情が高いと言われています。

アイルランドスタートアップ・エコシステムの中心
Silicon Docksとは??

(奥の建物がSilicon DocksにあるGoogleのオフィスの一部)

大国、イギリスの隣に位置し様々な歴史を経てきたアイルランドですが、最近独自のスタートアップ・エコシステムを形成している事でも話題になっています。

アイルランドで特に他国と比較して特徴的なのが、港の近くにスタートアップ・エコシステムが形成されているSilicon Docksと呼ばれる物になります。

 Image Credit : Google 
 

Docksとは港、船着場という意味がありますが、元々アイルランドの首都ダブリンは海に面している港街という特徴もあり、漁業でも栄えている街でした。

しかし、最近ではそのダブリンのDocks(港)に世界的なテック企業が集まっている事で注目を集めています。

(ダブリンに位置するFacebook EU HQ)
 

では、なぜダブリンの港に世界的なテック企業が多く集まっているのでしょうか。

それは、1999-2001年に起きたドットコムバブルの崩壊から始まっていると言われています。

当時アイルランドのIDA(industrial developmpent authority、外国からの投資等を呼び込む国の機関)の担当者がシリコンバレーの世界的なテック企業のオフィスをダブリンに構える事で、ダブリンの経済を活性化させようと誘致に動いていました。また、ダブリンの港も元々の漁港としての機能以外も備えるために再開発を進めている時期でもありました。

(Facebook Dublinの様子が分かる動画)

そんな中でGoogleがシリコンバレーの本社にあるようなキャンパス(広大な敷地にオフィスが点在している)とはまた違った形のユニークなオフィスをダブリンの港に建設する事が出来るのではないかと検討し、実際にダブリンの港にオフィスを作った事が始まりと言われています。その後、Googleに追随する形で、FacebookやAirbnb等のシリコンバレーの世界的なテック企業のオフィスが構えられた事から、シリコンバレーに対して、Silicon Docksと呼ばれる様になりました。Silicon Docksは主にダブリンのGrand Canal Dockを中心にそう呼ばれています。

Image Credit : Google

 Grand Canal Dockの地図を見ていただくと、この狭い地域にFacebookやAirbnb、Google等の世界的なテック企業が集中している事がよく分かります。

このGrand Canal Dockは昔ながらの建物と、最新のビル群が混在しているとてもモダンな雰囲気を持っています。

特にAirbnbのオフィスは昔の倉庫の建物を改修した物となっており、モダンでかつ Grand Canal Dockの景観に合っている様に感じます。Airbnbの倉庫のオフィスの隣にある、最新のビルはアクセンチュアのオフィスになっています。この様にシリコンバレーの広大な敷地にあるキャンパス群とは違い、Silicon Docksでは歴史とテクノロジーの融合が街並みにも反映されています。そして、ダブリンのスタートアップ・エコシステムの中心Silicon Docksの特筆するべき点は世界的なテック企業のオフィスがただ単に集中しているだけという事ではありません。実はこのFacebookやGoogleのオフィス等はEU HQ(ヨーロッパ本社)の機能も兼ねています。FacebookやGoogle等の世界的なテック企業はそれぞれの国にオフィスを構えると同時にヨーロッパ、アジアなどの地域を管轄するオフィスを置く傾向にあります。
FacebookやGoogleのアジア統括本社(APAC HQ)はシンガポールに置かれていますが、EU HQ(ヨーロッパ本社)はなんとこのアイルランドのダブリン、Silicon Docksに置かれています。

では、なぜそういった世界的なテック企業のFacebookやGoogleが決して大きいとは言えないアイルランド、ダブリンのSilicon DocksにEU HQを置いているのでしょうか?
それには主に3つの理由があると言われています。

1 事業コストの安さ 税金の優遇

 アイルランドのダブリンが様々なテック企業やスタートアップを魅了するひとつの理由として、法人税の安さが挙げられます。アイルランドでは法人税は12.5%と日本が約30%の法人税がかかる事を考えると半額以下で法人税が非常に安い事がわかります。また、他の西ヨーロッパ諸国も約30%前後という事もあり、アイルランドは法人税の面で企業にとって魅力的な場所だと言う事が出来ます。この様に意図的に法人税を安くすることによって外国企業を誘致し、その外国企業の成長に合わせて自国も成長する事を戦略するとする国の政策を取っている国が増えています。成功例として、APAC(アジア地域)の首都とも呼ばれる様になっている、シンガポールは法人税を安くしたり、外国企業を優遇する政策を取ることによって金融やスタートアップの成長に合わせて大きく自国の成長を促しました。この様に外国企業を誘致するための政策を取ることは、自国の成長とスタートアップ・エコシステムの土台を作る上で非常に重要だと言う事が出来ます。

2​  豊富な人材と英語話者の存在

 (世界的な名門大学 ダブリン大学トリニティカレッジ内の図書館)

そして、アイルランドの特筆すべき点はイギリスの植民地時代があった事からも英語がヨーロッパの他の国々と比較した場合に公用語として広く使われている点です。フランスやドイツなど、他のヨーロッパの主要国は独自の言語を利用しており、英語を外国語として勉強していますが、アイルランドでは英語が公用語のため、みなさん母語の様に流暢に英語を話す事が出来ます。さらに、ダブリン大学トリニティカレッジの様に、イギリスのオックスフォードやケンブリッジ大学の様な歴史ある世界的な教育機関も存在しています。そのため、英語で教育を受けた優秀な人材が多くいると言う事が出来ます。それに対して、これまでアイルランド国内ではそういった優秀な人材が満足できる職場が他国に比較して少なかった状況にありました。そこでGoogleやFacebook等の世界的なテック企業の進出により、優秀な人材の就職先として人気があり、またテック企業は英語が話せる優秀な人材を多く獲得できる事から、アイルランド・ダブリンにおいて人材のエコシステムが形成されたと言う事が出来ます。

グローバルなテック企業で働くためには英語が必須と言われており、そういった意味でもアイルランドは大きな強みを持っていると言う事が出来るかもしれません。

さらにアイルランドはヨーロッパで若い人材が最も多い国とも言われており、また過去にアイルランド・ダブリンは世界で最も人的資本が豊富な都市にも選ばれた経緯があり、世界中のテック企業や大企業にとって優秀な人材の確保のために魅力的な都市と言う事が出来ます。

ヨーロッパ・マーケットへのアクセスのしやすさ

Image Credit:Google 

そして、上記に加えアイルランドの大きな強みは7億人のヨーロッパ・マーケットへのアクセスのしやすさだと言えます。上記の地図を見てもらうと、西ヨーロッパの主要国や北欧に対しても地理的に近い位置にある事が分かります。また、同じヨーロッパ圏という事もあり、文化的に似ている部分もあり、かつ英語が公用語のアイルランドは世界のテック企業や大企業にとって、ヨーロッパを管轄するオフィスを置くことに大きなメリットがあると言えます。

さらに、アイルランドは外国人に対するビザが比較的簡単に取得する事が出来る事からも、テック企業で働く外国人もアイルランドに移住しやすく、アイルランドの優秀な人材と世界中から来た優秀な人材がヨーロッパ・マーケットに対して一緒に働く事が出来、アイルランドの優秀な人材が世界的な働き方や技術を学ぶ事で、次の世代に繋いでいく事が出来る構造が出来ています。

主に上記の3つの理由から世界的なテック企業のEU HQがアイルランドのダブリンに集まっていると言われており、世界中から来た優秀な人材と交わることにより、アイルランド全体のレベルが底上げされ、スタートアップ・エコシステムにおいて非常に重要な影響力を持っていると言う事が出来ます。

では実際にアイルランドのスタートアップの環境はどの様になっているのでしょうか?

英語公用語、「EU」という強みと弱み

(イギリス、ロンドンに本社を置く Foodtech大手 Deliverooもアイルランドに進出)

上記で説明させていただいた通り、アイルランドは外国企業の誘致に積極的であり、英語公用語、さらにヨーロッパマーケットに近いという事が挙げられました。

しかし、こういった側面はスタートアップ・エコシステムにとって強みでもあり、弱みにもなりうると言う事が出来ます。

上の写真はイギリス、ロンドンに本社を置く食事を配達するFoodtechのDeliverooがアイルランドでも営業されている事がわかる写真です。また、ダブリンではUberも通常通り利用する事が出来ます。この様に外国企業の誘致にも積極的でもあり、英語も公用語である事から世界的なスタートアップがアイルランドに進出し、本来アイルランドのスタートアップが狙うはずであった国内マーケットを先にとってしまうという現状も起こりつつあります。

北欧やバルト三国の様に、最近注目を浴びているスタートアップ・エコシステムが形成されている地域では現地の言語やマーケット特性等が独自の物が多く、世界的なスタートアップが進出するのが遅い代わりに、海外で成長したスタートアップのビジネスモデルを自国のマーケット特性に合わせて変化させる事により、成長してきたとも言われています。

その反面、アイルランドは海外のスタートアップにとっても非常に参入しやすいマーケットである事から、これまでのアイルランドの強みが、スタートアップの成長にとっては逆に弱みとなる可能性もあります。その様な特殊な環境でアイルランド独自のスタートアップを成長させようという取り組みも急速に進んでいます。

こちらのFacebookやGoogleのオフィスからほど近い、Silicon Docksの一等地に構えるスタートアップ向けのインキュベーション施設「dogpatch LABS」はダブリンのスタートアップ・エコシステムにおいて大きな存在感を見せています。定期的なスタートアップ向けのMeetupの企画やキーノートスピーチ、FacebookやGoogleで働く人を招いてテクニカルセッション等、大企業やスタートアップ、投資家等を繋ぐ事によってアイルランド、ダブリンのスタートアップ・エコシステムの拡大を目指しています。この「dogpatch LABS」以外にもダブリン内で新しく様々なスタートアップ向けのインキュベーション施設の建設も数多く予定されている事からアイルランド国内のスタートアップ成長に向けたエコシステムの構築が急速に進んでいると言う事が出来ます。 

 いかがだったでしょうか?

これまでアイルランドをビジネスの場として考えた事がある人は少なかったのではないでしょうか?

実際に見てみるとアイルランドは外国企業の誘致に積極的であり、スタートアップのエコシステム構築に向けた動きも急速に進んでいる事から、次のイノベーションを起こすアイルランドのスタートアップの成長からも目が離せませんね!
また、アイルランドのスタートアップ・エコシステムの特徴がこれまで調査してきたシンガポールのスタートアップ・エコシステムに似ている事からも、この様に世界中のスタートアップ・エコシステムを比較、考察する事によって次のイノベーションを起こす、スタートアップが生まれる地域を予想する事が出来るかもしれません!!

RouteX Inc.では、引き続きアイルランドのスタートアップとの連携を含めた現地調査を行っていきます!また、各国のスタートアップ環境についてもっと詳しく知りたい方はお気軽にお問い合わせください。海外のスタートアップとの連携やイノベーション拠点の調査依頼、海外アテンド依頼等もお気軽にお問い合わせください!