フランス発のSNSで、若者を中心に世界的に人気のある「BeReal.」が今月、同じくフランス発のユニコーンであり、ハイパーカジュアルゲーム開発企業である「Voodoo」に、€500M(約849億円)で買収されました。
今回はこの買収について、その背景や「BeReal.」の現状を踏まえて妥当なものであったのかについて、TechCrunch様の記事を元に考察します。
なおVoodooについては、こちらの記事も併せてご確認ください。
若者を中心に爆発的人気を誇るも、成長に陰り
そもそも「BeReal.」とはどんなアプリなのでしょうか。
「BeReal.」は、1日1回送られてくるランダムな通知が来たら、2分間以内に内カメラと外カメラで撮影を行うことで「ありのままの自分」を表現し、シェアすることを目的とするアプリです。
2分間が経過した以後も投稿をすることはできますが、次の日の通知が来るまでに追加で投稿できる件数が2件から0件に制限されてしまいます。
現在「BeReal.」は4,000万人のアクティブユーザーがおり、特に約2,500万人が毎日アプリを使用していると報告しています。主観による記述にはなりますが、筆者の留学先に集まった海外学生の多くが「BeReal.」を使用しており、帰国後のコミュニケーションの手段としても、Instagramと並んで「BeReal.」を用いています。
そんな人気を誇る「BeReal.」は、2020年に開始され、2022年から急激に人気を集めはじめました。つまりわずか2年足らずでここまでのユーザー数を集めたということになります。
しかしその成長にも限界がありました。「BeReal.」のユーザー数の伸び悩みについては、2023年にも度々メディアで取り上げられていましたが、今回の買収までの数ヶ月間も、ユーザーの増加数がほぼ横ばいという状況が続いていました。
ランウェイ(資金が底を突くまでの残り期間)は残り10ヶ月程度とされており、資金調達を受けるか買収に応じるかが急がれていました。これが「BeReal.」にとって最も大きな本被買収案件につながる要因でした。
新感覚SNS × ハイパーカジュアルゲーム
一般にSNSを運営する企業のマネタイズは困難であるとされています。昨今は、Post Newsやソフトバンクも出資したIRLの閉鎖など、SNS関係のスタートアップに関するマイナスのニュースが続いていました。
そうした業界全体の状況を踏まえれば、今回のExitのニュースは明るい兆しのように思えるほどです。一見シナジーがないように思われる2社は、どのような意図で合意に至ったのでしょうか。
結論としては、「Voodoo」側は、「BeReal.」を過去数年間で最も成功しているSNSであると評価して、さらに「Voodoo」が独自に保有するSNSとゲーム広告との相性が良く、少しのサポートでユーザー数を増加させられると考えており、「BeReal.」側は、キャッシュを得られることに加えて、理解のある買い手であることから事業の運営権を保有し続けられる可能性が高いと考えていると想定されます。
「Voodoo」側の評価に関して、「Voodoo」と「BeReal.」の関係性は「BeReal.」が米国に進出する数年前からすでに始まっていたと「Voodoo」のCEOであるYazdi氏が発言しています。実際にYazdi氏が利用する唯一のSNSが「BeReal.」であり、プラットフォームとしての「BeReal.」を高く評価しています。
結論でも少し触れていますが、今後の動きとしては、「Voodoo」がメッセージ機能やビデオ機能といった新機能を搭載し、少し財務・経営面でのサポートを加えることで、「BeReal.」のユーザー数を増加に転じさせるための連携をし、それと同時に広告収益化も行っていくようです。
マネタイズとユーザーの今後
先に「SNSを運営する企業のマネタイズは困難である」と指摘しましたが、実際にX(旧Twitter)でのユーザーの多くは投稿ではなくポストの閲覧を目的としており、課金する人の割合はかなり低い水準にとどまっています。
Metaが運営するInstagramやFacebookでは広告の量が増えていますが、それを是としないユーザーも一部の調査では増加傾向にあると指摘されています。
「Voodoo」が提供するハイパーカジュアルゲームの主な収益源は広告ですが、「ありのままの自分(Real)」が追求される「BeReal.」で、それとは正反対の広告が表示されることに疑問を持つユーザーもいるかもしれません。
しかしながら、まずこのやや特殊ともいえるM&Aを実施した「Voodoo」が検討すべきは、「BeReal.」を成長軌道に乗せられるかどうかであり、これが新機能と支援だけで達成可能なのかは容易には判断しがたい部分です。
「Voodoo」が持つものの中で「BeReal.」に直接生かされるものは表面的には少なく見えますが、「confident」という強い言葉を使いながら「BeReal.」の特異性に期待を寄せるYazbi氏が思い描く理想像が現実のものになる過程を、一ユーザーとして見守りたいところです。
参考記事:Deal Dive: BeReal got its best-case scenario exit
いかがでしたでしょうか?
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投稿者:近藤 碧
京都大学経済学部経済経営学科在学(-2025.3)。ゼミではスタートアップの経営戦略に関するリサーチ・研究に取り組んでいる。2023年9月より、京都大学大学間学生交流協定に基づく交換留学生としてKoç Universityに派遣され、半年間トルコのイスタンブールに滞在した。2022年よりRouteXでインターンシップを開始し、業界リサーチから海外スタートアップの日本進出支援まで幅広い案件を担当。趣味は愛車のバイク(S1000RR ‘21)に乗ることであり、他大学のバイク部にも加入している。
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