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記事一覧 > 欧州最大級のリテールテックカンファレンスTech for Retail 2023 現地レポート

はじめに

フランスのパリに位置するParis Expo Porte de Versaillesにて、2023年11月26日及び27日の2日間に渡って、欧州のリテール業界におけるテクノロジーとデジタルツールの活用と実装に関するプレイヤーを集積した大規模なテックイベント、Tech for Retailが開催されました。今回、我々RouteXはフランスのスタートアップ・エコシステムを日本に発信するべく、Media Passを取得し最新トレンドを調査してきました。本記事ではイベントの概要、当日の様子及びスタートアップトレンドについてご紹介します。

Tech for Retailとは?

「Tech for Retail」は毎年パリで開催される、リテール業界のイノベーションと技術進化をテーマとした欧州全域から注目を集めるイベントです。今年で3回目を迎え、約11,000人の参加者と95社のスタートアップが参加し、150のセッションが開催されました。このイベントは、AccentureやGoogleのような多国籍企業、Carrefourのようなローカルリテール、L’Orealのようなメーカー、そして多数のスタートアップが参加し、業界特化型のコミュニティとしても機能しています。

Tech for Retailの目的は、リテールテックに関する最新トレンドを運営側から発信し、バリューチェーンを網羅するソリューションを提供することです。今年のイベントでは、オムニチャネル、ロジスティクス、メディア活用、人材開発、カスタマージャーニー、マーケティング、ビジネスインテリジェンス(BI)、循環型経済という8つの主要テーマが設定されており、それぞれのテーマに準じて企業やスタートアップが各々のソリューションを出展しています。

また、このイベントにはリテールに特化したエコシステムを形成して、現地のリテール業界のプレイヤーがオフィシャルパートナーとして参加しているため、参加者や出展者には市場の理解を深めるだけでなく、現地でのネットワーキングの機会も提供されます。

イベント当日の様子

弊社撮影

パリ有数の展示会場の一つ 「Paris Expo Porte de Versailles」では年中イベントが開催されており、この日もTech for Retailの他にも複数のイベントが別館で開催されていました。イベントは二日間にわたり朝から開催されていて、筆者は開演の9時に合わせて会場に到着したのですが既に入場のための長蛇の列ができており実際に入場ができたのは9時半過ぎでした。

弊社撮影

手荷物検査を終えた後、エントランスでは係員が入場チケットの確認を行っていましたが左手にはクローク、右手にはチケット印刷のカウンターがあり、この時点で入場前にあった列はなくなり大混雑。

弊社撮影

エントランスを抜けるとすぐに数々の展示ブースが目の前に広がります。各ブースではスタートアップだけではなく大企業や政府系組織などが自社の革新的なリテールテックを紹介しています。どのブースでも最新のトレンドに即した技術をそれぞれ披露しており、どこのブースを見て回っても業界のプロたちが集結し熱心なディスカッションを行っていました。

なお前述の通り、今年はオムニチャネル、ロジスティクス、メディア活用、人材開発、カスタマージャーニー、マーケティング、ビジネスインテリジェンス(BI)、循環型経済という8つの主要テーマが設定されています。組織が提供しているサービスごとにテーマが定められているため、イベント参加者は事前にインターネットから興味深いソリューションテーマを検索し、企業との1on1ミーティングを設定することも可能です。

弊社撮影

イベントでは欧州らしさとトレンドを意識したイノベーションが数多く展示されており最新のメタバース空間を利用したカスタマーエンゲージメントサービスから、在庫連動型管理、その他にもワインを手に取るだけで商品の詳細が表示されるシステムなど店舗での体験型ソリューションが一際目立っていました。一般ユーザーの目線に立って、多くの有名企業やスタートアップのソリューションを評価できる機会を得れることはTech for Retailならではと言えるのではないでしょうか。

イベントではブースの出展と共に、業界のエキスパートらによる数多くのパネルディスカッションも行われました。MonoprixCasino等のリテールバリューチェーンの下流に当たる企業から上流における幅広い分野のメーカーまでもが一堂に会し、リテール業界を取り巻く現状について議論を交わしていました。

中でも特に注目の話題に上がっていたのは、技術革新によって増えたAIとの付き合い方です。ディスカッションでは、どのエキスパートもリテール業界がAIによって作り替えられていることを強調しており、AIの活用による業務の効率化の数多くの事例が語られていました。例えば、アクションプラン作成を全てAIに分析して行わせるものがありました。営業先に辿り着くまでに、何を目的として、どの順序で話すかのプランを練ってくれるため大幅な効率アップにつながります。その他にも、セールスを行う際の営業先の選定や、店舗データ等と組み合わせることでストック管理や最適化された販売経路戦略までを行う企業もあり、AIがビジネスを成長させるキーとなっていることが主張されていました。

またディスカッションでは現在のリテール業界の課題についても言及されていました。課題の一つとして、リテーラーとメーカー間の保有データに差分が存在していることが挙げられます。バリューチェーン間でデータのやりとりやコミュニケーションが活発に行われていないため、メーカーは顧客データ不足によって適切なマーケティング活動ができない、リテーラーは在庫管理に失敗し、顧客のニーズに答えられないという問題が生じています。パネルディスカッションでは、新たなリテールのエコシステム/ビジネスモデルとして、サプライチェーン間におけるデータ共有をより活発にする枠組みや技術開発の必要性について説いていました。

Tech for Retailはパネルディスカッションやブース出展と並行してピッチも行われています。2023年のイベントではINNOVATION AWARDとSTARTUP AWARDの二つのカテゴリに分かれて開催されました。今年は各アワードで5社がファイナリストとして選出されています。

Innovation Award Finalists

1. Shopopop (Winner)

Communiqué de presse : SHOPOPOP
出典:Shopopop

Shopopopは、フランス・ナントに拠点を構えるクラウドシッピングを用いた共同配送サービスを提供している企業です。「共同輸送者」と呼ばれる人々は、普段の通勤や旅行を利用して消費者に商品を届け、その見返りとしてお金を得ることができます。この斬新なビジネスモデルが評価されShopopopは現在約5百万回以上の配達を実施しており、フランスをはじめベネルクス3国(ベルギー、オランダ、ルクセンブルク)、イタリア、ドイツ、スペインにも拡大している欧州のクラウドシッピング業界におけるリーダー的存在です。

出典:Shopopop

2. GS1 France

GS1 France — Wikipédia
出典:GS1 France

GS1は、流通コードの管理及び流通標準に関する国際機関であり、商業パートナー間の交易を容易にし、自動化することを目的としています。フランスには57,000以上の会員企業がおり、規模や業界を問わず、世界では200万社以上が加盟しています。GS1標準の独自の識別コードにより、企業は製品、物流ユニット、場所、販売チャネルに関係なく、識別することができます。

出典:GS1 France

3. Locala

La solution du mois : Locala - Franchise IREF
出典:Locala

Localaは、国際的に注目を集めているフランスのAdTechスタートアップです。ビジネスチャンスのあるエリアにいるオーディエンスの可視性をあげることに重点をおき、クライアント企業に合わせたオーディエンスの分析と、そのオーディエンスに合わせた戦略を考案します。通行量や地域の人口統計など、ローカルに特化した情報を提供することで、 新規出店先やマーケティング戦略の最適化を支援しています。既に120カ国で使用されており、月に9億5000万人のユーザーがいます。

出典:Locala

4. Woop

Woop - TechForRetail - Europe's leading trade fair for technological and  eco-responsible retail innovations
出典:Woop

Woopは、ラストマイル配送の調整と最適化においてヨーロッパでトップのプラットフォームを提供しているフランス企業です。ブランド、運送業者、消費者をより密接に結びつけるために、すべての配送ソリューションを単一のインターフェースに集約してます。これにより、配送および収集フローの調整からオムニチャネルコマースのためのルート最適化まで、すべての配送関連のニーズを解決することができます。

出典:Woop

5. Quipo

QUIPO - TechForRetail - The European trade fair for technological and  eco-responsible retail innovations
出典:Quipo

Quipoはチケットや切符を必要としないエコな世界実現のために、顧客とサービスプロバイダの間に新たなコミュニケーションスタイルを提供するフランス企業です。Quipoを使用することで市場で最も低いカーボンフットプリントを実現しています。データで見るとQuipoのソリューションを導入することにより、紙のチケットを使用した場合より98%ものCO2の排出を抑えることができます。

出典:Quipo

Startup Award Finalist

1. Enhancy (Winner)

Enhancy - TechForRetail - Europe's leading trade fair for technological and  eco-responsible retail innovations
出典:Enhancy

新進気鋭のスタートアップが集まった激戦を勝ち抜き、見事Startup Awardを受賞したのは、フランスに拠点を置くEnhancyです。Enhancy はAIを活用した中古品を商品として生まれ変わらせる画期的なソリューションを提供しています。EnhancyのAIを使用することで、撮影した商品の特徴を自動的に把握し、記事化、プロダクトシートも作成します。また価格を自動で設定した後、2分以内にインターネット上にアップロードが可能です。従来の方法と比べ、約10倍効率的にオンライン出品が可能になります。またAIによる高画質撮影や効果的なプロダクトシートにより売り上げは最大400%まで上昇した実績を持ちます。

出典:Enhancy

2. Carbonmaps

Carbon Maps - TechForRetail - The European tradeshow for innovative,  eco-friendly retail technologies
出典:Carbon Maps

Carbon Mapsは農業食品業界における環境フットプリントを計測し管理する初のプラットフォームです。環境フットプリントとは人間が行う消費活動が環境に対してどれくらいの負荷をかけているのかを数値化した一つの指標です。農業・食品業界は特に「温室効果ガスの放出」「森林伐採」「水不足」などの原因になりやすいため、迅速なアクションが求められています。Carbon Mapsのサービスを利用することで、食品や原材料農産物による環境へのインパクト計算とデータ収集を簡易化します。

出典:Carbon Maps

3. Ida

Ida - TechForRetail - The European exhibition of technological and  eco-responsible innovations for retail
出典:Ida

Idaは生鮮食品の発注を管理/最適化するためのソフトウェアを提供しています。AIを使用することによって発注担当者が生鮮食品を発注する際、最もロスが少なく利益が最大化できるように計算をしてくれます。CarrefourやNaturaliaなどの大手リテーラーにも導入されており、在庫過多による値下げを20~30%減少、また在庫不足の発生防止にも貢献しています。

出典:Ida

4. Holis

Holis - TechForRetail - The European trade fair for technological and  eco-responsible retail innovations
出典:Holis

Holisは企業が提供している商品が社会や環境に与える影響を数値化し、生産ライフサイクルを評価するパリ拠点のスタートアップです。HolisのSaaSプラットフォームは、UNESCOでの受賞歴もあり、欧州におけるLCAのフレームワークである European Product Environmental Footprint (PEF)やISO 14044に準拠し信頼性の高い評価を実現可能にしています。

出典:Holis

5. Allobrain

AlloBrain - TechForRetail - Europe's leading trade fair for technological  and eco-responsible retail innovations
出典:Allobrain

Allobrainは、生成AIを使用した音声分析によるCX(カスタマー・エクスペリエンス)向上を目指すスタートアップです。AlloIntelligenceはコンタクトセンターでの会話の要約、感情分析を行い、顧客に対するオペレーターの適切な行動をレコメンドします。またAlloReviewの活用によって会話を記録し分析をすることでマーケティング活動にも繋げることが可能。その他にもAlloBotを導入することで電話でのカスタマーサポートを自動化できるなど、様々な角度から業務効率化を図れます。

世界最大のスタートアップキャンパス「STATION F」に拠点を構えます。現在はパリ=シャルル・ド・ゴール空港を運営するADP Groupや、SNCF(フランス国有鉄道)など大手運送業界だけにとどまらず、Picardなどのリテーラーや保険、観光業界など数多くの企業に導入されています。

出典:Allobrain

おわりに

本記事は、欧州全域からリテール業界の最新トレンドが集う一大イベント「Tech for Retail」についてまとめました。様々なスタートアップや企業、団体がヨーロッパ各地から集うこのイベントは数多くの起業家や投資家、業界関係者にとって非常に有意義なものになったことでしょう。

本イベントはテーマが8つに分かれていたものの、どのテーマもAIを活用した業務効率化やデータ集積などが特に注目されていました。また、Startup Awardではファイナリストにノミネートされた5社が全てAIスタートアップで、さらにそれぞれの特性を活かして顧客企業の経済的成長だけではなく、環境や社会に対して良い影響を与えることが出来るかどうかも、評価の対象となっていたのではないかと感じます。

パネルディスカッションでも言及されていましたが、今後はAIを用いた新技術を使いこなし、いかに環境や社会にインパクトを与えられるかが、欧州でのビジネスシーンにおいて鍵となってくるでしょう。

また、この大規模イベントでは、リテール分野に従事する参加者の交流が促されるだけでなく、アワードを受賞した企業やスタートアップが主にフランスに拠点を置いていることからも、フランス政府がスタートアップ・エコシステムを積極的に支援している様子が伺えます。数多くの優秀なスタートアップを生み出すフランスのエコシステムは、今後もさらなる発展を遂げていくことが期待されます。


投稿者:Ray Watabe

上智大学国際教養学部を卒業し、International Business and Economicsを専攻。香港とニュージーランドでの多文化的背景を基に、インキュベーターサークルや投資サークルを設立。学生時代にスタートアップへの関心を深める。LVMHのStudent Ambassadorや、TEDxSophiaUniversityのオーガナイザーとしても活躍。高校からのフランス語の習得経験を活かし、大学卒業後はフランスに拠点を移す。現地で日仏ビジネスの架け橋としての役目を担うべく、その理念に賛同するRouteXに入社。


今後もRouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。

RouteXは、
海外の先進事例 × 自社のWill による事業開発の高速化
によって、事業会社における効率的な事業開発を実現します。

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