はじめに
突然ですが皆さんは世界をより良い場所にするために、GreenTechが注目されていることをご存知ですか?
GreenTechとは持続可能な社会の実現のための、資源や環境に配慮した技術のことで、世界的に急速に成長を遂げています。特に、フランスのGreenTechエコシステムは著しい成長を遂げています。
Business France によると、GreenTechに注力しているフランスの企業数は、2020年の800社から2022年には1,800社以上に倍増し、ヨーロッパ内で4番目に大きいGreenTechエコシステムとなりました。これらのスタートアップは、新エネルギー、グリーン産業、生態系保全、環境移行など、多岐にわたるセクターが挙げられます。2021年には、これらの企業は年間30億ユーロの収益を生み出しており、フランス国内で60,000以上の雇用を創出しました。さらに、フランスのGreenTechスタートアップは2021年に16億ユーロ以上の投資を受けており、大規模な資金調達に支えられています。また、2022年にはEcovadisとNW Groupというフランス初のGreenTechのユニコーン企業が誕生しました。フランス政府は、2030年までに25のGreenTechユニコーンを育てるという目標を立てています。
フランス政府による支援策は、この成長の重要な推進力となっています。特筆すべきは、グリーン工業促進法案による新しい税額控除の導入で、2030年までに200億ユーロの民間投資を生み出し、数万の新しい雇用を創出することが期待されています。この法案により、主に風力・太陽光発電、ヒートポンプ、バッテリーへの投資が生まれています。
エマニュエル・マクロン大統領は、特に米国のインフレ抑制法への対応として、環境に優しい技術への投資を行うことが重要だと指摘しています。さらに、フランスはヨーロッパ製の新しい電気自動車の購入に対するインセンティブを導入しました。この政策は、持続可能で強固な国内GreenTech産業を育てるというフランスの強い意志を示しているでしょう。
日本でも、カーボンニュートラルへの意識が高まる中で、新しい環境技術への投資が増加しています。エネルギー消費の効率化や低炭素社会への移行を促進するために、日本のスタートアップは、IoTやAIなどのデジタル技術を積極的に取り入れています。しかし、これらの進展にもかかわらず、日本のGreenTechエコシステムはまだ課題に直面しているのが現状です。例えば、「Global CleanTech 100」レポートによると、革新的なクリーンテクノロジーを持つ100社の中に日本企業は含まれていません。これは、グローバルなGreenTech市場での日本の存在感が薄いことを示し、同セクターでのさらなる注力と発展が必要であることを示唆しています。
グローバルな視点に立つと、GreenTech領域では、新技術の迅速な普及とエコシステム間における協力の必要性が唱えられています。タイムリーにネットゼロを達成するには、現在はまだ発展途上の直接空気回収技術などの新技術開発が不可欠です。気候変動という解決すべき課題を抱えるGreenTechは、スピード感を持って技術開発や技術展開することが求められており、各エコシステムはそれを期待されています。
またフランスのGreenTechエコシステムに関わることは、日本の企業にとって多くの利点をもたらすでしょう。具体的には、成長中の市場へ容易にアクセスできるようになったり、新技術を持つ企業との交流や協力の機会を得られたり、新たな消費者トレンドへの洞察などを得れることが挙げられます。日仏間で連携をすることで、日本のGreenTechのグローバルなプレゼンスを高め、より幅広い持続可能な開発目標への貢献につながるでしょう。
今回我々RouteXが参加したMeet’Up GreenTech イベントは、フランスの急成長しているGreenTechエコシステムへの理解を深める格好の機会でした。このイベントは、特に持続可能な開発とイノベーションに関心を持つ人々にとって関連性が高く、GreenTechセクターの最新トレンドや政策、技術革新が集結していました。スタートアップ、投資家、政府関係者が揃って参加するこのイベントはGreenTech分野におけるネットワーキングだけではなく、知識を共有したり協力関係や投資の可能性を探ったりする上で重要なプラットフォームとなっています。
本レポートでは、Meet’Up GreenTech イベントの概要と注目のスタートアップをご紹介します。
Meet’Up GreenTech概要
Meet’Up GreenTech 2023イベントは、フランスの環境連帯移行省(les ministères de la Transition écologique, la Cohésion des territoires)とエネルギー移行省(la Transition énergétique)主催の下、ECOLABによって推進されました。このイベントはGreenTechにおいて重要なイベントであり、11月7日と8日にパリのSTATION Fで開催されました。2,500人以上が参加し、スタートアップ、中小企業、大企業、地域コミュニティ、研究者、投資家等が一堂に会しました。このイベントの目的は、エコロジカルプランニング(生態系、地形、気象などの自然環境を乱さないように、均衡バランスを保ちながら行うという考え方)の課題に対応する様々なソリューションを発見し、「France Nation Verte(フランス、緑の国家)」を推進することです。
このイベントの運営を行っているECOLABは、フランスの環境連帯移行省(les ministères de la Transition écologique, la Cohésion des territoires)とエネルギー移行省(la Transition énergétique)に設立されたイノベーションラボです。主な目的は、公共データを活用し、持続可能な開発とデジタル変革の二つの課題に対する革新的なソリューションを提供することです。ECOLABは省内の様々な部署と協力し、持続可能な開発、エネルギーと気候、交通インフラ、リスク予防など幅広い分野に貢献しています。
ECOLABの取り組みには、持続可能な開発のための公共・民間データの生産と利用の促進、省のデータ戦略の推進、広範なエコシステム内でのオープンイノベーションの活性化などが含まれます。これには、研究機関、大企業、インキュベーター、スタートアップ、中小企業、投資家、運営者、地方自治体と地域当局など、多様なステークホルダーとの協力があるようです。
ECOLABは、データとイノベーションを活用して持続可能な開発のためのプロジェクトを促進することに焦点を当てており、経済的・社会的モデルの再構築や、環境への影響の減少、持続可能な開発の促進を目指すフランスにおいて重要な役割を担っています。
このイベントには、現在の持続可能な開発についてのカンファレンス、ビジネスミーティング、投資ラウンドによって分けられたスタートアップのピッチイベントなど、様々な活動が行われました。70以上のブースが並び、フランス全土の9地域から来た32社の最新のGreenTechソリューションが展示されていました。また、このイベントには、フランスおよびヨーロッパのコミュニティが自分たちのエコロジカルトランジションのニーズを表明するというユニークなセッションも含まれており、持続可能な調達(自社の調達プロセスや調達に関する意思決定に際し、企業の社会的責任(CSR)の原則に適合する形で調達活動を進めるようにすること)と地域のエコロジカルトランジションを加速するためのパートナーシップを結ぶ場も提供されていました。
Meet’Up GreenTechイベントは著名なGreenTech関連の組織とパートナーシップを組んでおり、La French Tech、ADEME、Agence de l’innovation pour les transports、Bpifrance、Afnorなどのブースを当日見ることができました。実際に見学するとGreenTechエコシステムへの関心の高まりと、国に先導された集団的な取り組みの熱意が感じられます。多様なステークホルダーが集まるこのイベントは、持続可能で革新的な未来へ取り組みを促進するフランスの広範なエコシステムを反映していると言って過言ではないでしょう。
パートナーの一例をあげると、Meet’Up GreenTechで重要なパートナーのうちの一つであるBpifranceが環境連帯移行省と共同で設立したLe COQ VERTがあります。このコミュニティの目的は、起業家の間での専門知識の共有を促進し、持続可能なイノベーションのための協力的な環境を育成することです。「éclaireurs」と呼ばれるLe COQ VERTのメンバーは、エコロジカルトランジションの重要性やコミュニティの活動について積極的に広めています。
開会の挨拶では、Jean-Noël Barrot デジタル移行・電気通信担当大臣が、国内の人々と組織の協力を加速し、技術開発を促進することの重要性を強調しました。また、フランスは単なるスタートアップ国家ではなく、DeepTechおよびGreenTechのリーダーであるべきだと説いており、革新的で持続可能な技術やエコシステムを育成するフランスの意欲が、強く伝わってきました。
以下は、イベントに参加した団体が取り組む分野のリストです。
- 持続可能な食料と農業:持続可能な農業と食品生産を支援
- 持続可能な建物と都市:エコフレンドリーな都市計画と建築設計の開発
- 産業の脱炭素化:産業プロセスにおける炭素排出量の削減戦略
- 水、生物多様性とバイオミメティックス:水資源、生物多様性の保全、自然に触発されたイノベーションを強調
- 循環型経済:廃棄物を最小限に抑えるためのリサイクルと再利用の促進
- 再生可能エネルギーと脱炭素エネルギー:カーボンフットプリントを減少させるための再生可能エネルギー源の使用を強調
- 持続可能な金融とCSR(企業の社会的責任):持続可能性に焦点を当てた金融戦略と企業方針
- リスク管理:環境リスクの特定と軽減
- 海洋イノベーションと海洋生態系の保存:海洋環境の保護のための海洋技術の進歩
- 持続可能な移動性:環境に優しい交通ソリューションの開発
- エコ・レスポンしビリティあるデジタルテクノロジー:デジタル分野における持続可能な実践
- 環境保健:環境要因に関連する健康問題への対応
注目の企業
EP Tender
フランスのポワシーを拠点とするEP Tenderは、電気自動車(EV)分野で事業を展開する企業です。この会社は、ポワシー地域のビジネスエコシステムが持つ多様な技術や知識を生かし、EVユーザーが長距離を快適に移動できるようサポートしています。EP Tenderのチームは、機械設計、電気システムの開発と統合、制御アルゴリズムの設計、コーディング、さらにはレンタルプラットフォームとネットワークの管理など、幅広い分野に力を入れています。また、顧客の車両に追加充電インターフェースを設置することも得意としています。
EP Tenderは、電気自動車用のコンパクトなエネルギーモジュールを製造することでGreenTechに大きく貢献しています。EVオーナーが共通して抱える問題点であるEVの限られた走行距離を伸ばしつつ、環境にプラスの影響を与えることを目標としています。
2012年に設立されたEP TenderはEV用の航続距離延長サービスを提供することで、都市部での粒子状物質や窒素酸化物(NOx)排出の削減に積極的に貢献しています。それにより持続可能な開発目標の達成にも貢献しています。彼らのサービスは、バッテリーサイズを適度に保ち、人体への毒性や光化学酸化物への影響を減少させています。そうすることで、消費者にとってEVをより魅力的かつ手頃な価格にすると同時に、航続距離を必要に応じて延ばしています。
TchaoMegot
TchaoMegotは、GreenTechの廃棄物管理の分野で活躍しているフランスのスタートアップです。このスタートアップは、一般的ながらもしばしば見過ごされがちな環境汚染物質であるタバコの吸い殻の収集から無害化、そしてエコロジカルなリサイクルに特化しています。2019年に設立されたTchaoMegotは、水や有害な製品を使用せずにタバコの残留物を有益な素材に変換する独自のプロセスを開発しました。このプロセスが革新的な理由としては、タバコのフィルターに使われるセルロースアセテートを貴重な素材に転換できる点です。
リサイクルされたタバコの吸い殻はエコデザイン素材として生まれ変わり、持続可能な活用に役立っています。これらの素材は、建築の断熱材やテキスタイル製造などに使用され、さまざまな用途で使えることから実用的かつ環境に配慮した廃棄物利用の一例として注目を集めています。
フランスにおけるイノベーションでは、TchaoMegotはタバコの吸い殻をエコロジカルに無害化する分野でのパイオニアです。フランス本土の総人口の3割以上が喫煙者であることを考えると、この課題について考えることは非常に重要だと言えるでしょう。このような取り組みはフランスでは初めてのものであり、特殊な廃棄物の流れに対応し、環境に優しく商業的にも実行可能な解決策を提供しています。TchaoMegotのリサイクルと廃棄物管理のアプローチは、環境汚染の削減に貢献するだけでなく、新しい持続可能な素材の開発を促進し、フランスのGreenTechセクターを牽引するプレイヤーになっていくのではないでしょうか
Mube
Mubeは、環境の持続可能性と都市緑化に焦点を当てたスタートアップです。同社の主要なイノベーションは、都市や町の空気を冷やし、浄化することを目的とした電柱のような「緑の柱(Green Column」の設計にあります。これらの柱は、実用的な都市設備でありながら生きた緑の構造体としての二重の機能を持ちます。最小限の床面積を使用し、少ない水で360°の方向に多くの植物を垂直に育てることができる設計は、密集した都市地域において限られた地上スペースに緑の空間を提供するソリューションです。さらに、空気を冷やし浄化する主要な機能を超え、これらの柱はスマートシティの機器をシームレスに統合できる設計となっており、アンテナ、カメラ、センサー、照明など様々な技術をサポートすることができます。
GreenTechへの貢献において、Mubeの技術は特に「水の効率性」で際立っています。Mubeが開発した柱は、従来の方法に比べて50〜70%少ない水を使用しながら、都市環境に緑の空間を創出します。これにより都市のランドマークに緑の美学を加えるだけでなく、持続可能な都市開発をサポートします。Mubeのユニークで革新的な技術は、水の消費を削減し、都市の生物多様性を向上させ、都市の空気質を改善することでGreenTechとして世界規模で活躍しています。
Mubeは、フランスのテクノロジーおよびスタートアップのエコシステムにおいても目立っており、フランスとヨーロッパに44の拠点を持つアクセラレーターLe Village by CAによってサポートされています。さらに、最高責任者であるRomain Bourdaisが率いるMubeのチームは、Greater Paris MetropolisとParis&Coが立ち上げた「Quartiers Métropolitains d’Innovation」プログラムで賞を受賞しました。この賞が、Mubeがフランスにおける都市の緑の空間と持続可能性のイノベーションを推進する役割を強調し、フランスのGreenTech分野における重要なプレイヤーとしての地位を確立しています。
最後に
Meet’Up GreenTech イベントに参加し、フランスがグローバルな規模でのGreenTechの中心地として成長していることが伝わってきました。さまざまなステークホルダーを一堂に会させたこのイベントは、積極的な政府政策と大規模な投資に支えられたフランスのGreenTechエコシステムが、持続可能なイノベーションのための強固な基盤を築いていることを浮き彫りにしました。
日本の企業にとって、フランスのGreenTech市場は技術的進歩の前線に立っている地域として、国際的な拡大とパートナーシップの機会があるのではないでしょうか。
RouteXではこれからもスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります!
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投稿者:Ray Watabe
上智大学国際教養学部を卒業し、International Business and Economicsを専攻。香港とニュージーランドでの多文化的背景を基に、インキュベーターサークルや投資サークルを設立。学生時代にスタートアップへの関心を深める。LVMHのStudent Ambassadorや、TEDxSophiaUniversityのオーガナイザーとしても活躍。高校からのフランス語の習得経験を活かし、大学卒業後はフランスに拠点を移す。現地で日仏ビジネスの架け橋としての役目を担うべく、その理念に賛同するRouteXに入社。
今後もRouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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