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記事一覧 > フランスの化粧品産業集積地 Cosmetic Valleyから現地トレンドレポート

はじめに

近年、テクノロジーの進化と消費者の変化するニーズの中で、ビューティー産業は革命的な変化を遂げてきました。

2021年には、主要七カ国であるアメリカ、中国、日本、韓国、イギリス、ドイツ、フランスにおいて、BeautyTechの収益が約38億ドルに達しています。そして、この数字は2026年には89億ドルに達すると予想されています。BeautyTechは、AI、AR、持続可能な技術などの最先端技術を活用して、消費者に新しい体験を提供し、業界全体の持続可能性と効率性を高めています。

StatistaのBeautyTechのデータによると、この市場の発展は、伝統的な美容市場におけるBeautyTechのシェアを、2021年の1.8%から2026年には3.1%に増加させると見込まれています。

これらのデータから、BeautyTech市場はまだ新しいとはいえ、その成長の速度と可能性を明確に示しています。今後の技術の進展とともに、この市場は更なる拡大を遂げることが期待されるでしょう。

フランス、世界の美容とファッションの中心地として知られる国では、この変化が特に顕著に見られます。

このレポートでは、フランスのBeautyTech市場の現状と将来の展望、エコシステムの主要なステークホルダー、オープンイノベーションの成功例などに焦点を当てています。フランスのBeautyTechのトレンドや動向を理解することで、市場参入や戦略策定、さらには消費者との関係構築に役立つ情報を提供することを目的としています。

フランスの美容市場

世界の美容企業のランキングを観察すると、フランスとアメリカの企業が上位を独占していることが明らかです。特に、フランスのL’Orealが売上高410億ドルで首位を堅持しており、その規模は第二位の企業と比較しても圧倒的な差を持っています。一方、日本の代表的な美容ブランドである資生堂は、このランキングにおいて7位という位置付けになっています。

またフランスの化粧品市場シェアは2021年から2026年にかけて24.8億ドルに拡大し、市場の成長の勢いはCAGR(年平均成長率)3.27%で加速すると予想されています。

このような状況からも、フランスが美容産業において世界をリードする存在であることが確認されます。同時に、アメリカと日本もその後を追い、グローバルな市場での競争が続いています。

化粧品・トイレタリー企業連合(FEBEA)の2022年のデータを見ると、フランスの化粧品業界は€15億の貿易黒字を達成し、航空宇宙産業やワイン&スピリッツ産業に次ぐ外国貿易の大きな貢献者となっています。

さらに2023年の初めの5ヶ月間、フランスの化粧品業界は目覚ましい進展を遂げています。FEBEAによれば、輸出は前年同期比で15.6%増の€8.6億に成長しました。

これらの情報から、フランスが化粧品と美容技術の分野でのグローバルなリーダーとしての位置を強化していることがお分かりいただけるでしょう。

フランスのBeautyTechにおけるステークホルダー

そんなフランスにとって重要な美容産業を語るに当たって欠かせないのがシャルトル市です。シャルトルはパリから電車で1時間ほどでの小さな街ですが、なんとフランス最大級の化粧品産業集積地であるCosmetic Valleyが拠点を構えています。世界最大手のL’Orealから数々の中小企業が存在するフランスですが、それらを先導し街全体が美容産業支援に力を入れているのがCosmetic Valleyです。

実はCosmetic Valleyは日本とも交流があるのはご存知でしたか? 2013年に佐賀の唐津市がCosmetic Valleyと連携協定を結び、佐賀県唐津市及び玄海町を日本初の化粧品産業の集積地とするプロジェクト「唐津コスメティック構想」を開始しました。Cosmetic Valleyを手本とし、化粧品原料の開発によるる農林水産業の活性化、グローバル展開支援などを推進し、国際的クラスターの創造を目指しています。また、その構想を推進するために産学官連携組織「ジャパン・コスメティックセンター」が設立されました。

今回、我々RouteXはフランスの美容産業に欠かせない場所であるシャルトル市を訪れ、BeautyTech  Ecosystemの発展に尽力している組織や活動についてお話を伺ってきました。

弊社撮影

Cosmetic Valley (コスメティックバレー)

Cosmetic Valley — Wikipédia
出典:Wikipedia

Cosmetic Valleyは、フランスのコスメティック業界の競争力を向上させることを目的としたビジネスクラスターであり、その名の通り、美容と化粧品産業の中心地としての役割を果たしています。1994年に設立され、その後、世界の化粧品産業のリーダーとしてのフランスの地位を確立するための中心的役割を果たしてきました。

また、今年1月にCosmetic Valleyはイル=ド=フランス地域との戦略的パートナーシップを結成しています。この協定は、パリ地域にある化粧品企業間のネットワークを構築・強化し、国際的に拡大するための支援を目指しています。

弊社撮影

エコシステム上の役割

Cosmetic Valleyは、フランス全体での研究、イノベーション、生産活動の促進を支援しています。この組織は、研究機関、企業、教育機関との協力を通じて、新しい製品や技術の開発を後押ししています。さらに、国際的なビジネスネットワークの形成を支援し、フランスのビューティー産業の国際的な影響力を高めるためのさまざまなイニシアティブを主導しています。

背景と起源

1970年代から、多くの著名な化粧品・香水ブランドとその供給業者(主に中小企業)がパリから南に1時間の地域に工場を設立し始めました。次第にこの地域は工業の中心地として成長しました。

その後、Jean-Luc Anselを中心としたいくつかの起業家が地元の企業間の協力を促進し、短期的な連携で共同して作業を進めることを望んだため、1994年には地方自治体の支援の下で、Jean-Paul Guerlainを初代会長として、シャルトルに企業間の協力を支援する協会が設立されました。

1996年、この協会は香港の展示会でグループ展示ブースを出展することにより、中小企業の大規模な輸出を支援しました。この動きは、「美容産業のシリコンバレー」とも言える独自の取り組みとして、企業間の結束を強固なものとしました。これらをきっかけに、国際的な”Made In France”の代名詞として「Cosmetic Valley France」というブランドが認知されるようになります。そのロゴは美しさの象徴とされる牡丹が選ばれています。

2005年、Cosmetic Valleyは公式に競争力のあるクラスターとして認定され、研究と教育を戦略の中心に位置づけるようになりました。協会は公共の研究所と企業間の協力プロジェクトを推進し、産業のニーズに適合した教育の提供を促進し、化粧品研究の認識が高まりました。

2014年、フランス政府や地方自治体からの要請を受けて、Cosmetic Valleyは国内エコシステムを調整する役割を担い、世界のリーダーとしての地位を築き上げていきます。この働きかけにより、アクションプランの着実な遂行や国内外でのネットワークの拡大、ヌーヴェル=アキテーヌ地域やノルマンディー地域でのCosmetic Valleyオフィスの開設が進められていきます。

2016年には、5大陸での化粧品製造業者協会の設立を支援した後、企業の国際的な展開を支援するためにパートナーと共にGlobal Cosmetics Clusterを立ち上げました。

そして、きたる2028年には、シャルトルに「Maison Internationale de la Cosmétique」がオープン予定です。これは、業界の企業と地域をつなぐための場所として提供されるもので、アイディアやスキル、人材の交流に適した場所となることが期待されています。一般の人々も、”Made In France”の卓越性や業界の革新、新しいトレンドを体感することができる場所となるでしょう。

教育と研修

Cosmetic Valleyは多くの教育や研修プログラムを提供しており、業界の専門家や起業家が最新の技術や市場動向を理解する手助けをしています。ここでは例として、Beauty Hubをご紹介します。

Beauty Hub

Beauty Hub - Cosmetic Valley
引用:Beauty Hub

2020年、Cosmetic Valley内で開始された「Beauty Hub」は、美容業界の新しい製品やサービスを展開する企業やスタートアップを対象に、市場での拡大と成長をサポートすることに特化したプラットフォームです。実はこれは “Maison Internationale de la cosmétique” というプロジェクトの一部です。

弊社撮影

このプログラムの目標は、市場の課題に対する革新的なアプローチの探求に取り組み、「イノベーション」「安全」「環境」を柱として化粧品と香水市場における「Made In France」のブランド力を強化することです。主にスタートアップと業界の主要プレイヤーを巻き込み、競争させるためのクラスターです。

弊社撮影

主な提供内容は、Beauty Fab(技術研究所)、Beauty Exp(3Dプリンターなどを備えプロトタイプを製作できる場所)、Beauty Up(スタートアップ向けの9ヶ月のサポートプログラム)の3つです。

Beauty Upは以下のような特徴があります。

  • 共同作業スペースでの仕事環境(デスク、インターネット、プリンター完備)で、刺激的な環境と人脈形成が可能
  • 専門的なメンター(起業と化粧品に関する知識を持つ)との定期的なミーティング
  • Beauty Hubの創設者や化粧品業界の専門家との交流の機会
  • 化粧品業界のエキスパートによる研修やワークショップ
  • 革新的なテーマに関連する活動やイベントへの参加
  • 製品のテストや実験ができる施設へのアクセス
  • 最新の製造機器のデモや説明会
  • 投資家への最終的なプレゼンテーションの機会

最終的なVCなどの投資家を交えたピッチが成功すれば、資金調達のチャンスを得ることができます。

2020年の創設から現在までに合計25社ものスタートアップがアクセラレーションプログラムに参加しています。今回お話を伺ったBeauty Hubの責任者である Aline LANDIER氏に、BeautyHubでアクセラレートされた特に注目すべきフランスのイノベーティブなスタートアップをいくつか教えていただきました。


1. Emova

EMOVA - Pôle Images & Réseaux さん

Emovaは、化粧品だけではなくジュエリー、ファッションアクセサリー、衣服などの製品に対する仮想試着体験を向上させるためのリアルなデジタルツインを作成するソリューションを開発しています。

一般的な拡張現実と異なり、スマートフォン上での不十分な追跡やリアルさに欠ける3Dレンダリングといった問題を回避しています。Emovaは、ユーザーの顔と髪型を含む精巧なアバターを作成するためにユーザーの頭部の写真3枚だけを必要とし、アンリアルエンジンを使用することでフォトリアルな3Dアバターレンダリングを行っています。このプロセスは1〜2分で完了し、クラウドで処理された後、ユーザーのデバイスにストリーミングされます。

Emova はアバター作成にメタヒューマンを使用せず、Silo.AIと共同開発したデータベースから自動的に髪型をマッチングする独自のシステムを持っています。また、異なるウェブサイト間で同じアバターを使用するためのAPIも提供しています。現在は頭部だけにとどまらず、手や全身アバターを作りだす技術の開発に取り組んでいるそうです。

2. Alpha Chitin

ALPHA CHITIN producer chitin - chitosan - oligosaccharide producer

Alpha Chitinはフランスに拠点を置く化学会社で、キチン、キトサン、オリゴ糖の生産に特化しています。異なるバイオリソース、例えば昆虫、オキアミ、そして菌類からこれらの化合物を抽出し精製しています。ヌーヴェル・アキテーヌ地方のラックにある彼らの生産施設は、このセクターでのリーダーシップを目指す彼らの大きな投資を表しています。

この会社の強みは、高品質で再現性の高いオリゴ糖の生産にあります。これは、製品の分子量を調整し制御する特殊なプロセスを通じて達成されており、キトサン分子のほとんどの特性を保持しています。BeautyTech業界においては、ブラックソルジャーフライの幼虫や菌類などのバイオリソースから得られる、化粧品用途に適したキトサン製品を提供しており、これらの製品は高い純度と調整可能な分子量を持っており、さまざまな化粧品用途に適応可能です。

BeautyTechセクターに加えて、Alpha Chitinの製品はアグリフードや環境分野でも応用されています。彼らのキトサンはワインの浄化、食品グレードのバイオフィルム、テキスタイルの応用、種子の包装、水の浄化に使用されたりもしています。

3. Cosmecode

Cosmecode - Crunchbase Company Profile & Funding

Cosmecodeは、2020年にフランスで設立された企業であり、BeautyTech業界において重要な役割を担っています。同社の主な焦点は、美容分野におけるパーソナライズされたアドバイスをデジタル化することで、市場ニーズに応え、一人一人に適したビューティープロダクトの推薦を実現しています。特に注目すべきは、デジタルシェードファインダーという革新的な機能で、このツールを使用することでユーザーは数クリックで任意のブランドの最適なファンデーション色を見つけることができます。こちらの機能は、人工ニューラルネットワークという技術を使用して、ユーザーの肌の色をアルゴリズムでモデリングしています。

Cosmecodeのチームは、皮膚化粧品、開発、薬学、バイオインフォマティクス、UXデザインの分野の専門家で構成されています。この多様な専門知識を活かし、ビューティーおよびオンラインセールス部門におけるソリューションを開発しています。美容製品とデジタル技術の交差点における深い理解を示し、消費者にとっての製品関連性を高めると同時に、オンラインショッピング体験の向上を目指しています。

特に、E-コマースにおいてCosmecodeの技術的ソリューションは美容業界に大きな影響を与えています。これらのデジタルツールを導入することで、企業は顧客の購入プロセス中の不安を軽減し、コンバージョンレートを向上させ、利益性を高めることができます。同社は、シェードファインダーでのアンダートーン分類にディープラーニングを使用する科学に基づいた最初のソリューションを提供しており、光の影響を考慮に入れたコンピュータビジョンソリューションの開発にも取り組んでいます。これらの進歩は、より正確な製品レコメンドを通じて消費者に利益をもたらすだけでなく、企業が顧客獲得コストを削減し、購入後の満足度を向上させるのにも役立っています。

4. Sealester

Sealester – Paris Packaging Week

Sealesterはフランスに本社を置く企業で、フレキシブルパッケージングに特化しています。通常のパッケージングとは異なり、同社は持続可能で革新的な代替品の開発と生産に力を入れています。Sealesterの専門知識は、独自のフレキシブルパッケージングコンセプトを生み出す特許技術のデジタルシーリングに集約されています。この技術は多様な素材や形状に対応し、迅速なプロトタイピングと小〜中規模のバッチ生産を可能にします。美容・ケア市場では、大量生産が常に必要ではないため、このデザインと生産の柔軟性が大きな利点となります。

Sealesterの拠点であるラ・フェルテ・ベルナールは、Le Mans InnovationやRéseau Entreprendreといった地元組織の支援や、この立地により、顧客やパートナーへの戦略的なアクセスが可能になります。

Sealesterは、持続可能で柔軟、かつ革新的なパッケージングソリューションを提供することにより、BeautyTech業界への重要な貢献をしています。これは、美容およびパーソナルケアセクターにおける環境に優しいパッケージングへの需要の高まりと合致しているでしょう。

5. Oden

Oden, la cosmétique naturelle aux huiles végétales françaises

Odenは、フランスのコスメブランドで、100%自然由来の製品をフランス国内で栽培された植物だけを使用して生産していますこれらの油は100%フランス産で、フランス各地の農家とのパートナーシップを通じて開発されています。Odenの製品は地元で栽培・加工されており、持続可能性と自然資源の使用に対するブランドのコミットを強調しています。

Odenの美容製品へのアプローチは、「持続可能な調達」と「天然成分」への着目が特徴です。フランスの特定の地域で季節ごとに収穫される果物や野菜を使用し、地産地消を行うことがその地域の環境への影響に最適な対策であると考えています。

ブランドの油は高品質で、その純度と加工は有益な特性を保持する上で重要です。創設者のマリオン・ウェーバー氏は、良質な油の特性(色、匂い、粘度)を理解することの重要性を強調し、その効果を保証しています。Odenの製品はオーガニック認証されていませんが、品質と製造方法はオーガニック基準に合致しており、認証がないのは小規模ブランドにとっての高いコストが関係していると思われます。Odenは最初に7種類の油をラインナップし、その後製品ラインを拡大し、最近ではメイク落とし油も追加されました。BeautyTech業界において、Odenは自然で持続可能な製品を提供するだけでなく、地域に配慮した生産モデルを推進しています。


イベント開催/イノベーション推進

Cosmtetic Valleyは毎年、国際的な化粧品産業の展示会やセミナー、交流会を開催し、国内外の専門家や企業とのネットワーキングの場を提供しています。

特に毎年 Cosmetic 360 という化粧品産業のイノベーションとトレンドを集めた国際的なイベントも主催しており、美容業界の最新イノベーションやサービスの探究を目的としています。

Salon COSMETIC 360 : la Région Île-de-France et Systematic créent un espace  “Deep Tech for Industry”
出典:COSMETIC 360

つい先日行われたCosmetics 360には我々Route Xも参加してきましたので、イベントの詳細はこちらのURLからご確認ください!

Beauty Tech #Chartres

Beauty Tech Chartresは、化粧品業界におけるエコシステムであり、企業、スタートアップ、投資家、関係機関、学生などが一緒になって、未来の美容を創造しています。

Beauty Tech Chartresは以下のような活動を展開しています。

 1.La Fabrique de la beauté

シャルトルにある「Le 101 – La Cité de l’innovation」内に設けられた初の美容業界専門のインキュベーター、「La Fabrique de la beauté」は、革新を目指すプロジェクトやスタートアップに特化したサポートを行います。この活動は、Cosmetic Valleyがその主要なサポーターとして参画しており、上述した「Beauty Hub」というアクセラレータープログラムと連携しています。

2.不動産の提供

シャルトル・メトロポールは、総面積1,100ヘクタールの敷地内に30のビジネスパークを有しています。(現在は約100ヘクタールが使用可能です)これにより、手工業から工業、物流、サービス業向けのビジネスパークまで、様々な種類の土地や商業用不動産が提供されています。また、この地域はサントル・ヴァル・ド・ロワールの主要8地域の中で最も広い400ヘクタールの新しいビジネス用地を持ち、今後の発展性がフランス国内で最も見込まれています。

2021年までの計画で、成熟期を迎えた革新的な企業向けの施設がLa Cité de l’innovationにて開発されています。また、この地域で活動する企業は、La Cité de l’innovationのコミュニティやサービス(例えば、会議、ワークショップ、交流イベント、ハッカソンなど)を利用することができるようになります。

3.オープンイノベーションの取り組み

LVMHの記事でも触れていますが、オープンイノベーションとは、一般的に以下の概念を指します。

“ 企業内部と外部のアイディアを有機的に結合させ、価値を創造すること ”、であり、①組織の外部で生み出された知識を社内の経営資源と戦略的に組み合わせることと、②社内で活用されていない経営資源を社外で活用することにより、イノベー ションを創出すること、の両方を指す

出典:Henry Chesbrough 著、大前恵一郎訳『OPEN INNOVATION ハーバード流イノベーショ ン戦略のすべて』、「一橋ビジネスレビュー オープンイノベーションの衝撃」(東洋経済新報社)2012 年 9 月

つまり、「自社だけで全てを完結させるのではなく、他社や大学など、周りを巻き込んでイノベーションを創り出していくこと」です。

より具体的には、事業における足りない補完として、業務提携や買収をすること、社内では出ないアイデアの補完として、ビジネスコンテストやハッカソンを開くこともオープンイノベーションの具体的な推進事例です。

・L’OREAL Beauty Tech Atelier 

Les lauréats de 'Beauty Tech For Good Challenge'
出典:L’OREAL

​L’Oréal Beauty Tech Atelierのプログラムでは、選ばれたスタートアップに戦略的なメンタリングや運営サポートを提供しています。プログラムは無料で、パリ以外の地域に拠点を置く起業家もオンラインで参加可能です。また、参加者はSTATION Fのネットワークや専門家とのミーティング、法律アドバイスなどのサポートを受けることができ、L’Oréalの文化や組織的な課題の解決のための専門的な知識も提供されます。さらに、HEC Parisのインキュベーターとの提携により、700人以上の専門家ネットワークにアクセスすることができます。

プログラムへの参加を希望するスタートアップは、技術や新しいビジネスモデルを活用して顧客に新しい美容体験を提供することを目的としている必要があり、特に、デジタルサービス、Eコマースとソーシャル、データとAI、インパクト、メタバースとWeb3の分野が注目されています。参加するスタートアップは、事業の立ち上げ段階にあり、短期間での成長を目指していることが求められます。

事例:L’Oreal x IMPACT+

デジタルエコシステム(相互に接続された企業や製品のネットワーク)は、2025年までに全世界のCO2排出量の8%を占めると予測されており、この数値は航空や自動車の排出量と同等です。

L’orealは、そのデジタルメディアキャンペーンの環境への影響を深刻に受け止め、この問題への取り組みを強化しています。その一環として、L’orealはフランス発のスタートアップ企業であり、47ヵ国でサービスを展開しているIMPACT+と提携しました。この提携によるオープンイノベーションの取り組みは、デジタルメディア活動、特にソーシャルメディアや、プログラマティック・バイイングを通じてのGHG(温室効果ガス)排出量の測定を実現しています。そして、このデータを基に、排出を削減する方策を策定し、その効果を継続的にモニタリングしています。

このように、L’orealとIMPACT+の協力によるオープンイノベーションの取り組みは、デジタルメディアキャンペーンの環境負荷を最小限にしようという先進的な動きを体現しています。

・Beauty Tech Chartres: La Cité de l’innovation

Beauty Tech ChartresのLa Cité de l’innovationは現代のイノベーションの新しい流れに則って、オープンイノベーションを推進しています。従来の研究開発のラボの秘密の世界だけでなく、集団の知恵、すなわち「集団的知性」を最大限に活用してイノベーションを推進する時代に移行しています。このアプローチは、多様性と協力を尊重し、組織内のスタッフや外部のスタートアップなどとの共同プロジェクトを通じて、新しい製品やサービスのイノベーションを生み出すものです。

Beauty Tech Chartresでは、La Cité de l’Innovationでのワークショップやテーマに基づくイベントを通じて、企業やスタートアップが集まり、共同で新しいアイディアやプロジェクトを検討します。これにより、ビューティー産業全体が再定義され、競争優位性を向上させることができるのです。

日本とフランスのオープンイノベーションの可能性

フランスのBeautyTech市場において、日本独自のテクノロジーがもたらすイノベーションの可能性は大いに注目されるべきです。例として、本レポートで紹介した、現在BeautyHubが注目しているスタートアップとの協業可能性について考えていきましょう。

まず、Emovaのデジタルツインとアバター技術に目を向けると、日本のARとVR技術の応用が考えられるのではないでしょうか。日本はアニメーションとゲーム産業でのAR/VR技術の進歩が著しく、この高度な技術をEmovaのアバター作成プロセスに組み込むことで、よりリアルで表現力豊かなデジタルツインの開発が可能になるでしょう。

また、Cosmecodeにおけるデジタル化されたパーソナライズド化粧品アドバイスの領域では、日本の化粧品業界におけるAIの活用が有益でしょう。日本技術の一例として大手化粧品メーカーのオルビスは、スマートフォンで顔を撮影することで、顔に含まれている水分量などの肌の状態をスキャンし、自動測定する技術を提供しています。このような技術をCosmecodeと共同で開発することによって、市場の多様なニーズに対応する高度なソリューションの開発が期待できます。

フランスの美容業界では、持続可能性が重要なトピックとなっており、消費者は環境に優しい製品を求めています。日本の企業は、生分解性のある材料技術において世界をリードしているため、フランスのSealesterとの共同で、環境負荷の低い包装材を開発することが可能かもしれません。例えば、植物由来の材料や再利用可能なデザインを取り入れた包装は、フランス市場において好評を得る可能性があります。

最後に、Odenの100%自然由来の製品に関しては、日本の化粧品業界の天然素材と地域資源の活用への取り組みがヒントになると考えられます。自然素材を利用した製品開発が活発な日本独自のアプローチは、Odenがより効果的でユニークな自然由来製品を開発するための貴重なインスピレーションを提供できるのではないでしょうか。また、生物多様性の保全への配慮は、使用する植物の種類や採取方法において重要な要素となります。このアプローチをOdenの製品開発に適用することで、多様な地域素材を活用し、地域経済にも貢献する新しい製品を発見できるのではないでしょうか。

おわりに

BeautyTech市場の未来とは:

フランスは長い間、ビューティーと化粧品の分野でのリーダーとして知られていますが、BeautyTechという新しい革命の波がやってきています。グローバルなトレンドからの学びを基に、フランスのBeautyTech業界もデジタル化とイノベーションの影響をさらに受けることが予想されます。特に、Cosmetics Valleyとパリ地域との戦略的な提携は、このセクターの研究開発が加速していることを示しています。

近年のBeautyTech業界は、大規模データの統合やAIの採用により、急速に進化しています。この動きは、物理的な製品とデジタル技術が融合する「Phygital」体験の増加、仮想空間「メタバース」でのアバター美容の重要性、AR/VRによるリアルな製品試着体験等々といったトレンドを生み出しています。またメタバースの急速な進展とともに、デジタル化粧品の新たな領域が登場する可能性も否定できません。

フランスは、ビューティー産業の歴史的背景と持続可能性への強い関心を加速するべく、国内のエコシステムを発展させています。フランスの化粧品産業は、既に高い品質と独自性で世界的に知られていますが、この強みを日本の強みと組み合わせることで、新しい時代のさらなる消費者のニーズに応えることができるでしょう。


投稿者:Ray Watabe

上智大学国際教養学部を卒業し、International Business and Economicsを専攻。香港とニュージーランドでの多文化的背景を基に、インキュベーターサークルや投資サークルを設立。学生時代にスタートアップへの関心を深める。LVMHのStudent Ambassadorや、TEDxSophiaUniversityのオーガナイザーとしても活躍。高校からのフランス語の習得経験を活かし、大学卒業後はフランスに拠点を移す。現地で日仏ビジネスの架け橋としての役目を担うべく、その理念に賛同するRouteXに入社。


今後もRouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。

RouteXは、
海外の先進事例 × 自社のWill による事業開発の高速化
によって、事業会社における効率的な事業開発を実現します。

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