2023年10月18日及び19日の2日間に渡って、フランスのパリ中心部、ルーブル美術館に隣接するCARROUSEL DU LOUVRE PARISにて、化粧品及び香水業界に関わる大企業やスタートアップ、有識者が集う欧州最大規模のイベントCOSMETIC 360が開催されました。今回、弊社RouteX Inc. はMEDIA PASSを取得し現地イベントに参加してきたため、イベントの概要及び最新スタートアップトレンドについてお伝えします。
COSMETIC 360とは?
COSMETIC 360は、化粧品及び香水業界の持続可能な取り組みを目的としたカンファレンスで、2015年から毎年開催されています。原材料から配合、パッケージングや流通に至るまでバリューチェーン全体に渡る新しいイノベーション技術について共有すべく、世界各国の企業や研究所が集います。
2023年度の参加者は全体で5,000人ほどで、業界のCEOやR&D担当者、マーケティング担当者などが47%を占めました。参加企業数は全体250社で、内30%はフランス以外の企業で計70ヶ国、スタートアップは40社が参加しました。主催者であるCOSMETIC VALLEYは、フランスの化粧品業界の競争力向上を目的としたビジネスクラスターとして、COSMETIC 360をはじめ様々な場面で国際的な新しい製品や技術の開発を後押ししています。COSMETIC VALLEYを含むフランスのビューティーテックにおけるステークホルダーや、後述するBeauty Tech #Chartresについては、下記の記事で詳細にまとめているので、ご参照頂ければと思います。
COSMETIC 360の他の特徴としては、化粧品及び香水業界だけでなく、これらの業界での応用可能性を秘めた、食品やデジタル、3Dプリンティングなど他の分野のソリューションが紹介されたり、CHANELやL’Oréal、LVMH、P&B Groupなどの主要企業によるオープンイノベーションミーティングが開催されているため、業界内外のステークホルダーの動向も追うことができます。また、カンファレンス自体が「廃棄物ゼロ」「ネット・ゼロ・カーボン(指定された期間にわたって、人為的排出量が人為的二酸化炭素除去によってバランスがとれている状態)」「積極的な社会的野心」を目標として掲げており、サステナビリティへの意識の高さが強く表れています。
イベント会場の様子
イベント会場に入るとすぐに広がるのは、多くの企業による展示ブースです。ここでは、各企業が自社の概要を記載したパネルを掲げており、参加者は関心のある企業と意見交換をすることができます。各企業はそれぞれ環境問題に配慮した製品や新技術を用いた製品について展示をしており、どのブースにも参加者が多く集まるような熱狂ぶりでした。
出典:公式HP
例えばこちらのGK Conceptは、センサーやARなど幅広いテクノロジーを用いて顧客にユニークで魅力的なショッピング体験を提供するスタートアップですが、イベントでは、香水から高保湿剤まであらゆる化粧品を非接触で吐出できるコンパクトなデバイスが展示されており、参加者はこのデバイスを実際に体験することができました。CARTIEやL’Orealなど数多くのクライアント企業を有し急成長しているスタートアップの独自のデバイスを体験できるというのは、COSMETIC 360だからこそと言えるでしょう。
また、COSMETIC 360の最後には、全出展企業のイノベーションの可能性やマーケティングの資質について、専門の報道機関のメンバーで構成される審査員によって評価され、各部門の優勝企業はCOSMETIC 360 Awardsという賞を受賞されます。先述のGK Conceptも2022年度のBrand & Retail部門における受賞企業でした。
今年は、バリューチェーンを6つに分けた各カテゴリーと、全カテゴリー内で最もクリーンテックにおいて優れたイノベーションに対し表彰される審査員特別賞を加えた7つの企業が受賞されました。以下では簡単に各企業についてご紹介します。
「原材料」カテゴリー:Bioweg
Biowegは、非分解性という問題がありつつも従来パウダーに使われていたマイクロプラスチックやアクリルポリマーの代わりに、セルロースを発酵させることで得られる機能性成分を開発しています。化粧品用の製品だけでなく、食品用に植物由来のハイドロコロイド(液状食品の分散性、乳化性、安定性を改善するための添加物)も開発しています。
「配合と製造」カテゴリー:Technature
Technatureは、大手美容ブランドや美容センター(研究所、スパなど)をクライアントに持ち、オーダーメイドの化粧品の作成に特化しています。クライアント企業に特化した化粧品の配合、製造、パッケージングのほか、世界中でのマーケティングに関する規制についても熟知しています。今年は、丈夫で持ち運びが簡単な固形スティック状だが洗い流すと乳液に変化するという温感クレンジングケア製品の配合について評価されました。
「テストと分析」カテゴリー:SGS Proderm
SGS Prodermは、化粧品の科学的有効性の証明と、化粧品ガイドラインに従った皮膚耐性テストを提供する企業です。今年は、皮膚のアンチエイジング研究において先進的なイメージング技術を使用した、アンチエイジング製品の効果、特にコラーゲンへの影響の分析について評価されました。
「包装と梱包」カテゴリー:DWS Engraving
DWS Engravingは、商品のガラス面や革製品へのカラーレーザー彫刻の技術を提供する企業です。小売店でも簡単に販売員が使えるようなユニークでコンパクトなレーザー彫刻機を用いることで、様々な製品やアクセサリーをパーソナライズし顧客体験を向上することができます。
「ブランドと流通」カテゴリー:Diva Flora
Diva Floraは、化粧品の容器としてプラスチックを用いず、堆肥化可能な植物由来(麻をベース)かつ、天然由来のワックスで気密性を確保し品質を維持できる新容器を開発したスキンケアブランドです。配送方法も環境に配慮しており、二酸化炭素排出量の低い輸送方法(鉄道、相乗り、カーゴバイク)を優先して採用しています。
「化粧品業界向けサービス」カテゴリー:SFE Process
SFE Processは、超臨界CO2(気体と液体の中間の特性を持ち、損傷や変性をほとんど起こさずに化合物を抽出することができる)を使用しエッセンシャルオイルを抽出する装置を開発します。従来の石油化学溶剤による抽出とは異なり、抽出物に毒性を持つ汚染物質が混ざらないため、従来の方法よりも抽出が効率的で環境に優しいものになります。
審査員特別賞「クリーンテックフェイバリット」
:Intact Regenerative
Intact Regenerativeは、オルレアン近くのボース平野で輪作栽培されたマメ科植物をベースにした再生農業により、低炭素香料アルコールを製造するためのソリューションを提供します。これらの作物は窒素の自然供給を通じて土壌を豊かにしながら、耕作回数を抑えることができます。また、アルコールの製造には、従来のプロセスに比べてCO2排出量が3分の1となる低炭素発酵技術が使用されています。これにより、人間の食料として適した25%の植物性タンパク質と、香水製造に使える65%の中性アルコールが生産されます。
次に、こちらはスタートアップ専門スペースとなります。この専門スペースは、Beauty Tech #Chartres内の様々な専門家とスタートアップが交流する空間にもなっているため、相互の共同イノベーションの促進を目的としています。フランスのメトロを模した入り口を入ると、各社のイノベーションの発表を見ることができます。写真に写っているのは、化粧品廃棄物や浴室での使い捨てプラスチック包装を減らし、消費者の消費習慣を変えるような未来のスキンケアブランドを掲げるOANE社です。CEOであるSandrine Lecointe氏はフランスのビジネススクールであるHEC Parisを卒業しており、HEC Parisが重きを置くサステナビリティとアントレプレナーシップを体現した人とも言えます。なお、HEC Parisによるスタートアップ支援については、下記の記事で詳細にまとめているので、ご参照頂ければと思います。
次にこちらは、化粧品及び香水業界におけるクリーンテックについて業界人たちが登壇するCLEANTECH Conference Programです。今年は①消費者トレンド、②持続可能な包装、③産業の脱炭素化、④石油化学に代わるバイオベースの成分をメインテーマとしており、2日間で約30名が登壇しました。プラスチックの代替品や、過剰生産による無駄の削減のためのAIテクノロジーなど、業界の脱炭素化に貢献する取り組みやベストプラクティスが共有されていました。
最後に、ELROEL K-BEAUTY TRENDSETTERという、韓国ブランドのELROELによるプログラムを紹介します。ELROELは、美容業界で30年の経験を持つ韓国のメイクアップアーティスト「YOO」が開発したビューティーブランドです。このプログラムでは、「YOO」によるメイクアップショーを鑑賞し、本物のK-BEAUTY TRENDをもたらすELROELの様々な製品を試すことができます。
ここで注目すべきなのは、一般的なブースでの展示とは異なり、COSMETIC 360における必見プログラムと称されるほどの、ビューティーテックにおける韓国の存在の大きさです。実際に、今回のイベントの出展企業として日本からは0社だったのに対し、韓国からは21社も出展していたことからも、韓国のビューティーテックの発展具合が伺えます。
いかがでしょうか。
本記事では、化粧品及び香水業界の一大カンファレンスであるCOSMETIC 360についてご紹介しました。今後、日本でも業界における環境問題への関心の高まりや、それに応えるイノベーションの創出が期待される中で、COSMETIC 360は世界の最新トレンドを把握することのできる重要な位置付けになるのではないでしょうか。
投稿者:柳原 至門
東京大学経済学部金融学科在学(-2024.3)。東京大学大学院農学生命科学研究科 農業・資源経済学専攻 進学予定(2024.4-)。国内VCのIncubate Fundやスタートアップ2社でのインターンシップ経験あり。「官民協働海外留学支援制度〜トビタテ!留学JAPAN日本代表プログラム〜」の第15期生として採択され、2023年9月より、フランスのビジネススクールHEC Parisへ交換留学。留学開始とともにRouteXでインターンシップを開始し、海外カンファレンスへの参加を通じ、海外スタートアップ及びインキュベーターの調査を担当。将来について、スタートアップを中心に行政側として制度設計に携わるか、民間側として投資及び事業支援に携わるかを検討中。
今後もRouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteXは、
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