フランスの農業支援プラットフォーム Agriconomieが大型調達
2022年11月、フランスを拠点とする農業資材電子商取引プラットフォーム(eコマース) Agriconomieが、Temasek、Aliment Capital、Eurazeoなど、欧米とアジアを代表する投資家よりシリーズBラウンドで総額60M€を調達した。
Agriconomieは、農業資材をオンラインで提供するeコマースプラットフォームを運営しており、農家が必要とする種子から肥料、農薬まで、幅広い商品を提供している。また、同社はAI技術を駆使し、気候変動によって変動する供給コストを予測し、農家が事前の予算編成を行えるように支援するサービスも展開している。これにより、農家はコスト削減と効率的な経営を実現することが可能となっている。
2014年の創業以来、Agriconomieは「農業資材のAmazon」をコンセプトに農業分野でのB向けeコマースを市場展開してきたが、この大型資金調達を通して、農業分野が直面している最も大きな問題である「気候変動への対策」という文脈が同社の評価を大きく押し上げているように見える。
そこで、この記事では
・電子商取引のパラダイムシフト
・生成系AI
という二つの観点から業界のトレンドを見ていきたい。
電子商取引の「面的展開」→「線的展開」への回帰と発展
これまでの電子商取引市場は、Amazonをはじめとする広告型eコマースプラットフォームが支配しており、消費者の需要を刺激し購買決定を促す「面的」な展開が主流であった。これは、消費者に無限の選択肢を提供し、多様な商品をアピールする手法であるが、大量生産・大量消費を促進する側面があり、環境に対する負担が大きいという問題点も抱えている。
一方で、気候変動と環境問題への意識の高まりを受け、カーボンニュートラルと持続可能性の追求が世界的なトレンドとなっている。特に農業分野は、気候変動の影響をダイレクトに受けるため、農家にとっては将来の経費や供給状況を正確に予測し、リスク管理を行うことが極めて重要である。
Agriconomieは、このトレンドに対応する形で、購買・消費の最適化を目指している。同社が提供するAIによる供給コストの予測サービスは、農家がより効率的かつ持続可能な経営を行えるよう支援している。これは面的展開から、購買体験以外の価値提供により特定の領域での電子商取引を提供する「線的」展開への回帰を象徴する動きと考えられるのではないだろうか。
生成系AIがトレンドシフトへの強い追い風となる
また、Agriconomieに代表される線的電子商取引の提供においては、目下トレンドとなっている生成系AIが将来的に付与されるサービスを想起させる。
同社は農業資材に特化することで、購買体験にコンサルティングや市場予測を付与したサービスを提供しているが、今後こうした事業者は顧客の生涯価値(LTV)を高めるためのコンサルティングサービスを提供する際、業界特化型の最適化されたAIを活用することで、より効果的かつ効率的なサービス提供が可能になるだろう。
特に、規制や気候変動のような外的要因に対処する必要のある農業分野において、生成系AIは個々の農家が抱える課題に対してカスタマイズされた解決策を提供できるようになるのではないだろうか。
またこれは、建設やエネルギー、自動車分野など他の領域でも類似したトレンドが想起されるため、B向け事業における購買活動の最適化と生成系AIの組み合わせについては今後もアンテナを張っておきたい。
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投稿者:塚尾 昌浩
2019年にRouteXに参画、COOとして創業期の事業開発を主導。ヨーロッパを中心とした世界各国のスタートアップ・エコシステムや先端技術を切り口としたイノベーション創出に関する知見に長け、事業開発やビジネスモデル構築をはじめとしたコンサルティングに強みをもつ。海外カンファレンスでの取材活動や外部講演、メンタリングの経験も豊富に有する。2022年12月に社内初の海外オフィスであるフランス支社の代表に就任。
前職では日産自動車株式会社にて電動車のバッテリ開発・プロジェクト推進業務に従事。
京都大学大学院工学研究科修了(化学)