日本からフランスに対するイメージとはどういうものであるだろうか。文化的な面で言えば、フランスはロマンチックな国で、美食やファッションの国として知られていることが多い。また、ニュースに目を移すと2023年の3月現在、年金に関する法改正(参考)に起因するデモの問題やスポーツ関連のニュースが多く見られるだろう。
1. フランス経済の現状
その中でフランスの経済はというと、JETROの調査によると実質GDP成長率は2021年で6.98%となり、COVID-19により全体的に失速したEU経済の中で2020年に△7.99%と減少した分を取り戻し、かなり活気が戻ってきている。
また2020年に実質GDP同様、COVID-19の世界的な拡大により跳ね戻ってしまった失業率も、COVID-19以前の状態に戻ってきており、経済的に大きく回復している。
2. ラ・フレンチテック動向とCleanTech
2021年に発表されたフランス政府による5年間で合計€52Bをスタートアップに投資するとした「France 2030」の計画も後押しして、スタートアップの資金調達が凄まじい速度で加速している。
そして、2013年フランス政府によるスタートアップ推進プロジェクト「La French Tech」によると€13.5B(約1兆9000億円)もの資金が2022年にフランスのスタートアップによって資金調達されている。日本のスタートアップへの投資額は2022年に8774億円となっているため、その規模の大きさが分かるだろう。
その€13.5Bという2022年の資金調達金額の中でCleanTech(GreenTech)投資の伸び率が前年比273%と大きく伸びている。フランス政府は現在、エネルギー転換に関する目標を掲げ、前述の「France 2030」にて€10Bを再生可能エネルギーに投資し、2050年までに再生可能エネルギーにより得られるエネルギー量を100GWを目標としていると発表している。
3.注目のCleanTech企業
ここで、CleanTech業界で現在注目されている企業を紹介したい。
Back Merket
Back Marketは2014年に設立され、現在リファービッシュ品のオンラインマーケットプレイスを提供している。2022年の6月にシリーズEの資金調達で$510Mを調達したことで、会社の評価額は$57Bとなり、現在フランスにある25社のユニコーンのうちの1社となっている。Back Marketにて販売されるリファービッシュ品とは、いわゆる「整備品」であり、メーカへ不良品として返品されたものや長期在庫やリースの返却品を含む中古品等を整備して新品同様の状態としたものになっている。
Circulerによると、2019年だけでも53.6百万トンの電子機器が廃棄され、そのうち17%しか適切にリサイクルされていない現状がある。BackMarketはまだ利用価値のある電子機器を再生したうえで、それらに2度目の人生を与えることによって、廃棄物の量やスマートフォン等に使用されるレアメタル等の希少資源の消費を減らすことを目標にしている。また、単純に再生品を販売するだけでなく、消費者の需要に対応するために、信頼性の高いベンダーのみを選定し商品を登録、商品が届かなかった場合や不良品の場合は返金保証、1年間の動作保証が設定されている。
現在、Back Marketは世界中で事業を展開しており、フランス、スペイン、イタリア、ドイツ、米国、英国、オランダ、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリア、スイス、ポーランドなどにオフィスを構えている。日本でもサービスを展開しており、SIMフリースマートフォンの購入を考えている人はBack Marketを利用してみるのは如何だろうか。
EKWateur
EKWateurは、2016年にフランスで設立された、風力、太陽光、水力等の再生可能エネルギーで得られたエネルギーを一般家庭に対して販売する電力会社である。同社は、現在の枯渇性エネルギーを元にした電力供給から、比較的安価に持続可能な再生エネルギーに切り替えを促進することを目的としており、太陽光や風力発電などの再生可能エネルギー源から得られた電力を販売することで、消費者と環境に持続的な選択肢を提供している。
欧州委員会(European Commission)の公表している資料によると、フランスは2030年までに温室効果ガスの排出を-36%し、2050年までにカーボンニュートラルな国家になる事を目標として掲げている。フランスのみならずEU諸国内でエネルギー問題が顕著となる中、再生可能エネルギー関連企業は今後更に需要が上がっていくと思われる。
現在EKWateurは、フランス全土で事業を展開しており、約150人以上のメンバーで運営されている。2022年5月にAster、Bouygues Telecom Initiatives、Quantum Pacific Capitalの3社のVCから計€30Mを調達しており、フランスの脱炭素化に貢献するとともに、組織としてもより大きくなっていくだろう。
NW
NW Groupは1998年にパリにて設立された企業である。日本国内においては所謂スタートアップの定義には当てはまらないが、「La French Tech NEXT 40」の一社となっており、元から行っていた太陽光パネル関連事業からEV充電スタンド及び屋外電力保管庫の設置業へ新しく事業展開をはたしている。また、同社は2022年6月に資金調達を行い、フランスでCleanTech業(同社Webサイトの言葉を借りれば、「エネルギー転換セクター」)における初めてのユニコーンとなるNW Stormを傘下とする。同社のサービスは電力保管庫であるJBox®、高出力の電気自動車充電サービスであるIECharge®、そして太陽光パネル設置業であるTiKaz®の3種類のプロダクトを保持している。
欧州委員会によれば、EU国内において2035年までに石油を使用する乗用車の販売を終了することを明言しており、EV充電スタンド設置関連のビジネスが現在フランスのみならずEU国家において急上昇している。LE CONNEXIONによるとフランスのマクロン大統領は2027年までに百万台、2030年までに2百万台の製造をフランス国内で計画しており、フランスの電力自動車の購入の際最低€5Kの支援金を支払うとしており、前述した2社の事業セクターでもあったように、国としての協力なバックアップが存在する。
NWは、現在500人以上の従業員を抱え、CleanTech企業として市場における競争力を高めている。フランスのマーケットには同様にEV関連のサービスを展開する企業も多く見られ、今後政府、VCによる多くの資金投入が想定される。
4.さいごに
今回紹介した企業は全て「La French Tech Next 40/120 2023」に選ばれた企業となっており、今後更にフランスを代表していくCleanTech企業となっていくだろう。
また、「France 2030」の目標である投資予定額は依然として残っており、EUのカーボンニュートラル化に向けた動きも相まって、CleanTech産業の注目度は今後更に加速していくとみられる。
今回は資金調達額が大きく増加したCleanTechを紹介したが、フランス市場においてFinTech企業、SaaS企業等も依然として資金調達が活発に行われており、目を外せない市場だ。
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