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記事一覧 > なぜ“M&A”できたのか?─日本のDeepTechスタートアップM&A事例から学ぶ戦略


第2章では、グローバル市場でのM&A構造と、DeepTechスタートアップが意識すべきEXITレディネスの要件について解説しました。本章では、実際に海外M&Aを果たした日本発DeepTechスタートアップの事例を取り上げ、そのプロセスや背景から得られる教訓を提示します。買収を引き寄せた戦略的な事業構築の工夫をもとに読み解いていきます。


海外企業にM&Aされた日本発DeepTechスタートアップの実例

事例1:OriCiro Genomics

OriCiro Genomics(オリシロ・ジェノミクス)は東京大学発の合成生物学スタートアップで、プラスミドDNAのセルフリー合成増幅技術という独自技術を保有していました。研究開発段階であった2023年1月、米Moderna社がOriCiroを約8,500万ドル(約116億円)で買収すると発表し、大きな話題となりました。これはModernaにとって初の大型技術買収であり、日本発DeepTechベンチャーがグローバル製薬企業に買われた象徴的な例です。

ModernaがOriCiroを買収した狙いは、同社の増幅技術によりワクチン・治療薬開発のDNAクローニング工程を数日から数時間へ短縮し、開発サイクル全体を加速させることにありました。Fierce Pharmaのインタビューでステファン・バンセルCEOは「OriCiroの技術は当社開発プロセスを飛躍的に加速するアップグレードだ」と言及しています。

このようにOriCiro事例は、Deeptechスタートアップが商業化前に巨額買収される典型例として、日本のスタートアップ関係者にも大きなインパクトを与えました。技術の優位性と知財、そしてそれを必要とする大企業とのマッチングが噛み合えば、売上ゼロ段階でも百億円規模のエグジットが可能であることを示しています。

事例2:SCHAFT

SCHAFT(シャフト)は2012年に東京大学JSK研究室からスピンオフしたヒューマノイドロボット開発スタートアップです。創業翌年の2013年末、米Google社がSCHAFTを極秘裏に買収しました。その直後に開催されたDARPA Robotics Challenge TrialsでSCHAFTのロボットは世界優勝を果たし、同社の技術力の高さを世界に示しました。

SCHAFT : DARPA Robotics Challenge 8 Tasks + Special Walking

当時Googleはロボティクス分野に相次いで投資・買収を行っており、SCHAFTはBoston Dynamicsと並ぶ注目ディールの一つでした。技術ポテンシャルと精鋭チーム自体の獲得を目的とした“人材・技術囲い込み型”M&Aとも言えます。

SCHAFTプロジェクトはその後Google内で方向転換を経て停止しましたが、商業化前に大型テック企業が技術と人材を先取りする典型例として引用価値が高い事例です。売り手にとっては巨額の研究開発資金とグローバルプラットフォームを手にする跳躍台となり得る点を示しました。本事例は、商業化前でもチーム・技術・ネットワークが連動することで大型テック企業による買収が成立したケースです。


まとめ ─ DeepTechスタートアップがM&Aを戦略に組み込むために

日本のDeepTechスタートアップ・エコシステムは変革期を迎えており、「技術の社会実装」を加速する手段として戦略的M&Aが現実味を帯びています。本章で取り上げた2事例はいずれも商業化前段階でのM&A成功という共通点を持ちますが、特に以下の3つの共通要因が浮かび上がります。

  • 技術・知財、そして人材という無形資産を磨き上げ独自性を確立すること。
  • 早期から出口戦略を意識し、資本政策や提携戦略に織り込むこと。
  • 大企業とのネットワークを構築し、自社価値を適切にアピールすること。

これらを意識したスタートアップは、単独では商業化が難しい深淵な技術であっても、大企業の力を借り飛躍的に事業を伸ばすチャンスを掴めます。研究開発型でもM&Aを前提とした成長戦略を描くことで、新たな勝ち筋が見えてくるはずです。

Deeptechスタートアップ経営に携わる方におかれましては、本記事で紹介したポイントと事例をヒントに、自社の状況に応じた最適な戦略検討の一助になれば幸いです。


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