2023年の9月に設立されたAIコンピューティング企業の「FlexAI」が、先日シードラウンドで$30M(約47.1億円)という巨額の調達を行いました。
今回はsiliconcanals.com様の記事を参考にしつつ、この企業が取り組む分野と、その特殊性について考察します。
AIコンピューティングがAI業界全体の発展に貢献
まずAIコンピューティングとは、機械学習アルゴリズムを実行する数学集約的な手順のことを指しており、ビッグデータを用いたAI開発にいては最も革新的なテクノロジーであるとされています。
FlexAIはフランスのパリに拠点を置く企業で、同社が提供するAIコンピューティングを利用できるクラウドサービスの商用化を加速させることを目的として、今回複数の著名なファンドから巨額の調達を行いました。FlexAIの時価総額は公開されていませんが、この調達額から、シードラウンドながら数百億円で評価されていることが想定されます。
FlexAIがこれほどまでに評価されているのは、超有名企業出身のCXOや役員によって起業されたからという単純な理由だけではありません。FlexAIのサービスは、異種プロセッサ(CPU、GPU等)を組み合わせて構築された仮想のコンピュータシステム(ヘテロジニアス・コンピューティング)を用いて、クラウド上で、さまざまなアーキテクチャを用いたAIモデルの構築を可能にしています。
もう少しわかりやすく説明すると、一つのパソコンでは演算能力に限界がある一方、複数のプロセッサを利用するには高い専門性が求められる中で、FlexAIがこの部分を受け持つため、開発者はクラウド上で簡単に十分な量のコンピューティングリソースを確保しながらAIモデルの開発ができるということです。
これにより、現在のAI業界、とりわけAIコンピューティング業界が抱えている3つの課題―限定的なコンピューティング能力の供給、専門家の不足、AIモデル構築と展開のための複雑で信頼性の低いプロセス―の解決に貢献することができます。
ソリューション自体のインパクトの大きさも影響して、現在FlexAIはAMDやAWS、Google、Intel、NVIDIA等の名だたる企業と協力関係にあります。FlexAIは、事業拡大によってより多くの人がAIコンピューティングを利用できるようにし、AI業界全体のイノベーションを加速させることを目標としています。
パリのAIエコシステムは高い評価を得ている
同社は米国を中心とした企業に勤めていたメンバーが設立した会社ですが、なぜあえてフランスのパリを拠点として選択したのでしょうか。
この理由は、学術的な側面で科学的基盤があることに加えて、フランスのAI(スタートアップ・)エコシステムが活気に満ち溢れていることであると考えられます。
特にパリ・サクレーを中心とした政府主導のDeepTechエコシステム開発はこの一例であり、パリを囲むようにして作られた研究集積地のほとんどが、政府による開発や支援金によって形成されています。
さらに2018年にまでさかのぼると、当時のマクロン大統領によって発表された国家AI五か年戦略で、€1.5B(約2,500億円)がAI開発の研究費として充てられていました。2023年にも、フランス製AI開発のために開かれた“digital commons”への新たな資金調達を呼びかけ、民間投資家を中心に€40M(約66億円)を集めることフランス国内最大級のカンファレンスであるVivaTechで強調していました。
参考:European Commission “France AI Strategy Report“
そうした自発的な動きと同時に、外部環境も変化しています。近年までiPhone発売やSNS等、デジタル関係のイノベーションの中心地はアメリカ一強でしたが、ChatGPTの登場により、その流れも変わりつつあります。ChatGPTのようなGenAI(生成AI)の開発には潤沢な資本やスキル、イノベーションが求められるため、エコシステム全体の基盤の強さが生成AIの質に影響し、さらに後発でもLLM(大規模言語モデル)を広めることは十分に可能であるとされています。
今やフランス・スタートアップのブランドとなったLa French Techを中心に、スタートアップ・エコシステムの強化を図る中で、フランス政府は人材の育成にも力を入れています。AI領域の修士レベルの卒業生の数は2016年と比較して2倍以上に増えており、教育研究機関も増加しています。La French Techについてはこちらの記事も参照してください。
フランスのAIスタートアップ・エコシステム全体で見ると、2023年の4月に創業したオープンソースAI企業である「Mistral.ai」が特に目立った存在です。このスタートアップもパリに拠点を置いており、こちらはシリーズAラウンド時点ですでに€550M(約905億円)を調達しています。
フランスには人材・資金・技術等の面でAIスタートアップ・エコシステムを支えるリソースが豊富にあるため、今後もAI関連のスタートアップが台頭してくることが期待されます。
参考記事:FlexAI, founded by ex-Apple, Intel, NVIDIA, Tesla veterans, launches with €28.5M Seed funding
いかがでしたでしょうか?
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投稿者:近藤 碧
京都大学経済学部経済経営学科在学(-2025.3)。ゼミではスタートアップの経営戦略に関するリサーチ・研究に取り組んでいる。2023年9月より、京都大学大学間学生交流協定に基づく交換留学生としてKoç Universityに派遣され、半年間トルコのイスタンブールに滞在した。2022年よりRouteXでインターンシップを開始し、業界リサーチから海外スタートアップの日本進出支援まで幅広い案件を担当。趣味は愛車のバイク(S1000RR ‘21)に乗ることであり、他大学のバイク部にも加入している。
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