skip to Main Content

はじめに

皆さんは、「オーバーシュートデー(Overshoot Day)」を御存知でしょうか。
これは、国際シンクタンク「グローバル・フットプリント・ネットワーク(GFN)」が毎年発表しているもので、一言で表すと、【私たちの資源消費量が、地球が一年間で再生可能な量を上回ってしまう日】のことを指しています。
例えば、皆さんの財布の中には1か月分の生活費1万円が入っています。月終わりに近づくと残高が減っていき、20日目にはついに1万円を使い切ったためクレジットカードを使わなければならなくなりました。つまり残り10日間は借金をする形で過ごさねばならないのです。
このクレジットカードを使い始めた日、それがオーバーシュートデーです。オーバーシュートデー以降私たちは地球に資源を借金する形で生活していくことになります。
去年の地球全体のオーバーシュートデー(Earth Overshoot Day)は8月22日でした。
オーバーシュートデーは国別で見ることもできます。

引用:Earth Overshoot Day

今年2021年のロシアのオーバーシュートデーは4月17日です。
この日付は、もしも世界中の人々が現在ロシアに住んでいる人々のように資源を使っていると、地球全体のオーバーシュートデーがこの日になってしまう、ということを表しています。実際には、広大な土地に内包される豊富な資源のおかげで、ロシア国内のバイオキャパシティはプラスの状態を維持しています。しかし、やはりロシアでの生活は環境にとってかなり破壊的であり、環境問題を誘発する様式であることは事実でしょう。
そこで今回は、ロシアが抱えている環境問題とその対策、そしてロシアにおける環境問題に積極的に関わっている企業を簡単にご紹介します。

ロシアの環境問題

大国ソ連の後継者という看板を背負いながら経済発展を進めているロシアは、日本を含めた他国と同様に多くの環境問題を抱えています。例えば大気汚染については、2019年2月にケメロボで石炭を含んだ「黒い雪」が降り、8月にクラスノヤルスクが大気汚染世界ランキングで第1位となりました。さらに2020年にはロックダウン解除後に大気汚染が加速し、年初から9か月間で大気汚染排出量が2019年の3倍に増加しました。
(参照:AFP BB News「大気汚染で「黒い雪」、石炭処理工場を一時閉鎖 ロシア・シベリア」Sputnik 日本「2020年におけるロシアの大気汚染 過去16年間の記録を塗り替える」

水質汚染に関する課題もあります。2020年10月にはカムチャッカ地方の海岸で多数の海洋生物の死骸が発見され、環境保護団体Greenpeace Russiaは化学物質による海洋汚染の可能性を指摘しました。ただ、これについては有害も類の大量発生が原因だと推測する専門家もいます。しかし、工業化の発展の速度に比べて汚水処理や工場排水の浄化技術が遅れていることは以前から指摘され、未だに課題であると認識されています。
(参照:NATIONAL GEOGPAHIC「カムチャツカの海に異変、ウニやヒトデ大量死」

ごみ問題についてはどうでしょうか。
モスクワではごみの分別収集が2020年から義務付けられましたが、ロシアに住んだことがある人は誰もが知っているように、ソ連時代を含めたそれ以前は可燃・不燃・リサイクルなどを区別せずに、廃棄物の9割が埋め立てられていました。埋立地からは硫化水素などの猛毒を含む化学物質が拡散したり、違法処分場が各地に立てられるなど問題が頻繁に起こっており、地元市民からの抗議の声が高まっていました。政策の遅れだけではなく、国民自身のごみ問題に対する意識の差もこの問題を長引かせる原因になっています。

両画像とも、引用:infoorel.ru

SDGsに対してのロシアの施策

では、山積する環境問題に対してロシアはどのように対応しているのでしょうか。環境問題もSDGsの一つだと思うので、ここでは環境問題を参考に、ロシアのSDGsに対する姿勢について見ていきたいと思います。
プーチン大統領は2020年11月に温室効果ガス排出量削減に関する大統領令に署名しました。地球温暖化による永久凍土の融解や周辺海域の生態系の変化については大統領自身も承知しており、京都議定書やパリ協定に署名をするなど国際交渉に参加しています。また、国外・国内問わず環境問題への意識の高まりが認められたために、毎年恒例の「国民との会話」でもごみ問題に対応することを約束せざるを得なくなりました。

引用:РБК-Путин поручил сократить выброс парниковых газов в России

政府は2018年に国家プロジェクトとして「環境」を発足しましたが、ジェトロの報告によると、2019年に公表された国家事業概要では「大部分を民間資金などの外部資金に依存することが想定されており、制度次第では民間資金が呼びこまれず、目標実現が困難になる可能性がある」と指摘されています。

最近日本では、海洋プラスチックについてのニュースが増えてきました。
ロシアでも、プラごみ問題への関心が高まっています。環境破壊と健康被害という環境・社会両面でごみ問題が大きく取り上げられるようになったことで、ロシアで外国の政府や企業と協力を望む姿勢が見受けられます。
実は、バルト海などに漂流するプラごみ量の増加に警鐘が鳴らされる一方で、国内ではプラスチック処理に関する環境配慮基準が設けられていません。そのため、プラごみについて日本政府・企業がもつノウハウの共有や、環境対策技術やごみの処理・活用技術全般にロシア政府が強い関心を示しています。
その一方で、2020年7月にはバイカル湖周辺の森林伐採を可能にする法律が成立するなど経済発展を優先する政策が進行し、環境保護団体から批判を受けていることも事実です。

環境問題に積極的に関わっているロシア企業

上記の通り、ごみ問題に国として取り組む必要性が出たことでロシアの外郭団体が動き出しています。

ロシア国家企業のロステフ(Ростехは、政府系金融機関のVEB.RFから提供される資金でごみ処理による発電プラントを設置することを2019年に表明しました。効率的な焼却施設が完成すれば埋立地の拡大抑止や発電施設の増設に繋がります。
ロシア大手小売りチェーンのマグニト(Магнитは、2019年6月に一部地域の自社グループ店舗にてアルミ缶やペットボトルの回収機を試験的に設置しました。リサイクル可能なごみを投入すると割引クーポンが発行される仕組みを導入しており、消費者のサービス利用を促進させる工夫が施されています。

環境問題の解決に取り組むロシアのスタートアップ企業も注目されるようになってきました。
その一つであるUbiratorは、リサイクル可能なごみを企業から回収し、処理施設まで運搬するサービスを行っています。回収する製品は段ボール、紙類、ポリエチレン、ペットボトルの4つで、リーズナブルな価格で迅速なサービスを実現しています。

ちなみに、CEOのニキータ・ニキーシキン氏は、モスクワ物理工科大学卒で、スコルコヴォでUbiratorの前に起業経験もある人物です。COOであるセルゲイ・カリトフ氏は、カワサキモータースのロシア支店で開発ディレクターを務めていたので、少し日本とのご縁を感じますね。

引用:Ubirator公式HP

最近はロシアでもフードデリバリーの普及が進んでおり、それに伴って環境に優しい使い捨て容器やカトラリーの需要も増えました。(ロシアでのフードデリバリーに関する記事はこちら
その中で、ロシアのスタートアップGeovitaは、サトウキビやコーンスターチなどを原料にして生分解性且つ堆肥化可能な製品を製造、販売しています。

ロシア以外のSDGsを意識した海外スタートアップについてはこちらの記事をご参照ください。

考察や今後の予想

ごみ問題については、埋め立てや汚染問題のように政府や大きな組織による動きを必要とする課題がある一方で、資源の回収や分別を促すキャンペーンのように個々の企業や自治体で活動を展開できるものもあります。ロシアでも、日本や欧米諸国の資源循環システムを参考にしたサービスを導入することで、スーパーマーケットやコンビニエンスストアで回収できる資源の種類が増え、段々と分別意識が醸成されていくことが期待されます。部分的にでも分別収集やリサイクルの試みがサービスとして提供され、その成功例や課題を分析しながら改善を重ねていくことでより大きな活動が展開されることが予想されます。この面で、ロシアから日本に協力を呼びかけられることも今後増えると思われます。その際はぜひRouteX Inc.にお問合せください!

大気汚染については、世界的な脱炭素とCO2排出量の商業化がロシア企業のCO2排出量削減に繋がるのかが注目されます。温室効果ガスの削減には個人の生活様式よりも企業活動や国の方針が大きく影響するため、中長期的な戦略の中で各アクターがどのような目的を表明し活動していくかを定期的にチェックすることでロシアの姿勢がみえてくるのではないでしょうか。
環境に配慮したサービスを展開するスタートアップ企業は、環境に対する市民の関心をサービスに変える方法を提示したり、循環社会のミニモデルを提供することで、ロシア社会と自然環境の関係を変える先駆者になると思います。

投稿者:外山 夏帆
東京外国語大学ロシア地域専攻在学。
日露学生団体、大学公認サークルЛюбовьなど複数の団体に所属。
株式会社LikePayでのインターンを経験。
学業の傍ら大学公認の大使「TUFSアンバサダー」として広報活動を始めとした中高生と在校生を繋ぐ活動に従事。
また高校時代の留学経験を活かして英語講師のボランティア活動を実施中。

RouteX Inc.では毎年ロシアのスタートアップ・エコシステムの現地調査を行っており、首都モスクワ近郊に政府主導で開発が進むイノベーション都市スコルコボを中心としたスタートアップとの連携の強化に動いております。
今後はモスクワやスコルコボだけでなく、ロシアの他の都市へのリサーチへと活動も広げていく予定にしております。
これまでのロシアでの調査活動はこちらからご確認いただけます。

RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
RouteX Inc.との協業やパートナーシップにご興味のある皆様はお気軽にお問い合わせください。