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2021年4月、「ロシアのマーク・ザッカーバーグ」ことパヴェル・ドゥーロフ(Павел Дуров)の映画が公開されました。

画像引用:RFI
Trailer

Pavel Durov(パヴェル・ドゥーロフ)は、世界で月間5億人が利用するメッセンジャーアプリTelegram(テレグラム)やロシア版FacebookのВКонтакте(フコンタクテ)を開発したロシア人エンジニア・起業家です。この輝かしい経歴とは対照的に彼の素性については余り知られていません。

そこで今回は、ロシアが生んだ天才エンジニア、パヴェル・ドゥーロフの経歴と彼がサービスに対して抱くポリシーについてご紹介します。

パヴェル・ドゥーロフ(ロシア語表記:Павел Дуров)とは?

<略歴>
1984年、旧レニングラード(現サンクトペテルブルク)生まれ
幼少期はイタリア・トリノで生活する
2002年にサンクトペテルブルク大学言語学部に入学、専門は英語言語学・翻訳学
大学時代から優秀な成績を修め、ロシア政府・ロシア大統領から奨学金を獲得する
大学在学中にサンクトペテルブルク大学のオンラインサービスの立ち上げに参画する
大学の電子図書館や学生交流のプラットフォーム(ВКонтактеの原型)を構築した
2006年に大学を卒業すると同時に、有限会社ВКонтактеを設立
2013年にTelegramをローンチする

兄に数学者、物理学者、Webエンジニアのニコライ・ドゥーロフを持つ

略歴としてはこのような感じで、学生時代から優秀で起業家精神旺盛だったことが伺えますが、この間に起こったことなどを交えながら彼の人生を読み解いていきましょう。

ВКонтакте(フコンタクテ)の誕生

Facebookが、ハーバード生の交流プラットフォームとしてマーク・ザッカーバーグによって開発されたのは有名な話ですが、ロシア版Facebookと呼ばれるВКонтакте(フコンタクテ)も似たような開発ヒストリーを持っています。

ВКонтактеの誕生は2006年まで遡ります。
サンクトペテルブルク大学在学中に、ドゥーロフは「durov.com」という人文学専攻の学生が勉強に役立つ資料を交換できる場を構築しました。このサービスが学生に好評だったために今度はサービス対象をサンクトペテルブルク大学の学生全体に広げ、「spbgu.ru」を大学公認のサービスとしてリリースします。
このspbgu.ruには従来のニックネーム+アバターに加え、名前、写真、専攻分野を掲載でき、これが現在のВКонтактеの原型となります。
同年にドゥーロフが大学を卒業すると、そのまま有限会社ВКонтактеを設立し、現在のВКонтактеのサービスが開始されました。なおこの「ВКонтакте(フコンタクテ)」という名前は、ロシアの人気ラジオ局「モスクワのこだまЭхо Москвы(エハ・モスクワ)」のフレーズ «В полном контакте с информацией»(情報と完全にリンクする)に由来しています。

Telegramの誕生

こちらについては、「ロシア発祥のメッセンジャーアプリ Telegramの秘密を探る」に詳しく執筆されているので、是非お読みください。

強い目的意識と実行力の持ち主

ВКонтактеとTelegramは今でこそロシアを中心に世界で利用されるSNSに成長しましたが、ここまでの道のりは必ずしも順風満帆ではありませんでした。
例えばTelegramは、2017年にサンクトペテルブルクのテロで実行犯の連絡用に利用されたとしてロシア通信監督庁(Роскомнадзор)の検閲下に入ります。
この際ドゥーロフは、政府当局からのメッセージの公開要求を受け付けず、80万ルーブルの罰金を課されています。
その後2018年から2020年にかけて約2年間、サービス提供が禁止されました。

このような厳しい条件にも拘わらず、彼が自身が開発したSNSをここまで成長させた背景には彼の持つ「強い目的意識と実行力」が影響していると考えられます。

幼少期のドゥーロフを知る彼の教師や元クラスメートは次のように語ります。

―ドゥーロフは野心的な若者で、当時は私たちの誰とも意見が合いませんでした。また彼は自分が周りにどのように思われているかをよく気にしていました。

またビジネスマンとして深い親交を持つドミトリー・ミローノフは彼をこう振り返ります。

―彼は他人よりもよく勉強していましたし、より勉強したいと思っていました。学校の休み時間にたばこで一服したこともありません。ただ彼の優秀さは、学校の成績で満点を取るのとは違います。彼が優秀だと言えるのは、何か達成したいと思った時にその目的のためにあらゆる手段を取れることです。

彼の「目的のためならあらゆる手段を取る」という性格をよく表したエピソードがあります。

ある時ドゥーロフは学校でカンニングをしたことをクラスメイトにとがめられました。その際彼は、「全ての科目で優秀な成績を修めることが不可能な学校でメダルを獲得するという目標を立てており、その実現に向けて戦略的にカンニングを行なった」と述べました。
(出典:https://lenta.ru/articles/2021/04/23/durov/

TelegramやВКонтактеの運営にはドゥーロフのこうした性格が少なからず反映されているのではないでしょうか。

プライバシーへの強いこだわり

Telegramの最大の特徴は「高度なセキュリティ」です。前回の記事でもご紹介した通り、MTProtoと呼ばれる独自のプロトコルによりメッセージが全て暗号化され、送受信者を除く第三者は、例えシステム管理人であっても、メッセージを見ることができません。
このセキュリティへの高い意識は、ドゥーロフの個人的な性格にも関係しています。
ドゥーロフはプライバシーについて強烈な意識を向けており、その素性を身内であってもあまり大っぴらには明かしませんでした。

ドゥーロフのプライバシーへの警戒感が分かるエピソードとして次のような逸話があります。

―ドゥーロフはプライバシーに対して「病的な警戒感」を持っています。
 彼は卒業アルバムの写真を撮影することさえも拒みました。


―かつてドゥーロフが作ったSNSで働いていた人の中には、ドゥーロフは架空の人物か、シークレットサービスであると確信する者もいました。

―彼が開発したВКонтактеの開発者の項目には、「パヴェル・ドゥーロフ」の個人のページへ繋がるリンクがありましたが、いざ彼のページに飛んでみると、そこにはただアバターのみが映し出されており、それ以上の情報も写真も見つけることができませんでした。

(出典:https://lenta.ru/articles/2021/04/23/durov/

「広告には依存しない」ドゥーロフの強い意志と彼の現在

現在のドゥーロフの発言の中で最も注目を集めているのは、Telegramに関して発表した「広告排除宣言」だと思います。
2021年2月、ドゥーロフは”Why users shouldn’t worry about ads on Telegram”と題したメッセージを公式に発表し、

①Telegramの個人チャット、グループチャットにおいて広告を掲載させないこと
②Telegram上の個人データを、広告・マーケティング目的には利用させないこと
③既にTelegram上に存在する商用利用ユーザーを削除する
という3つのポリシーを宣言しました。

ではTelegramはどのように資金を調達しようとしたのか?
ドゥーロフはICO(Initial Coin Offerring) によって資金調達を行おうとしました。

TelegramのICOはTON(Telegram Open Network)と呼ばれる一連のプロジェクトの中で行なわれました。TONは高速、安全かつスケール性のあるネットワークの構築を目指したドゥーロフの大規模なブロックチェーンプラットフォーム事業です。
(出典:https://ton.org/ton.pdf

この中で独自の仮想通貨GRAMが発行され、2018年にプライベートセールで17億ドル(1850億円)の調達に成功しました。
ただし、このGRAMについては、米証券取引委員会(SEC)が未届けの有価証券であり、このままアメリカの金融市場に流入させることは証券法違反であるとしてICOに規制をかけようとしました。
(参考:https://www.sec.gov/news/press-release/2019-212

そして2021年にドゥーロフらTelegram側がSECに1850万ドル(約20億円)を支払い、またGRAM購入者に対して12億ドル(約1290億円)を返却することで和解し、TONプロジェクトの中止が発表されました。
(参考:https://telegra.ph/What-Was-TON-And-Why-It-Is-Over-05-12

現在は社債の発行によって資金調達を行なっており、2021年3月には10億ドルの資金調達に成功したと発表しています。
(参考:https://t.me/s/durov

一部報道によれば、Telegramが5年間のIPO前に発行した転換社債を売却し、MubadalaとAbu Dhabi Catalyst Partnersから1億5,000万ドルを受け取ったとのこと。
ただしそのほかの資金の調達元についてはまだ発表されていません。
(参考:Update: Telegram raises $1BN+, including $150M from Mubadala and Abu Dhabi CP via pre-IPO convertible bonds

ただいずれにせよ、ドゥーロフはTelegramの最終目標としてコンテンツクリエイターが「経済的な持続性」を持ち、かつ「自由な」戦略を採ることができるソーシャルネットワークを築くことに掲げており、既存の過度に情報収集を行い、またアルゴリズムを恣意的に操作できるソーシャルネットワークとの訣別を目指しています。

今後もドゥーロフの新たな挑戦は続きます。

ドゥーロフ本人のInstagramより

投稿者:穗原 充
東京大学大学院 総合文化研究科地域文化研究 専攻ロシア・東欧研究地域
大学でロシアの都市研究を行う。
同時にスタートアップの人材支援領域で約3年間長期インターンとして働く。
現在はロシアの宇宙開発、都市インフラを中心にリサーチ中。
好きなロシア料理はセリョードチカ(ニシンの塩漬け)のサラダ。

RouteX Inc.では毎年ロシアのスタートアップ・エコシステムの現地調査を行っており、首都モスクワ近郊に政府主導で開発が進むイノベーション都市スコルコボを中心としたスタートアップとの連携の強化に動いております。
また、今後はモスクワやスコルコボだけでなく、ロシアの他の都市へのリサーチへと活動も広げていく予定にしております。
これまでのロシアでの調査活動はこちらからご確認いただけます。

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