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記事一覧 > 旧ソ連諸国におけるスマートシティトレンド – ロシア –

皆さんは、旧ソ連諸国でスマートシティが発展していることをご存知でしょうか?
旧ソ連諸国とは、ロシアだけでなく、エストニア・ラトビア・リトアニアといったバルト三国、中央アジアの国々、ウクライナやベラルーシ等、ユーラシア大陸に広がっていた地域のことを指します。
これらの国は、1991年のソ連崩壊後から独自の経済成長を遂げてきています。

シンガポールのエデン・ストラテジー・インスティチュートが発表した「世界スマートシティー・ガバナンス・ランキング2020/2021」では、東京が世界ランク22位のところ、エストニアの首都タリンは12位、ロシアの首都モスクワは14位にランクインしています。

このランキングは、スマートシティ開発の重要な推進力である都市政府の役割に特に焦点を当て、ビジョン、リーダーシップ、人材の準備状況、効果的なスマートシティの資金調達と政策モデルなど、10の指標に基づいて都市を評価したものです。
つまり、ロシアやエストニアは、東京よりもスマートシティ政策としての評価が高いのです。

なぜこれらの地域でスマートシティが発展しているのでしょうか。
また、旧ソ連諸国のスマートシティ化とは具体的にどういったものでしょうか。

今回は、前編として、ロシアのスマートシティ政策をご紹介します!

国家主導でデジタル化を推進し「強いロシアの復活へ」

ロシアは世界最大の国土を有し、ソ連時代はアメリカと並ぶ超大国でした。
しかしソ連崩壊からプーチン大統領誕生までの約10年間は、ロシアにとって屈辱的なものでした。
国際社会はアメリカの独壇場となり、国内は汚職の蔓延や財政危機により経済は混乱し、1990 年代後半の実質GDPはソ連崩壊直前の水準の 6割程度まで落ち込み、かつての超大国の面影が薄れていました。
そこで2000年に誕生したプーチン大統領の掲げたスローガンは、「強いロシアの復活」でした。

経済面では、豊富な資源を持つロシアは石油・ガス産業によって復活を遂げます。原油と天然ガスが高かったことを背景に、1999年から2008年までロシアの実質GDPは10年連続のプラス成長を遂げました。
しかしリーマンショックによる原油相場の急落によってロシア経済の基盤に深い亀裂が生じ、資源に依存した経済が世界的な市況の変化に対して脆弱であることが明らかとなりました。
その結果、ロシアでは、石油、天然ガスなどの資源開発に依存する経済構造からの脱却、近代化と産業の多角化が不可欠であることが改めて認識されるようになりました。
そのため、ロシアは「デジタル経済化」を掲げ、IT産業に国を挙げて支援を推進しています。

さらに、ソ連崩壊により、それまでソ連で活躍していた優秀な理系人材が国外に流出してしまいました。高度人材の海外流出を防ぎ科学技術立国として再び台頭することを目的に、デジタル化の整備を進めていたという背景もあります。

また、ロシアはサイバーやデジタル空間でも国際プレゼンス強化を目指しています。
2017年には、プーチン大統領はロシアの教育機関での新学期スタートに寄せた講演で「AIを制すものが世界を制す」と語り、この講演は100万人を超す児童や生徒の視聴を想定して全土でテレビ放映されました。

未来の子供たちへAI開発を奨励し、2019年にはAI国家戦略プランが発表されました。
ロシアがAI技術において世界のリーダー的存在になることが国家戦略として認識されるようになったのです。

このようにロシアは、世界の覇権争いは20世紀までのような軍事力や経済力によるものから、今後はサイバー空間にシフトしていくと認識し、サイバー空間での国家安全保障を強化し、軍事プレゼンスの向上を狙っています。

つまり、ロシアにとってデジタル化は経済・安全保障上でも重要であり、国をあげてイノベーションを推進しているのです。

国家規模でイノベーション創出都市を推進

2006年3月10日付の連邦政府指令により、「ロシアにおけるハイテク分野のテクノパーク創設」が承認され、複数都市でテクノパークの創設が進められました。ロシア政府が公的資金で土地整備、建物の建設、インフラの整備を実施し、そこに企業が入居して、高度技術関連の事業を実施するというのが目的です。

また、首都モスクワ近郊に位置する「スコルコヴォ」では、ロシア政府がイノベーションを創出するためのエコシステムを都市として形成するという目的のために開発が進められています。

▼スコルコヴォについての記事はこちら

例えば、スコルコヴォとロシアのGoogleともいわれるYandex社共同プロジェクトで自動運転タクシーの実験実験が行われています。
スコルコヴォ内ではすでにサービスが開始されており、スコルコヴォの住民は、Yandex社のタクシー配車アプリ「Yandex Taxi」で自動運転タクシーを呼び無料で利用できます。
モルガン・スタンレーが2021年に発表した投資家向けレポートでは、Yandex社は世界の自動運転トップ5社に急浮上しました。

さらに、スコルコヴォ内ではYanex社の自律走行型配達ロボット「Yandex.Rover」が商業利用されており、スコルコヴォ市の行政機関に勤務する市の職員は、書類や小さな荷物の配達にこのロボットを利用できます。

このように、ロシアでは国を挙げてMaaSの実証実験などの開発が進められているのです。

世界で一番効率性が高い都市交通システム

2021年にマッキンゼーが発表した「世界25都市の都市交通システム」によると、交通効率の良さでは、モスクワが第1位に選ばれました。
効率性の指標は、都市をどれだけ速く、確実に移動できるかを示しており、モスクワの地下鉄の待ち時間や、バス専用レーンの割合が多いことが高い評価となりました。

さらに、交通機関のモバイルアプリケーションの開発や、ほぼすべての公共交通サービスでWi-Fiが利用できる点など、モスクワの電子サービスのレベルも高く評価されています。

モスクワ市が進めるMaaSサービス例

2021年5月、モスクワ市の交通局は新しいP2Pカーシェアリングサービス「Ruli」を発表しました。
Ruliは、自家用車のシェアリングサービスで、このサービスを使えば、友人や知人に自分の車を貸してお金を稼ぐことができます。
Ruliのアプリで車の貸し借りが可能であり、車が不要になったら、その旨をアプリ上に投稿し、連絡先リストに登録されている人たちへ通知が届き、アプリ内で借り手として登録申請ができるようになる仕組みです。

2020年、モスクワ市は、すべての市営交通機関と、民間交通機関の中でいくつかのサービスを統合し、タクシーや自転車レンタルサービスだけでなく、電動スクーターシェアリングサービスやカーシェアリングサービスなどを含めた、全ての公共交通機関が繋がるMaaSプラットフォーム計画を発表しました。
▼ロシアのシェアリングサービスについての記事はこちら

世界一を争うロシアの顔認証技術

セキュリティ領域での事例では、顔認証技術の導入があげられます。
ロシアは世界一を争う顔認証技術を有しており、アメリカ国立標準技術研究所(NIST)も、その技術を高く評価しています。
この顔認証技術を開発するのはロシアのスタートアップNtechLabであり、2015年、ワシントン大学で開催された顔認識アルゴリズムのコンテスト「MegaFace Challenge」でGoogleが開発したFacenetを破り、優勝しました。

現在、同社の技術はロシア政府に提供されており、モスクワ市内に20万台ともいわれるセキュリティカメラのデータが治安当局に提供され、画像データと携帯電話の位置データを組み合わせてデータ解析されます。
顔認証技術は防犯対策としてロシアの小中高校で監視カメラの導入が進んでいます。

さらに、今年モスクワ市内の地下鉄に新たな顔認証決済システムの「Face Pay」に対応した改札口が設置されました。
事前に自分の顔データとクレジットカードの情報を登録しておくだけで、改札ではカメラに顔を向ければゲートが開き、地下鉄に乗り降り可能であり、コロナ禍でマスクをつけたままでも認証が可能です。

引用:mos.ru「Систему Face Pay для оплаты проезда запустили на всех станциях метро」

240の駅があるモスクワの地下鉄ですが、これほどの規模で顔認証決済システムを導入したのは世界初でした。
しかしこのFace Payシステムはモスクワ市民からは不評で、政府による監視強化を不安視する声が多いのが現状です。

一方、新型コロナウイルスのロックダウン中にモスクワ市民を監視するためにこの顔認証技術が使われ、ごみ出しをしただけで逮捕されたり等、違反者摘発には大活躍したと報じられています。
(モスクワのロックダウンでは、ごみ出しで外に出るだけでも違反とされていた。)

このように、国家主導で進めるロシアのスマートシティ政策は幾つもの世界初や世界トップクラスのサービスを提供していますが、一方で国民や市民からの満足度が低い点が特徴です。
国としての発展を優先するロシアだからこそ、スマートシティも急速且つ独自に発展し、国家レベルで奨励された優れた技術を有しています。

いかがでしたでしょうか。
次回は、エストニアを中心にロシア以外の旧ソ連諸国のスマートシティトレンドをご紹介していきます!

投稿者:東 里恵
ロシア留学中に、日本より便利と思われる公共交通機関に驚き、スマートシティに興味を持つ。また多くの海外経験から、各国のテクノロジーや世界のビジネストレンドにも興味を持つ。国際政治や経済安全保障にも関心があり、世界のスタートアップ・エコシステムを様々な観点から分析。
RouteX Inc. では主にリサーチを担当。

RouteX Inc.では毎年ロシアのスタートアップ・エコシステムの現地調査を行っており、首都モスクワ近郊に政府主導で開発が進むイノベーション都市スコルコボを中心としたスタートアップとの連携の強化に動いております。
今後はモスクワやスコルコボだけでなく、ロシアの他の都市へのリサーチへと活動も広げていく予定にしております。
これまでのロシアでの調査活動はこちらからご確認いただけます。

RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、ロシアをはじめとする世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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