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記事一覧 > 市場規模1兆6千億円!ロシアのシェアリングエコノミー事情

急速に拡大するロシアのシェアリングエコノミー

特にコロナ禍前は、世界的に拡大しつつあったシェアリングエコノミー。
ロシアにおいてもこの世界的トレンドは発生しています。

2020年のロシアにおけるシェアリングエコノミーの市場規模は、1兆700億ルーブル、日本円にして1兆6千億円の規模を誇ります。
対2019年比で見ると+39%の大幅成長となっています。

ロシアの2020年度の名目GDPは158.8兆円で、シェアリングエコノミーの市場規模が1兆6千億円、日本の名目GDPは544.4兆円で、シェアリングエコノミーの市場規模は2兆1,004億円(一般社団法人シェアリングエコノミー協会, 株式会社情報通信総合研究所共同調査)であることを考えると、ロシアにおけるシェアリングエコノミーの存在感の強さが理解できると思います。
ロシアでは、電気通信協会РАЭК(Russian Association Electoric Communication)と独立系シンクタンクТИАР-Центр(TIARCENTER)が共同でシェアリングエコノミーに関するレポートを発表しています。
今回は、これらを参考にロシアのシェアリングエコノミーを紐解いていきたいと思います。

C2Cコマース(消費者間取引)を筆頭に成長するロシアのシェアリングエコノミー

2020年のセクター別取引金額は以下のグラフのようになっています。
1位がC2Cコマースで1兆2,570億円、全体の78.2%を占めています。
2位がフリーランスマーケットプレイスで2745億円で全体の17.1%、3位がカーシェアで336億円で全体の2%、以後ライドシェア、民泊、シェアオフィス、シェアサイクル・シェアキックボード、クラウドファンディング、レンタルサービスと続きます。

2019年のセクター別取引金額と比較してみましょう。セクター順位の変動はありません。
伸び幅では、C2Cコマースが+48%(対2019年比)、フリーランスマーケットプレイスが+30%、カーシェアが+6%となっている一方で、民泊が-50%、ライドシェアが-37.0%、シェアオフィスが-33%とマイナスになっています。
新型コロナウイルスの影響で、個人消費と労働の形態が変わり、シェアリングエコノミーの追い風となった一方で、ロックダウン等の行動制限が一部成長を抑制する材料となっていることが伺えます。

引用: РАЭК & ТИАР-Центр, Sharing Economy in Russia 2019
紫色が2018年、青緑色が2019年

セクター別市場分析①
C2Cコマース―広い国土全体にいきわたる物流網が成長を後押し

ロシアのシェアリングエコノミーを牽引するC2Cコマース。下のグラフはC2Cコマースの市場規模です。指数関数的に右肩上がりに成長しているのが分かります。
ロシアでは、地域間輸送システムの成長に連動してC2Cコマースが成長していることがポイントです。特にロシアのデジタル広告代理店大手АВИТО(Avito)が輸送サービスを開始して以降、長距離取引の需要が高まり、2019年には全体取引の47%を長距離取引が占めています。(参考: 2018年32%) 

またC2Cコマースの利用シェアが伸びているのは地方都市で、農村部で2019年には全体取引の31%にまで成長しました。(参考: 2018年 19%)
逆にモスクワとサンクトペテルブルクの二大都市が占める割合は、24%へと減少しています。(参考: 2018年 37%)
ロシアでは田舎に行くに連れてシェアリングサービスがより利用されているのです。

なお2019年にはAvitoとロシア郵便が業務提携を結び、ロシア全土に商品を輸送することが可能になりました。

C2Cコマースの品目別割合を見ると1位は「エレクトロニクス・家電」で34%、 2位は「アパレル・靴」で31%、3位は「子ども用製品」で25%、以下「車部品・カーアクセサリー」「家具」「宝石・アクセサリー」「スポーツ・レジャー用品」…と続きます。

[参入企業例]
Avito
Юла
・Vkontakte、InstagramなどのSNS

Avitoの男性向け衣料品のプラットフォーム
日本のメルカリ同様、出品者にメッセージを送ることもできる。

セクター別市場分析②
P2Pマーケットプレイス(フリーランスマーケットプレイス)―政府主導でフリーランスを支援

C2Cコマースに次いで、ロシアのシェアリングエコノミーを牽引するのがP2Pマーケット(フリーランス・スキルマーケット)です。
P2Pマーケットプレイスとは、個人や組織がものやサービスを対等な立場でやりとりする仕組みのことで、日本ではクラウドワークスやココナラが参入しています。
下のグラフはP2Pマーケットプレイスの市場規模です。
右肩上がりに成長していることが分かります。

ロシアでは2019年に、フリーランスに向けて優遇税制が試験的に導入されました。通常ロシアでは個人所得税は13%および15%に設定されているのですが、優遇税制下では、対個人の売上にかかる税率が4%、対企業の売上にかかる税率が6%にそれぞれ据え置かれました。この結果、優遇税制を利用したフリーランスは33万人を超えました。

この優遇税制対象地域は2019年には4地域でしたが、2020年には23地域に拡大され、2020年のフリーランス市場成長の追い風となっています。

また2019年には、ロシアの民間保険大手のСтраховой Дом ВСК(VSK insurance)が、クラウドソーシングプラットフォーム大手YouDoと連携し、最大10万ルーブルの損害賠償保険の提供を開始したことが、取引の安全性と信頼性を担保する好材料となっています。

[参入企業例]
Avito
Юла
YouDo
PROFI.RU

YouDoの依頼業務一覧画面
テレビを壁にかけてほしい、などの依頼が書き込まれる設計になっている

セクター別市場分析③
カーシェアリング―世界トップのサービス普及率

シェアリングエコノミーの代名詞とも言えるカーシェアリング。
下のグラフはカーシェアの利用回数(百万回)を表しています。
2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により需要が低下しましたが、依然として高いニーズを持っています。
特にモスクワでのカーシェアリングの普及は著しく、2019年には26,000台がシェア用車として登録され、台数において、東京を抑え世界1位になりました。

現在はサンクトペテルブルクでもЯндекс.Драйв(Yandex.Drive)がサービスを開始し、急速に成長しています。
他にもヴォルゴグラードやノヴォシビルスク、トゥーラなどの地方中堅都市でもサービスが普及し始めています。

サービス普及と拡大にあわせて、カーシェアリング市場への投資も加速しています。
例えばロシアのインターネットブラウザ大手のMail.Ruグループは、Proxima Capitalと共同で、カーシェアリング大手YouDriveの経営権を取得しました。
またオリガルヒのドミトリー・ジーミンのプライベートエクイティファンドBMTはBelkaCarを買収しました。
更に、カーシェアリング最大手のデリモービルは最大で40%の株式を公開し、ニューヨーク証券取引所に上場する予定です。

[参入企業例]
Яндекс.Драйв
Делимобиль (Delimobil)
BelkaCar

セクター別市場分析④
その他交通 (ライドシェア、シェアサイクル・シェアキックボード)

カーシェア同様にライドシェア、シェアサイクル・シェアキックボードも成長しています。
下のグラフはライドシェア(上)、シェアサイクル・シェアキックボード(下)のそれぞれの利用回数(百万回)を表しています。

出典: РАЭК & ТИАР-Центр, Sharing Economy in Russia 2019

ライドシェアに関してはフランス系企業BlaBlaCarが大きなシェアを握っています。
驚くべきはその価格で、例えばモスクワからサンクトペテルブルクまでわずか550ルーブル(825円)で移動することができます。ロシア版新幹線サプサン号のエコノミークラスが約4,000ルーブル(6,000円)、S7航空のモスクワ-サンクトペテルブルク便のエコノミークラスが約3,400ルーブル(5,100円)、ロシア鉄道の在来線が約1,700ルーブル(2,550円)であることを考えると、いかに安いかが分かるかと思います。

シェアサイクル・シェアキックボードは、モスクワやサンクトペテルブルクといった大都市以外にも、ソチ、ニジニーノヴゴロド、カザン、クラスノダール、ロストフ・ナ・ドヌー、スタヴロポリなど中堅都市にも広がっています。
シェアサイクル・シェアキックボードは両方ともフードデリバリーとの親和性が高く、実際モスクワではフードデリバリーをする人が多く利用していました。

なお、マーケットでは特にシェアキックボードの成長に注目が集まっており、今後数年以内には金額ベースでシェアキックボードがシェアサイクルを追い越す可能性が高いと見られています。

シェアキックボードで配達するYandex edaの配達員
引用: https://yntymak.ru/item/send-friend/21607?type=itemviewer
[参入企業例]
●シェアライド
BlaBlaCar
поехали вместе!
・VKontakteなどのSNS
●シェアサイクル・シェアキックボード
Samocat sharing Ru
WHOOSH
to GO

セクター別市場分析⑤
その他シェアリングサービス(民泊, シェアオフィス, クラウドファンディング, レンタルサービス)

最後にロシアで成長が始まった新興シェアリングサービスをまとめて紹介します。

●民泊
下のグラフは利用者数(百万人、左)、利用回数(百万回、右)を表したものです。
ロシアでは2018年のサッカーワールドカップロシア大会にあわせて民泊サービス市場が形成されました。ワールドカップ後も、サンクトペテルブルクやカリーニングラードを始めとする一部地域での電子ビザの発行により、外国人観光客の訪露が増加し、それに連動するかたちで市場が拡大しています。
本来であれば2021年のロシア全土での電子ビザ導入にあわせて民泊市場はより拡大すると見込まれていましたが、新型コロナウイルスの感染拡大により、しばらく停滞すると予測されています。

[参入企業例]
Avito
airbnb
ЦИАН

引用: РАЭК & ТИАР-Центр, Sharing Economy in Russia 2019

●シェアオフィス
下のグラフはコワーキングスペースやワーキングスペース(OaaS)の市場規模(十億ルーブル)を示したものです。
OaaS(Office as a Service)とは駅ナカオフィスやホテルのオフィス利用のように、オフィス環境を時間単位でサービス利用できるサービスのことです。
モスクワはコワーキングスペースの数で、ヨーロッパの都市の中で7位に入っています。

[参入企業例]
Regus
Workki
SOK
wework
Deworkacy
рабочая станция

引用: РАЭК & ТИАР-Центр, Sharing Economy in Russia 2019

●クラウドファンディング
他のシェアリングサービスとは異なり、クラウドファンディング市場はやや停滞気味です。下のグラフはプロジェクト数(件、左)、投資金額(百万ルーブル、右)を表しています。
ロシアではクラウドファンディングは企業の資金調達というよりも、むしろ文化的・社会的プロジェクトの資金調達の手段として利用されています。
ここにはロシア特有の国有企業主導の経済情勢、新興スタートアップが誕生しにくい市場環境が関係していると考えられます。
現在はロシア銀行最大手ズベルバンクがクラウドファンディングプラットフォームСберКредо(Sberkredo)をリリースし、ロシア国内のクラウドファンディング市場の底上げに取り組んでいます。

[参入企業例]
planeta.ru
BOOMSTARTER
crowd republic

引用: РАЭК & ТИАР-Центр, Sharing Economy in Russia 2019

●レンタルサービス
まだ規模は大きくありませんが、少しずつレンタルサービスも拡大しています。従来は「買う前に試したい」というニーズが強かったですが、現在は「自分では買えないものを借りたい」というニーズが強まっています。
そのためレンタル対象の商品は高額化が進んでいます。
日本でもエアークローゼットなど衣服のシェアリングやカメラのシェアリングサービスが流行になりつつありますね。

[参入企業例]
Next2u.ru
RENTMANIA
Avito

引用: РАЭК & ТИАР-Центр, Sharing Economy in Russia 2019

このようにロシアではシェアリングエコノミーが急速に浸透しています。
浸透の様子は概ね日本と同様で、まずはC2Cコマース、ついでフリーランスマーケットプレイス、カーシェアが割合上位に食い込んできます。
ただレンタルサービスに関しては大きく異なります。日本では以前からTSUTAYAなどレンタルサービスが活発である一方、ロシアではそもそもDVDなどを購入・レンタルする習慣がありません。この差には、ロシアにおける著作権の概念が関係している可能性があります。私の知り合いのロシア人によれば、つい最近までロシアのデジタルコンテンツはすぐに、且つもれなくインターネット上にアップロードされていました。実際、日本の「東宝」にあたるようなロシア・ソ連の映画供給最大手モスフィルムは、公式YouTubeチャンネルで映画をフルで無料公開しています。こうした事情がDVDレンタルのような、レンタルサービスの入口となるビジネスの参入を阻害する要因となってしまったのかもしれません。

またロシアのシェアリングエコノミーの急成長を支えているのは、45歳以上の中堅年齢層であるとされています。日本では若年層がシェアリングエコノミーの活用により積極的であることを考えると、注目すべき特徴と言えるかもしれません。(出典: PwCコンサルティング合同会社, 国内シェアリングエコノミーに関する意識調査2020, p.17)

仮に今後シェアリングエコノミーが若年層に浸透してくるとなると、日系企業の進出にも可能性が見えてきます。逆に日本での中堅年齢層のシェアリングエコノミーの浸透を先読みするならば、ロシアの事例は参考になるかもしれません。
ただ、日本は他人のものを使用することに対して危機感が強すぎる傾向があり、若年層の方がむしろシェアリングサービスに抵抗がないと思います。

今後も需要がありましたら、引き続きロシアのシェアリングエコノミー事情を分析していきます。

投稿者:穗原 充
東京大学大学院 総合文化研究科地域文化研究 専攻ロシア・東欧研究地域
大学でロシアの都市研究を行う。
同時にスタートアップの人材支援領域で約3年間長期インターンとして働く。
現在はロシアの宇宙開発、都市インフラを中心にリサーチ中。
好きなロシア料理はセリョードチカ(ニシンの塩漬け)のサラダ。

RouteX Inc.では毎年ロシアのスタートアップ・エコシステムの現地調査を行っており、首都モスクワ近郊に政府主導で開発が進むイノベーション都市スコルコボを中心としたスタートアップとの連携の強化に動いております。
また、今後はモスクワやスコルコボだけでなく、ロシアの他の都市へのリサーチへと活動も広げていく予定にしております。
これまでのロシアでの調査活動はこちらからご確認いただけます。

RouteX Inc.では引き続きスタートアップ・エコシステムにおける「情報の非対称性」を無くすため、世界中のスタートアップとの連携を進めてまいります。
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